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「こういう所、初めて?」

「当たり前でしょう」

「大丈夫。怖くないよ」


夜神が私の肩を抱いてラブホテルの廊下を進む。
この手の嫌がらせにはムカムカするが、自分から誘ったのだし
勝手の分からない場所だしで、仕方がない。



部屋に入ると夜神はぱっと離れてコートを脱ぎ、どすんと乱暴に
ベッドに横たわった。


「で?本当に足を休めたい訳じゃないんだろ?何のつもりだ?」

「態度が極端ですね」

「廊下には監視カメラがあったから」

「ああそれで」


別に無言で入ったからと言って不審には思われないだろうが。
本当に白々しい。


「休むならこっちに来いよ」


夜神はにやりと笑いながらひらひらと手を振った。
ベッドに誘われているようだが、勿論ごめんだ。


「嫌です」

「いつも一緒に寝てるじゃないか。今更恥ずかしがらなくても良い」

「恥ずかしがってませんし」


襲われないようにベッドから距離を取りながら言うと
夜神は笑いながらシャツを脱ぎ始めた。

脱ぎ終わった所で、私が止めない事を不審に思っている顔になる。
無言で物問いたげに私を見た。


「どうしたのですか?全部脱ぎなさい」


顎をしゃくると、眉を顰める。


「どういう事だ?」

「さっきあなたは、私の視界から消えました。
 しかもあなたの墓の前で。
 ですから、戻る前に身体検査をさせて下さい」

「……デスノートか。
 あの短時間で僕がデスノートを手に入れるのは無理だろ?」

「分かりません。あなたなら何とかしそうです」

「しかも、山本が来て僕が藪に入ったのは偶然じゃないか」

「偶然ですが、そうでなければあなたが無理矢理『偶然』を
 作り出したかも知れない。
 私を、アマネの居場所へ誘導出来たのと同じように」

「……」


夜神は言い返さずに私を睨む。
やはり、そうだったか。

負けじと睨み返していると、観念したのか乱暴にコートとシャツを掴んだ。
私に向かって投げ付け、ブーツとパンツも脱ぎ始める。
私は座り込んで、それらを検分し始めた。





「随分念入りに調べるんだな」

「命が掛かっていますから」


ポケットや裏地だけでなく、縫い目が切れている所がないか、
紙が入っているような感触がないか、念入りに調べる。


「後は、下着だけですね。脱いで下さい」

「……」


夜神は嫌な顔をしたが、何を言っても無駄だと分かっているのだろう、
黙って脱いで放って寄越した。
やはり、どこにも怪しい点はない。


「分かっただろ。僕はデスノートを隠していないし、手に入れてもいない」

「まだです」


私はゆっくりと、ベッドに上がった。
膝立ちで夜神に近づこうとすると、膨らんだスカートが邪魔をするが
そんな事を気にしていられない。


「すごい絵面だな。おまえも脱いだら?……全部」

「黙りなさい」

「アンダーパンツは穿かせてくれ」

「まあ、いいですけど」


下着を穿き終わるのを待って夜神の頭を抱え、丁寧に髪の中を探る。
ワックスでばりばりしていたが、紙片らしきものはなかった。


「もういいだろ?」

「いいえ。ちょっと横になって下さい」


夜神はニヤニヤ笑いながら、座った私の太腿に頭を乗せる。


「まさかニアに膝枕をして貰う日が来るとはね」

「動くと危ないですよ」

「……おまえまさか」


そのまさかだ。
私は目の前に来た夜神の耳の穴に、ピッキング用の針金を突っ込んだ。


「痛い!」

「静かにして下さい。怪我しますよ?」


穴の中を探りながら言うと、夜神は声を潜める。


「何考えてるんだ。いきなり、そんな物突っ込むなよ。
 耳の穴なんかにデスノートが隠せるわけないだろう」

「分かりません。一センチ四方の紙片があれば、表裏でLと私くらい
 殺せますからね……」

「奥っ!奥に当たると、本当に痛いから!」


悲鳴を上げる夜神に、思わず込み上げる物を禁じ得ず
「反対を向いてください」と笑い混じりに声を掛ける。
夜神はそれから、感心にも声を上げないように必死に耐えていたが
やはりびくびくしていた。


