Sleepless night 1 PCの前で転寝をしていると。 珍しい着信音に目が覚めた。 携帯電話からの転送メールだ。 私は屋内では携帯を携帯しない。 外出中以外で、私の携帯電話に連絡して来る者は基本いない筈なので 滅多に聞いた事のない音だ。 嫌な予感がして、最前読んでいたアイザワのメールを最小化する。 現れたのは、英語のメールだった。 「L」 屋内通信のマイクを使ってLの部屋とバスルームに呼び掛ける。 カメラのスイッチは、一瞬迷ったが入れなかった。 『はい』 「お取り込み中ですか?」 『いえ。夜神の体内の[検査]は終わっています』 「そうですか。申し訳ないですが、出来れば早くご報告したい事があります」 『分かりました』 それから五分程でLと夜神は現れた。 「終わって」いたのが本当だとしたら少し遅いが、嘘だとしたら早すぎる。 夜神が少し疲れているように見えた。 「夜神は、シャワーを浴びたんですね?」 「……」 「今日の変な髪形より、濡れ髪の方がまだしも似合ってますよ」 精一杯愛想良く笑ったつもりだが、夜神は不快げに 小さく顎を上げただけだった。 それを横目で見ながらLが口を開く。 「報告したい事とは?」 「……まず、アイザワからのメールです。 この一ヶ月で車椅子あるいは寝たきり状態で入国した外国人は35人。 内、1/31時点でまだ出国していなかった者は10人」 「可能性がない者のデータは不要です」 「はい勿論。可能性が高いのは、三人の白人男性です。 関西国際空港から入国したドイツ人医師、中部国際空港から 入国したデンマーク人観光客、成田から入国したアメリカ人技師。 それぞれ自称です」 教授は、80%の確率でこの中に居るだろう。 パスポートを偽造して、空港を中継して来たか。 「有色人種は?」 夜神が用心深い質問をしてくる。 勿論そちらもチェックしてあるが。 「五人居ますが体格的に変装は無理です。あとの二人は女性です」 「でも西洋人で大柄な女性だったら、変装は可能だぞ」 夜神に言われると気になって来る……。 後でもう一度アイザワに洗わせるか。 いや、レスターかジェバンニを呼んで調べさせるか。 「金髪は、絞れなかったようです。 健常者を装って入国したようですね」 「写真が手に入れば早いんだけどな」 「そうですね。各国、出入国者のパスポートの写真データを 何年か保存するシステムを導入すべきです」 夜神が驚いたように目を見張る。 「何ですか?」 「いや、おまえが犯罪予防の提案をするなんて 思いがけなかったから」 「……確かに私は謎解きが好きですが、犯罪が好きな訳ではありません。 キラではありませんが、犯罪がなく、探偵が不要な世界が 理想だとは思っていますよ。実現不可能ですが」 夜神が、まるで子どもの発表会を見る親のように微笑したのが 気に食わないが。 「続けます。警察局が、私がアマネに接触した事に 気付いた様子はありませんでした」 「ニア。ちょっと良いですか?」 「はい」 「月くん……。今はお互い隠し事をしていて良い状況じゃないのは 分かっていますよね?」 「ああ。デスノートが記憶を取り戻せる事を隠したまま、 ニアをミサに会わせたのは悪かった」 「目的は何ですか?」 「……」 Lが、あまりにもストレートな質問を投げる。 そんなに正面から訊いても真っ当な答えが返ってくるとは思えなかったが そこは逆にLの駆け引きなのかも知れなかった。 「夜神月」 夜神は、目を伏せて考えている。 コイツはコイツで、ここで必要なのは必ずしも真実ではなく、 Lを納得させる言葉だと感じているのだろう。 数瞬で恐らくあらゆる手筋を読み、計算をし尽くしたらしい。 間が不自然になる寸前に、夜神は口を開いた。 「……すまない。本当の目的は、本体が存在しない切れ端が デスノートとして機能するかどうか確認したかったんだ」 「で。どうでしたか?」 「恐らくデスノートは機能する。 ニアは、ミサが僕が月である事に気づいたと言った。 記憶が戻ったからこそ、今僕が身を隠している事に納得したのだろう」 「……そういう情報は、共有してください」 「悪い。いつかお前たちとの交渉の材料に使えると思ったんだ」 恬淡とした悪びれない態度の夜神に、Lも私も言葉が無い。 ただ、その言葉に嘘はないと直感した。 夜神は、「武器」を手に入れたがっている。 私達と対等に渡り合える「武器」を。 私を手懐けようとするような言動も、Lと私の信頼関係を崩そうと図る事も 今回のデスノートの情報の件も、全てその一環なのだろう。 鬱陶しい……。 Lの情けに縋って辛うじて命を繋いでいる大量殺人鬼の癖に 思い上がっている。 夜神のせいでスムーズな「L」の運営に支障が出る可能性を考えると Lがこいつを処罰しない事に納得が行かなかった。
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