神話 11 「しかし夜神くんは男性にもモテモテなんですね」 「やめてくれ……」 喫茶店を出ても付き纏って来る流河は、事態を面白がっているようだった。 「彼、あなたと私が常に一緒に居ると言っていましたよね? という事は常に我々を見ているんです。本格的にストーカーじゃないですか」 「そういう言い方するなよ」 「本当の事です。今もどこかから見られているかも」 そう言われるとぞくりとしなくもないが、どちらかと言えば流河の視線の方が不快だ。 「なら、誤解を助長させるから付き纏うなよ」 「それでは東大に入った意味がありません」 「……」 限度を知らない男。 普通の学生なら、一生の命運を賭けて受験勉強をするのに、こいつはたった一つの事件の、一容疑者に接触する為だけに受験するのか。 「それに、僕がレイプされたなんて。当てずっぽうで言うなよ」 「でも当たってたじゃないですか」 ……神門も、本当の事だなんて認めなければ良いのに。 「そう言えば、何故そんな事思い付いたんだ?」 「初めて構内で神門くんに会った時。あなた、震えてたんですよ」 「……」 「あなたともあろう人がそんな怯え方をする相手、しかも相手はあなたに好意を持っているとなると、他には思いつきませんでした」 震えたつもりなど、なかったが。 覚悟なく出会ってしまえば、まだ身体が怯えるのか。 自分で自分の精神の脆弱さに吐き気がする。 「それに、喫茶店でも自分で言ってたじゃないですか。 共通の友人は自分なんだから、神門くんの隣に座るなら自分だと」 「……」 「にも関わらず、あなたは神門くんの隣に座らず、私を隣に座らせる事を選んだ。 心理学的にも、あなたにとって中高を一緒に過ごした神門くんよりも最近出会った私の方がまだ『仲間』としてマシなんです」 「L」と仲間、か。 ゾッとしないが、確かに神門の隣に座ることは考えてもいなかった。 中学生時代は、あんなに身を寄せ合って馬鹿話をしたというのに。 「それは、違うよ流河。前も言ったように僕は探偵Lを尊敬している。 それにおまえも言った通り、頭脳的におまえの方が僕と近しいと思うけど?」 「なるほど……私を『仲間』だと、認識しても不自然ではない、と」 「ああ。正直、中高時代は退屈してたんだ。自分とレベルの合う話し相手がいなくてさ」 「……」 「だからおまえが声を掛けて来てくれて嬉しかった。 例え今はキラ容疑者だとしてもね」 笑顔で言ってやると流河は指を咥え、眠い猫のように目を細めた。 「なるほど……あなたがそんな風に思ってくれているのなら、私もそういう相手として遇しましょう。 今日三限の後、開いてます?」 「あ……ああ。ちょっと病院に顔を出して帰ろうと思っただけで特に予定はないが」 「では、遊びに来ませんか?」 「え?」 「捜査本部に。 勿論お父さんが今大変なのは分かっていますから、捜査の手伝いなどではなく、あくまでも『遊び』にです」 「……」 捜査本部に、行ける……。 それも捜査の手伝いではないから、自分の情報は出さずにただ様子を観察出来る。 というか捜査員のメンバーを知る事が出来るだけでも大収穫だ。 いやしかし、Lがちょっとおだてただけでそんなメリットのない事をするだろうか? 案外幼稚な奴だ……そんな事もあるか……。 「分かった。迷惑じゃなければ、お邪魔するよ」 僕は、初めてあのベンツのリムジンに乗った。
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