神話 7 神門は顔を上げ、初めて傷ついたような顔を見せた。 「おまえはずっと、僕を女として見ていたのか?」 「……そんな、事は」 「なら僕が上でもいいのか?おまえに突っ込んでもいいのか?」 「……」 後で思っても、何故咄嗟にあんな下品な物言いが出来たのかと思う。 屈辱で混乱していたのもあるし、何とかして神門を幻滅させくもあったのだろう。 「……おまえが。望むなら」 「望むわけないだろ!」 「……」 「気持ち悪いよおまえ。僕が好きだって言うが、もしこれ以上したらおまえを憎むぞ」 「……」 「むしろ今でも嫌いになってる」 「……」 我ながら、酷かったと思う。 だが僕も酔っていたのかも知れない。 生まれて初めて、百パーセント相手を責められる状況に。 だが。 「夜神、俺はおまえが、好きだ」 「うるさいよ。バカの一つ覚えかよ」 「だから憎まれても、おまえの中に俺を刻めたら良いと、思うよ」 言い様に、パンツの裾を持って引っぱったので、僕は少し引きずられて片足が抜けた。 「……嘘だろ?」 「悪い……」 剥き出しになった、下半身。 自分の精液で、濡れた腹……。 「神門」 「今を逃したら、もう一生、」 神門が、理性を失っている。 経験上、こいつが一度こうと決めたら、僕でももう覆せない。 だとしたら僕も……覚悟を決めるしか、ないのか……? 「神門……。ならば、“今”を切り離せるか?」 「……?」 「今、おまえに抱かれたら、おまえは僕を忘れる事が出来るのか」 神門の手が止まる。 死にかけた犬のような目で、僕を見つめる。 「……出来なくても、出来ると言うしかない」 「神門らしい物言いだ」 「……」 自分を捨てるような気がした。 だが、この僕をもってしても、無傷でこの場から逃れる方法は思いつかなかった。 「おまえも、」 脱いでくれ、と、目を逸らして声を出さずに囁いたが、神門は正確に読み取って自らのシャツのボタンに手を掛ける。 縦長の窓から差し込む夕日に、神門の身体は見事な陰影を見せていた。 細い印象だが、高校生にしては胸筋が発達していて腹筋も割れ、身体の中心線が見事に凹んでいる。 丸みを見せ、縁が切れている、上腕二頭筋。 僕を抱く男の身体としては合格点だな、などと、見惚れてしまって少し口惜しい。 「アスリートの、身体だ」 「……そうだな」 神門は自慢そうでもなく謙遜するでもなく、何の頓着もなく僕に覆い被さって来た。 胸と胸が合わさる。 意図してかせずか、乳首同士が触れて電流が走ったようにびくん、と震えてしまった。 「神門……」 圧倒的な、質量。熱量。 「神門、ごめん。やっぱり、」 無理だ……! と最後まで言えないままに、乱暴に口が塞がれる。 さっきの丁寧なキスとは全然違う、荒々しい奪うような口づけだった。 「ごう、」 手で、胸筋を押し返す。 だがすぐにその手首が掴まれ、床に押しつけられる。 「やめ、やめ、ろ……」 「……」 神門はやはり何も言わず、片手で僕の胴を抱きしめて唇でそこらじゅうを愛撫していた。 「嫌なんだ、ちょっと、待っ……」 「待たない」 「……神門」 「五年、待った。もう十分だ」 やがて膝の裏を持ち上げられて、神門の骨張った指が肛門に当てられて。 声のない悲鳴を上げてしまう。 「やめろ、汚い、」 指が、入り込んで来る……。 身体の中に、誰も触れたことのない場所に。 「い、や……だ……」 「どこか、感じる所、ある?」 「そん……なの、ない……」 というか、それどころじゃない。 表皮とは違う、薄皮越しのようなもどかしい感触と、奥の内臓に触れられる違和感。 「神門……本当に……許して、くれ」 「そんな弱気な夜神、初めて見た」 「……」 「いつもみたいに自信満々に、『感じさせられる物なら感じさせてみろ』って、言ってみれば?」 「……」 復讐……なのか? 僕の事が好きだなんて嘘っぱちで。 本当は常にナンバー2に甘んじて来たお前の、これは報復なのか。 「悪い……」 謝るな。 謝るな、神門。 指がするりと抜かれ、一息吐いたのも束の間。 まだ目にした事のない神門の、恐らく逞しい一物が当てられた気配がある。 「っつ……!」 息が、止まった。 死ぬほど、痛い。 男のペニスを入れられた気持ち悪さと激痛が相まって、気が遠くなりそうだった。 「痛い、痛い……!無理だ……!」 「ごめん……俺も、きつい、けど……止まれない」 めりめりと、肉を裂いて凶悪な肉が貫く。 ……死ぬ。 「嘘、だ……入っ……て、」 絶対無理だと思ったのに、神門は少しづつ入り込んできた。 抵抗したいのに、一ミリも動けない。 「頼……これ、以上……うっ……」 どこまでも、入り込んで来る。 身体の中が、圧迫されて。 太い楔を穿たれたようだ。 「入っ、た」 「あ……あ……」 涙が、勝手に零れる。 神門が身じろぎする度に、中が動いて吐きそうになった。 そんな僕の気も知らず神門は僕の胴を抱きしめ、首を抱えて長い舌で目尻を舐める。 息も出来ない。 ただはくはくと、口で無理矢理空気を吸おうとしていた。 「……動く」 「待、本、当に、待ってくれ!」 思わず神門の、首に手で、腰に足でしがみつく。 今動かされたら本当に死んでしまうと思った。 「そんな事されたら、嬉しくなってしまう」 「違う!本当に……あ」 「慣れて、来た?俺に」 「……」 痛みが、減っている……。 慣れたと言われては不快だが、括約筋が開いたという事だろう。 「……抜いて、くれ」 「悪い」 僕の絶望を歯牙にも掛けず、神門はゆっくりと動き始めた。 身体が真っ二つに、引き裂かれるようだった。 螺旋階段の裏が、揺れる。 ばさばさと、きっと酷い事になっている自分の髪が埃だらけの床を掃く。 僕はただ、人形のように全身の力を抜いて天を眺めていた。 揺さぶられる度に、神門に穿たれる度に、勝手に涙が零れる。 半開きの口から、声なき悲鳴が漏れ続けていた。 「……早く、終わってくれ……」 「ああ……」 嘘みたいに優しい声で答えて、神門は僕の足を抱え直す。 蛙みたいに開かされっぱなしで、股関節が痛い。 「好きだ、夜神」 「ああ……そう」 もう、どうでも良い。 おまえの蛮行の理由が、僕に対する欲であっても復讐であっても、どちらでも良い。 「好きだ、好きだ、好きだ、夜神」 どんなに澄ました男でも、セックスの最中は間抜けになるんだな。 参考にさせて貰うよ。 神門の動きは、どんどん早くなる。 尻の穴は麻痺している。 ただ股関節は、痛かった。 最後、神門は外に出してくれた。 放尿するように、血塗れの自らの棹を持って僕の下腹に精液を掛ける。 僕はただ呆然と、自分の乾き掛けた精液に神門のそれが降り注ぐのを眺めていた。
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