Strong smile 3 夜神は起きあがり、私の脚の間に顔を伏せて 生真面目な表情で舌を出した。 舌の先で触れたかと思うと、一昨日とは違って一気に口の中に含む。 「……っ!」 思わず息を呑むと、銜えたままニヤリと笑った気配がした。 「どういう心境の、変化ですか?たった二日で随分達者になったようですが」 答えずひとしきり舌を使い、私が硬くなって来て初めて 納得したように顔を上げる。 「今日ネット動画で色々見たら、どうも僕はうぶだったようだから」 「そうですね」 「こういう事を、同じ男が出来るなら、僕にだって出来る」 私も格闘技は録画を見て覚えた口だが、夜神も目で見た事を 体で再生する能力に長けているらしい。 加えて、身体能力に差がない誰かが出来た事なら、それが何であれ、 自分にも出来ない筈はないという強烈な自信。 理性をねじ伏せて汚れを受け入れてしまう事も出来るタイプのようだ。 これは幽閉中に否応なく獲得してしまった性質かも知れないが。 それから夜神は、わざと濡れた音をさせながら、娼婦のように私を啜った。 そっくりな別人に入れ替わったのか、多重人格かと疑いたくなる程に淫らに。 しかし私がこれ以上ない程張りつめた時、不意に離れて見上げた 冷酷なまでに理知的な瞳は、間違いなくあの、夜神月だった。 「来て、いいよ」 最初と同じように自ら横たわり、足を開く。 夜神の口淫に、知らず流されていた私も、操り人形のように その間に膝を突く。 そのまま、本能の赴くままに突き入れ…… 「なわけないじゃないですか」 「何が?」 「昨日何度も聞いたでしょう?あなたに痛い思いさせたくないんですよ」 「いいって。僕の事は気にするなよ」 気にならない訳がない。 このまま続行して自分だけが気持ちよくなって間抜け面を晒すのは ごめんだった。 それに。 理性に蓋をして動けば、何をしてしまうか、自分でも分からない。 ……夜神を、今は憎んでいない…… その言葉に嘘はないし過去をどうこう言うつもりもないが ワイミーに成り代わり、私を支配しようなどとした小賢しさは今も許せなかった。 飼い犬にするつもりだった夜神の方が、 私を飼い慣らそうと狙っていただなんて。 無意識に苦しげな表情を求めて、怪我をさせてしまわないとも限らない。 「せっかくのローションですからもっと活用しましょう」 自分をクールダウンさせる為、意識して低い声で言う。 指にたっぷり垂らして、夜神の後ろに触れた。 微妙に腰を浮かせて逃げようとしたが、頭がベッドヘッドに当たって 諦めたようだ。 我ながら意地が悪いと思う。 わざと入れずに入り口に触れただけで止めておくと、 腰を落として戻した時に、 「うっ!」 夜神自ら、指を自分の中に埋め込んだ結果になった。 「痛く、ないですよね?」 ぬめる指が、中でもある程度動ける余裕を持っている。 昨日の感覚からすると、痛みは少ない筈だった。 「そこ、嫌、だって、」 また指を増やし前立腺を探って触れると、悲鳴のような声が上がった。 ここは、強く押すと苦しいが、優しく撫でれば……。 「竜崎!!」 強い声に、一瞬動きが止まってしまったが、その顔をよく見れば 紅潮した頬、昨日より潤んだ瞳。 そして何より、熱を持って勃ちあがり始めている、中心。 「『竜崎』で良いです。今は」 「!」 夜神は、この場で絶対したくなかったであろう失言に、 かつて友人であった頃の名を呼んでしまった事に。 この上なく、打ちのめされているようだった。 見つめればいつでも強い視線を返してきた目が、 今は堅く閉じられてしまっている。 私はひっそりと嗤い、ローションを自らにくまなく塗った。 ひくひくと震える夜神の後ろに当てると、顔の両横で枕の端を 握りしめていた左右の指の関節が、白くなる。 「月くん」 「いいよ……来いよ」 「ええ。入れます。が、その前に。 その体勢、出産でもしそうなんですが」 出来るだけ私に触れないように、枕を掴んで歯を食いしばる夜神は 全身で私を受け入れようとしていた。 全身で私を拒絶していた。 「せめて私の肩に縋るとか、腕を掴むとかしませんか?」 「絶対に、嫌だ!」 仕方ない……。 結局は彼を手なづける事など、出来はしない。 私はため息を吐くと、夜神の中に押し入った。
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