Strong smile 2 用心の為にホテルのPCスペースを避け、二番目に近いネットカフェに入る。 今日依頼のあった事件に関して二つ三つ処理をし、 教授のデータがないか調べる為に、ヤードのコンピュータにアクセスを試みた。 やはり、セキュリティが強化されているか。 一年前のパスワードは通用しない。 これは時間があれば夜神に頼んだ方が良い事案だろう。 代わりに、かの大学にアクセスしてみた。 教授は、特任教授というのか、今期は週に一度専門学科の授業を 受け持っているだけだ。 やはり健康状態が思わしくないのだろう。 特筆すべきデータもなく、少し潜って教授の自宅の住所と メールアドレスを手に入れる。 それからほんのついでに、男性同士の行為のマニュアルサイトを見に行って 気が付けばもう11:30を過ぎていた。 慌ててケーキを頼み、生クリーム部分を食べて店を出た。 ホテルの部屋に帰り着いた時は、既に12:15になっていた。 夜神は、私が部屋に入ってもぼんやりとノートPCのモニタを 眺めたままだった。 「意外と、時間に几帳面なんだな」 椅子に凭れて、顔も上げないくせに開口一番嫌味を言う。 「時と場合に寄りますが、弱みを見せたくない相手には、まあそうですね。 シャワー、使って良いですか?」 「ああ……僕はもう、洗った」 「そうですか。良い心がけです」 「買い物は、行ってないんだけど」 「生でして良い訳ですね? お互い身持ちが悪い訳ではないので良いんじゃないでしょうか」 本当に行っていないと思った訳ではない。 しかし夜神が性病を患っている可能性はゼロなので、 バスルームに向かいながら適当に返事をする。 「……嘘だよ。ローションと、『フランスの手紙』を買ってきた」 「今時 French letter なんて言う人いませんよ。 外に出たのなら、気を利かせてついでにセクシーな下着でも 買ってきて煽ってくれれば良かったのに」 「僕は、薬局にしか行っていない!それにそんな店、昼間っから」 「予定通り、12:30に開始出来るようにしておいて下さいね」 何か不機嫌に言っているの遮ってシャワーを出し、 ドアを閉めた。 髪を拭きながらベッドルームに戻ると、夜神は既にベッドの中にいた。 キルトをめくると、何も身につけていないようだ。 「良い覚悟ですね」 「開始というのが、服を脱ぐ所からなのか、入れる所からなのか、 分からなかったから」 憮然とだが、敢えてあからさまな表現をする所に気の強さが滲み出ている。 「余計な手順はいらない。さっさと入れて、さっさと終わらせよう」 夜神はそれだけ言い捨てて、唇を引き結んだ。 キスや愛撫は拒否するという事だろう。 本当に、そこまで嫌なら行為自体拒めば良い物を。 未だかつて、こんなに無味乾燥な性交をした者がいただろうか。 強姦であろうが商売であろうが、行為が成立するという事は 少なくとも片方は濡れていなければならない。 それなのに二人ともこんなに乾いていて……うんざりする。 拒みながら誘う夜神にも。 こんな事でもなければ関係を築けない自分にも。 「ローション……使いますね」 肩幅に開いていた足の間に膝を突くと、 脚同士が触れるのを恐れるように大きく股を広げて膝を立てる。 ご丁寧に封を切ってあったローションを手に垂らし、その奥に触れると やはり夜神自身は萎えていた。 余分な手順はいらないとは言われたが、全く素面の相手に 自分だけ興奮して腰を振る羽目になるのも嫌なので、生まれて初めて 生きている男の物に触れる。 だが夜神がそれを止めなかったのは、それで勃起しない自信があったのだろう。 実際、ぴくりとも反応しなかった。 「おまえは?勃つ?」 「頑張ってみましょうかね」 「舐めた方が良いのなら、舐める」 「……」 こんな事でも、一つ覚悟を決めた夜神は、やはり美しいと思った。 常に緊張で張りつめた、彼の凄絶な表情の変化をずっと見ていたい。 そんな酷く場違いな事を思う。 「お願いします」
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