神話 6
神話 6








はぁっ、はぁっ、という呼吸音が、まるで全力疾走している大型犬のようだと思う。
尻がひんやりして、頭が痛かった。


「っつ……」


目を開けると、薄暗い天井と螺旋階段の裏側。
そうだ、Lの正体……図書館の書庫の……無骨な小部屋。
螺旋階段の手摺りに……ぶつかったのは、僕の頭か。
大丈夫だろうな……と、後ろ頭を触る為に首をもたげると、首筋に何か硬い物が当たった。


「っ!」

「神門」

「……」


首や頬にさらさらと暖かい質量が触れるが、一瞬状況が見えない。
だがすぐに、どうやら先程当たったのは神門の歯で、彼は僕を押し倒しているらしいと分かった。
神門が、というか男が、僕の首に口を付けている……。
また背中から、ざわざわと鳥肌が立った。


「何を、しているんだ……」


彼は僕の言葉に応えず、ただ無言でかちゃかちゃと僕のパンツのベルトを外す。
それから無造作にジッパーを下ろした。
気がつけばジャケットとシャツも肌蹴られ、ネクタイは顔の隣でとぐろを巻いている。
自分が公共の場所で半裸で居る事に、軽くパニックになった。


「何、」


言葉を重ねる前に、ブリーフの中に暖かい指が入り込んできて、躊躇いもなく急所を掴まれる。
決して乱暴ではなく、優しく持ち上げるような触り方だったが、そこは縮こまった。


「放して、くれ」

「……」


これは、僕が知っている神門なのか。
それとも悪い夢か?

夢でないとしたら……最悪だ。
この状況で、大声で人を呼ぶわけには行かない。決して。
独りで神門を説得しなければならない。
出来るか?この、神門か神門じゃないのか分からない生き物に対して?


「神門……分かったから、少し待ってくれ」

「何を」

「話を、聞いてくれ」


神門は顔を上げて何故か酷く優しく微笑んで……いきなり頭を下ろし、僕の陰茎を口で咥えた。


「うわっ、」


有り得ない。
舌が。
熱い、舌が、柔らかく、亀頭の縁をなぞる。
ぞわりと、悪寒が走った。

しかしそれよりも、引き返せる可能性がゼロになった事により絶望の淵に突き落とされる。
押し倒されて局所を触られた程度なら、ぎりぎり友人同士の悪巫山戯で済まなくもないが、もう、無理だ。
なのに。


「気持ち、悪い……」


そう口にしないと、気持ちよくなってしまいそうだった。
いや……。
一旦口を離して睾丸をしゃぶり、裏筋を舐め上げる、その舌使いに。
絶え間なく茎を摩る、その指に。


「神門……」


僕は苦労して頭を持ち上げ、その顔を見つめ続けた。
弓を引いていた、逞しい首筋。
生徒会室で、意見を戦わせた……振りをした。

殆ど笑う事のない。
僕と、僕が書いたシナリオの前以外では、極端に口数の少ない古風な男。

それを思い出さないと、恐ろしい事に勃起してしまいそうだった。

そんな、これ以上ない程男らしい男が、目を閉じて、女みたいに。

……意外と睫が長いな。
鼻筋も、相変わらずきれいだ。
鼻が高いから、鼻先が、陰茎に触れて……。


「っ……」


勃って、来た……。
神門も当然気付いている筈なので何か言われるかと思ったが、彼は表情を変えないまま再び這い上がって来た。
そして、くちゅくちゅと自分の唾液で濡れた僕の陰茎を擦りながら、乳首を舐める。
すると、


「あ、」


くすぐったいような、身体の芯が痺れるような感覚に、思わず女みたいな声が漏れた。
それがどうしようもなくおぞましい。


「気持ち、悪い。やめてくれ」

「好きなんだ」


答えになってない。
神門はますますずり上がり、その顔が僕の真上に、至近距離に来る。
その、少し追い詰められたような、強い光を宿した目。

僕も良く女の子にイケメンだと騒がれたが。
「精悍」と言うのはきっとこんな顔なんだろうな、などと場違いな感想を持った。


「好きだ、夜神」

「聞いたよ……」


その顔が、近付いて来る。
怖い。
嫌だ。
男とキスなんて、一生、する筈はなかったし、したくな、

……!

荒削りな印象の顔に似合わず、柔らかい唇が余計に気持ち悪い。
少しざりざりとした髭の痕。
さっきまで僕の性器や乳首を舐めていた、ぬめった舌。

信じられない……。
神門と、あの神門と、唇を合わせ、舌まで絡ませているだなんて。

怒りとも、絶望とも虚無ともつかない感情に支配される。
僕が……一体、何を、したって言うんだ……?

今ならリュークに、土下座をしてでも助けてくれと頼みたいくらいだが、間の悪い事にというか良い事にというか、全く気配がなかった。
どこかに遊びに行っているのだろう。

神門は器用にも、キスをしたまま忙しなく手を動かして僕を追い上げた。
彼は自分で、こんな風にしているのか。
それとも僕を思い浮かべてしていたのか、
などと考えている内。

ふと油断した時に身体の芯から熱いような切ないような身震いが湧き上がり、僕は射精してしまった。
神門は一旦唇を離し、名残を惜しむようにもう一度唇を押しつけて舌を入れ、また唇を離した後、最後にバードキスをして僕の首を抱きしめた。


「……好きだ。夜神」


いたたまれない……。
人前で、射精をするだなんて。
きっと神門の制服も汚れただろう。


「好きだ……」

「何回、言うんだ……」

「何度でも。おまえに伝わるまで」

「おまえは、」


絶対に僕を振り向かせると言っていた。
それは、こんな事なのか?

不器用な奴だと思ってはいたが。
これでは、あまりにも。


「好きだから、夜神」

「……だから?」

「……」

「好きだから、いっぺんヤらせろって?」






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