Sleepless night 2 「ニア、続けて下さい」 結局Lは何も言わず、夜神の言葉をそのまま飲んだようだった。 「はい。アイザワ達は夜神家の墓所……ロッカーも調べてくれたそうですが ロッカー自体にも、夜神総一郎の骨壷にも、夜神月の骨壷にも それぞれの中身にも異常はなかったそうです」 「そうですか」 「ちょっと待て。僕の骨壷も入ってるのか?」 夜神が、妙な所に突っかかって来た。 そんな事どうでも良いだろうに、面倒な。 「当たり前です。日本であなたの葬式もしたと言ったでしょう?」 「中身は?」 「魅上の骨です」 「は?マジか!何故だ?」 「意味はありません。身寄りがなく、あなたと体格が似ていて 何より一番手近に手に入った死体、というだけです」 「まさかお前……その為に魅上を殺したのか?」 「それこそまさかです。偶々ですよ。 十日の時差があるので、あなたの死体を冷凍保存したとか 苦しい言い訳をしましたし、死体に細工するのも結構大変だったんですよ?」 「でも、そんな。……父と、何の面識も無い魅上が同じ墓に……」 その不心得顔を、意外に思う。 夜神には絶対に宗教はないと思っていたし、死んだ後の体の行方など 気にも留めないと思っていた。 「二人ともあなたが殺したようなものです。 それに、死んだ後、骨がどうなろうが生前の意識には何ら関係しません」 「そうだけど」 「霊魂と言う物があるなら尚更、あなたに忠誠を尽くし、人生を狂わされ、 先に死んでいった彼に、安らかに眠れる場所を与えても良いでしょう?」 「……」 全く、下らない。 今のお前には、夜神家に関する事の心配をする義務はおろか 権利すらないと言うのに。 「それでニア。急ぎで報告したい事はそれではないでしょう? 一体何ですか?」 Lが、仕切りなおすように口を開く。 いよいよ本題だ。 「以上、教授を数人に絞れている事と、今の所夜神がデスノートを隠匿している 痕跡がないという事を踏まえて聞いて頂きたいのですが、 金髪からコンタクトがありました」 「何だって?!」 「リアルタイムで話したい事があるようです。 チャットを申し込んで来ました」 「馬鹿な……無用心にも程があるだろう」 「ですね。当然対策は練っていると思いますが、確保のチャンスでもあります」 言いながら、メール画面を開いて二人にも見せる。 愛想も建前も無い、それが逆に馴れ馴れしくさえ感じられる文章だった。 『こちらが用意するチャットルームでおしゃべりしないか? Lが居るなら呼んでおけ。デスノートも手元に置いておくがいい』 だがリアルタイムでアクセス元を解析し、成功すれば居場所が分かる 可能性がある。 上手く行けばそのまま逮捕する事も不可能ではない筈だ。 「チャットですので私がキーボードを打つ必要はありません。 L、打ちますか?」 「そうだな、向こうも教授が出て来る可能性もあるし」 何故お前が口を出す、夜神。 仕方なく、答える為に今度は送信済みのメールを開いて示した。 「……そう思って、四人の教授候補者の現在の居場所を突き止められるか、 そこに捜査員を派遣できるかどうかをアイザワにメールで問い合わせました。 まだ返事はありませんが」 そこへ、またメールの着信音が鳴る。 タイミング良く、件のアイザワからだった。 だが……。 「NO,WE COULDN’T」 と一言だけ書いてある。 私を何だと思ってるんだあいつは……! 「そういう時は、模木さんに連絡するんだ。 僕に相談しろよ」 「……」 夜神は私の答えを待たず、後ろから手を伸ばしてきてキーボードを叩き始めた。 近い……シャンプーの匂いで噎せるようだ。 そしてモギの携帯アドレスを選択し、アイザワに送った文章を引用して 何とかして欲しいと書いて送信する。 即、八分時間が欲しいと返信があった。 「やっぱり模木さんは仕事が速いですねぇ」 Lと夜神が、顔を見合わせて笑った。 ……何だか面白くない。 モギは私も良く知っている。 驚く程口の堅い男だ。 だが、事務処理が速い方だというのは知らなかった。 Lと夜神が、共通認識を持っているのが面白くない。 もっと面白くないのは、私自身がそれを面白くないと思っている事自体だ。 客観的事実とは無関係に、夜神のやる事為す事全てが気に入らない。 そんな自分が、気に食わなかった。 数分後、モギから、ドイツ人とアメリカ人の二人は把握出来た旨と、 それぞれ捜査員二人づつで良ければ派遣できると返信があった。 ……と言う事は、恐らく教授は自称デンマーク人の男なのだろう。 礼を言い、ドイツ人とアメリカ人の写真を隠し撮りで良いので 一応入手して送って欲しいと返信する。 すぐに、二人ともホテルと研修施設の部屋に居るので難しいが 努力すると返って来た 「どうします?デンマーク人の居場所も把握できるまで チャットを引き伸ばしますか?」 「そうですね……明日の日中で良いかどうか、聞いてみて下さい」 携帯電話を持って来て返信すると、 『随分ゆっくりだったな。 明日の正午、http://www.……で待つ。 デスノートを忘れるな』 すぐに返信があった。 「……デスノートの事は、完全に突き止められてますね」 「まあ仕方が無いだろう。各国の要人も一部のマスコミも知ってるしね」 「持っていないと返信しますか?」 「いえ、ただ了承の旨だけで良いでしょう。 デスノートに関しては後から何とでも言えます」 そこで、ただ「R」とだけ返信しておいた。 「ところでL。こちらはどこのPCからアクセスしますか?」 「このPCで良いでしょう」 「僕もそう思う。昔ハッキングしようと思った事があるけれど無理だった」 「昔は昔、です。当時のハイエンドでもそれから何年経ってると思ってるんですか」 「おや。私のセキュリティ対策に不備があるとでも?」 そうではない……。 今が大衆向けコンピュータの発達が目覚しかった1990年代ならまだしも、 性能が殆ど頭打ちになってから久しい。 Lが設定したPCなら、きっとペンタゴン程度には安全なのだろう。 だが夜神が……、 いや、やめておこう。 「そうは言っていません」 「大丈夫だよ。かなり特殊な暗号化が為されている」 「それにいざとなったらこのビルを捨てれば良いんです。 月くんをまた外に出すようなリスクは負いたくありません」 「部屋に監禁しておいては?」 「何言ってるんだ。ハッキングなら僕に任せろよ。 きっと金髪の居所を突き止めて見せる」 Lが夜神を信用していないと、明言した事によってまた少し気が軽くなった。 我ながら馬鹿馬鹿しい、そこいらの女子中学生並みのメンタリティだ。 自分自身のこんな一面に気付かせる、夜神がやはり鬱陶しかった。
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