神話 3 「だからさ、集客だけを考えるのもどうなんだ」 「神門、コストパフォーマンスって言葉知ってるか?予算という物があるんだ」 「巫山戯るな。俺達は高校生だろ?」 「ああ。偏差値日本一のな。外部からもそれなりに期待される」 「そんな物に振り回される必要はない」 「僕が一年生の頃から生徒会に噛んでいるのは知っているだろう? 毎年、先輩方はそこで苦しんでいた。 集客のアイデアがあれば、それを実行して何が悪い?」 「……」 「大体神門は何がしたいんだ? 大人しくて真面目で、古き良き高校生ですね、と年寄り共の歓心を買いたいのか?」 「……そういうのじゃ、ない。 ただ伝統を守り、大高生らしい、先輩方が来ても懐かしんで貰えるような雰囲気も大切じゃないか? コストパフォーマンスと言うのなら、寄付額も馬鹿にならないだろう」 「それは……」 「だから、ステージは会長の案で良いと思う。 だが門の飾り付けと応援団は譲れない」 「……分かった。その線で行こう」 文化祭でも選挙でも、会議では神門と僕が常に争っていた。 革新の夜神と、保守の神門。 二人の議論に口を挟める者は居なかったが、教師達にも他の生徒会役員にも、良いバランスの二人だと言われていた。 しかし実際は。 「……今日の会議、もうちょっと喧嘩腰の方が良かったか?」 「いや。あれでみんな納得しただろう。 あれ以上時間を掛けても無駄だよ」 「そうだな。その為のシナリオだしな」 神門と僕で事前に話し合い、大体のアウトラインと、そこへ持って行く為の議論のシナリオを書いていた。 例年、何の為に現状維持したいのか説明出来ない保守派と、同じく感情的で自己主張するしか能の無い革新派で全く会議が進まなかったのを見て来ていたからだ。 かと言って僕が全て決めてしまうと、どんな最善策でも独裁的だと批判する奴が必ず現れる。 だから面倒だが毎回一芝居打っているのだ。 全て僕のプラン通りにしていれば間違いはない。 それを分かってくれるのは、神門だけだった。 「そう言えば、ホヅミが夜神の事を色々聞いて来たぞ」 「おまえに?」 「そう」 「それは、神門に話し掛ける口実だろ」 「まさか」 「神門が思ってるより、神門はモテてるよ」 「揶揄うな。 夜神が大学入るまでは女と付き合わないって公言してるからだろ」 「おまえだって好きな子くらいいるだろ?無理して僕に付き合う必要ないのに」 「別に、」 神門は何故かぴくりと眉を寄せた後、溜め息を吐く。 「無理なんか、してない。俺が、夜神に付き合いたいんだ」 実際、インターハイで弓道日本一に輝き、目立つ機会も増えた神門は女子に人気があった。 何かと僕と二人で大高のツートップと言われている。 その事も、それでも事実上殆ど全ての面に於いて僕の方が上だという事も。 また、それを神門も僕も認めているという状況も、全てが心地よかった。 僕はいずれ大勢の人間の上に立つ人間だ。 今は一つの学校に過ぎないが。 常に神門のようなポジションで物わかりの良い右腕が居てくれるとやりやすいのだが、今後はそうも行かないだろう。 高校三年生になり、生徒会を引退すると勉強も追い込みに入る。 学校も休まず、塾の課題もこなして自分で分析した自習も抜かりない僕は、その頃には東大に首席で合格する自信があった。 実際、このまま全国一位を維持していればそうなるだろう。 そして、秋になり。 目標と言える目標が、なくなった。 後は全教科満点くらいしか思いつかないが、今まで凡ミスをした事がなく、教科書も参考書も全て完璧に暗記している僕なら、それも達成出来てしまうに違いない。 もう勉強する必要もない。 が、心配性の母にグレたと思われるのも面倒だし、他にやる事もない。 僕は惰性で授業を受け、勉強を続けた。 ……退屈。 人生とは、実に退屈だ。 人並みの、いや人の十分の一の努力で、上位一%に入れてしまう。 自分は間違えてこの世界に生まれてしまったのではないかとも思った。 まるで一生小学校を卒業出来ないような、退屈。 そう言えば、生徒会を引退してからは、神門と話す機会も減ったな……。 神門と話していた時だけはそれなりに楽しかった。 もう二度とあんな奴には出会えないだろうが。 大学に入れば、社会に出れば、何か変わるだろうか……。 変わらないだろうな。 そんな、軽い絶望に苛まれていた時。 僕は、デスノートに出会った。 「死神か……」 「驚いてないよ、リューク。……いや」 「待ってたよリューク」 ペン一本で奪えるのは、人の命だ……。 何晩も寝ずに悩んだが、このデスノートが僕の元に来たのも運命だろう。 何より、この状況でデスノートを使わないのであれば、僕はこの世に生まれてきた意味もないと思った。 僕だけが成し遂げられる事だ。 世界を、この手で変える。 真面目で心の美しい人だけの世界へ。 そして僕は、新世界の神となる。
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