「では、上を向いて下さい」

「鼻も調べるのか?」

「当然です。古代エジプトでは、」

「……」

「ミイラを作る時、鼻の穴から棒を突っ込んで脳味噌を搔き出したそうですね。
 くしゃみをしないように気をつけて下さい」

「おまえ……本当に、良い性格してるね。Sだろ」

「どちらかというとMです。絶対にSではありません」


馬鹿馬鹿しい。Master か Slaveか選ぶなら、確実にMasterだ。
誰が好き好んで支配されたがるもんか。
と思うが、好き好む者もいるのだから人の性癖とは分からない。


「嘘つけ!」

「あなたはSなんですか?」

「……どちらかと言うと」

「そうですか。ドMかと思っていました。喜んで貰えてよかったです」

「誰がだ!おまえこそマゾヒストならそのロリータ服も喜んで着てるんだな?」

「何ですかそれ。とにかく黙ってください」


私は同じ要領で、両鼻の穴と口の中も調べた。
終った時、夜神はぐったりと力なく横たわっていた。


「……信じられない奴」

「ですから、命が掛かっているんですから。
 考え付く限りの穴を検査するのは当然でしょう」


言うと、夜神は今更ながらに気付いたらしく、更に青ざめる。


「頼むから、やめてくれ。っていうか汚れて無理だろう?」

「洗って乾かせば大丈夫でしょう。というか、病院か花屋で
 ノートを入れる小さなプラスチックバッグ位くすねる事が出来たでしょう?」

「そんな事してない!」


夜神の悲鳴を聞いて、満足したので私は手を緩める事にした。


「では、選ばせてあげます」

「……」

「肛門の中を検査するのは、Lと私、どちらが良いですか?」

「……」

「どちらでも良いですよ?」


夜神は歯を食いしばっていたが、子ども扱いしている私と
体を許している(らしい)L、比べるまでもないだろう。
しばらく見ているとやがて小さな声で


「……L」


と答えた。


「分かりました。では、尿道と肛門の検査はLにして貰いましょう。
 でも本部に戻るまでは、トイレに行かないで下さい。
 行きたくなったら私の前でして下さい」

「尿道って……」

「可能性の問題です。Lとあなたがどんなプレイをしているのか知りませんし。
 尿道って鍛えられるんですか?」

「知るか!」


夜神は憔悴したように、ゆるゆると服を着始めた。




夜神が服を着終わった頃、私の携帯が鳴った。
Lだった。


「ニアです」

『居ましたか』

「はい」

『あれから見ていたら、あなたの携帯GPSと夜神のGPS発信機が、
 いかがわしいモーテルで短くない時間停止しています』

「私の意向です。すみません。先ほど言えば良かったですね」

『いえ。携帯を手放して別行動をしている、せざるを得なくなった可能性を
 考えて連絡してみただけです』

「大丈夫です。
 ちょっとしたハプニングで夜神を緊急に取り調べる事になりましたが
 あなたを嫉妬させるような事態には至っていません」


Lがまた、黙る。
彼の頭の回転を止めるのは、いつも夜神だった。
だが、今は私だ。
そう思うと、可笑しさが込み上げてきた。


『……言うようになりましたねぇ。戻ってから報告して下さい』

「はい。Lにも美味しい仕事を残しておきました」

『楽しみにしておきます』

「夜神に代わりましょうか?」


だがそこで、夜神が私の携帯を取り上げて通話を切り、
ベッドに投げつける。


「意外と感情的な事もするんですね。映画の中のヒステリックな女性のようです」

「そうだね。今までL以外に感情をぶつけた事はない。光栄に思え」

「ああ……そう言えば殴り返してましたね」

「最初の喧嘩は、僕から殴ったんだ」


まさか。
あのLを、世界の影の支配者を自分から殴るだなんて。


「……嘘つきは、下水道を這い回って腐りかけたゴミやウジ虫を食べて
 一生を終えるドブネズミの始まりですよ?」

「泥棒じゃなかった?」

「大量殺人鬼を泥棒に格上げしてどうするんですか」

「とにかく嘘なんかついてない。Lに聞いてみろよ」


それは本当に、大したものかも知れない。
それともLを殺せたんだから、その位は当然か。



私達はホテルまでタクシーを呼び(夜神が恥ずかしいと言っていた)
二回ほど乗り換えてLのビルまで帰った。

結局、おもちゃ屋には行けなかった。






--続く--






※耳年増ニア。

 ニアが月を調べるシーンは、本当はもっと微に入り細に入り
 書き込みたかったです。変態です。
 全体から見た時そこだけが妙に濃かったらイヤンなので諦めました。

※追記。
←クリック
 クロさんに素敵具現化絵を頂戴しました!
 経緯は頂き物コーナーで叫びましたのでよろしければ。





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