Sleepless night 3
Sleepless night 3








結局、デンマーク人探しはモギ達にまかせ、私達は
明日以降に備えて眠る事にした。
展開如何によっては暫く眠れない夜が続くかも知れない。

夜神が、当然のように私の部屋に来るのが今晩は特に不快だったが
拒めば何が私の琴線に触れたのかと詮索される。
弱みを見せるのは絶対に嫌だった。


「今日は、歩きなれない靴での外出で、疲れました」

「ああ、そうだね。ゆっくり休むと良いよ」


夜神が、ぽんぽんと布団を叩きながら、イッキューサンの話をしだすと共に
寝たふりをする。
しばらく低い声で話は続いたが、すぐに止まった。

私は少し寝たが、夜神はその間ももしかしたらハードな運動をしていただろうから
珍しく早く眠ったのだろう。

少し経って目を開けると、目の前の顔はやはり目を閉じていた。
何度見ても、端整というよりは嘘臭い寝顔だと思う。

それでも見られていない事は珍しく、何となく観察していると、
ふと。
夜神の耳の後ろ、項に近い首筋のチェーンの下辺りに、
小さな……鬱血があるのを発見した。


ラブホテルで、髪を調べた際には無かった。
ギリギリ、本人が鏡を見た時には気付かない位置。

……Lか……。

気付くと、何故か外耳に血が上る気配がした。

痣が付いたのは、今日、Lが夜神の「検査」をした時。
それ以外考えられない。

そう思うと、シャンプーの匂いの中に、Lの精液の匂い(勿論嗅いだ事などないが)が
混じっている気がしてくる。


不快な……。


勿論、今までだって状況は、Lと夜神が只ならぬ関係を結んでいる事を指していた。
私だってそれに納得していた。

だが、こうして物的証拠を見てしまうと。
それは妙に生々しく、現実感を伴って。
その質量は……私を息苦しくさせる。


「ん……」


夜神が、小さく身じろぎをして上を向いた。
痣が、視界から消える。

黒い睫毛の落とす影。

チラチラと、微かに空気を振動させる金属の鎖。

その鎖に……後ろから覆いかぶさって、唇を付ける、Lの幻影。


「……!」


私は、思わずぶるっと震えて身を起こした。
嫌悪感……そして何故か、それとは相反する反応。

自分で驚いたが。
とても久しぶりに……硬くなった、部分がある。

いつからか、時折私の意志とは関係なく漲る何か。
滅多にある事ではないので、そうなった時はその違和感を観察する事が多い。
そうしている間にいつしか勝手に元通りになるのが常だが、今日は……。


「……ニア?」


突然、眼下の瞼がぱちりと開いた。

ちっ。
何故起きるんだ。
恥ずかしい事でもないが、夜神に知られるのは腹が立つな。

何せ夜神は、Lや私の弱みを目を皿のようにして探している。
きっと私の勃起を知れば、僕に欲情したのかとか、相手をしてやろうかとか、
下品に揶揄うだろう。

いや……実際に男娼のような真似をする可能性もゼロではない……。

などと考えていると。
夜神は微かに眉を顰めて体を起こした。
思わず私は、膝を抱えて体を硬くする。


「どうした?」

「別に」

「……」

「……」


不自然に落ちた沈黙。

気付かれた……。
夜神が問い詰めて来ないという事は、既に何が起こったか
悟ったという事だろう。

くそっ!


「……何なんですか。寝たらどうですか」

「ごめん」

「……」


……何故、そこで謝る?
訳が分からない。

夜神は、揶揄うような顔でもなく私をちらりと見た後、
窓の方へ目をやって、ブラインドが閉まっている事に気づいたのか
今度はドアを見た。
そして。


「……時々、おまえが男だって事を忘れそうになるよ」


やはり気付いていたか……。
眉間の辺りがカッと熱くなる。


「ああそうですか。じゃあ何なんですか」

「何って事はないけど……」


夜神にしては歯切れ悪く、困ったような顔をした後、


「ちょっと思い出した作業があるからモニタルームに行って来る。
 30分くらい」


ベッドから降りて、パジャマの上に上着を羽織った。
まあ、この空気は気まずいので有難いが……。

……いや、ちょっと待て。
その30分って何だ。私がこっそり自慰でもする為の時間か?


「夜神。待って下さい」

「何?」

「行かないで下さい」

「でも……」

「大丈夫ですから。傍にいて下さい」


実際にはしなくても、今部屋を空けたらこいつは私が自慰をしたと思うだろう。
それは耐え難いことだった。


「本当に大丈夫です。いつも通りにして下さい」

「……」


夜神は、少し躊躇った後、再び上着を脱いで
ベッドに入ってきた。
だがどこか遠慮がちで、体を離すようにしている気がする……。


「いつも通り、触って下さい。大丈夫ですから」


自分で、何を必死になっているんだ私は、と思うが、
夜神も少し苦笑いのような表情を浮かべて、ぽんぽんと私の頭を撫でた。

それから、私の肩を掴んで後ろを向け、常にはなく背中から抱くように
添い寝する。
私の局所に触れないようにという配慮だろうが。

こいつはまさか自分にキスマークが付いてるなんて気付いてないんだろうな。

背中が、とても温かい。
体を丸めた体勢も楽だし、悔しいが落ち着く。


私はすぐに、本物の眠気に襲われた。
自分でも気付かない間に、熱は去っていた。






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