Body check 1
Body check 1








日が暮れてからニアと夜神が戻って来た。

建物に入って来る前に入念にボディチェックをして、
事によればポリグラフを通さねばならないと思っていたが、
そこはニアが保障してくれたので信じる事にする。


「ただいま」


エレベーターから出た途端、夜神の明るい声で言われて
何故か絶句してしまった。
ニアも無言だ。


「L?ただいま」

「ああ……おかえりなさい。ニアも」

「はい……ただいま……帰りました」


ついぎこちなくなってしまうのは、ニアも私も誰かを送り出したり
迎えたりする事が殆どないからだろう。

ワイミーが居た頃はどうだっただろうか……。


『I’m back.』

『……You must be tired.』


そんな会話があったか無かったか、大概は無言でドアを開けて椅子に座り、
ワイミーも黙ってケーキと紅茶を出してくれた。


「L?」

「何ですか」

「今日の報告、していいか?」

「はい……いや、まずはニアから聞きましょうか。
 デートは楽しかったですか?」







「……と言う訳で、直腸と尿道の検査はLにお願いします」

「まあ尿道は大丈夫です。いくら小さく丸めても
 紙を入れてこんな平然とした顔はしていられないでしょうから」

「それと今回、夜神のアマネミサに対する態度、ヤガミサユに対する態度、
 ヤマモトに対する態度の相違が気になりました」

「具体的には?」

「ヤガミサユに関してだけ、妙に饒舌だったんです。幼い頃一緒に
 花を買いに行った思い出を、詳細に語られました」

「そうですね……兄弟がいないあなたに対して優位性を示したいのか
 あなたに過去の情報を開示する事で心理的距離を縮める狙いか」


腕と足を組んで憮然としたまま、黙って我々の会話を聞いていた夜神が、
堪りかねたように口を挟んだ。


「狙いとかないから!どうしてちょっと思い出に浸ったくらいで
 そんな事を言われなくちゃならないんだ」

「「だってあなたはキラですから」」


企まず、ニアと声が揃った。
これで良い。

夜神は心理戦に長けている。
ニアを懐柔して私と対立させ、自分の思うとおりに操ろうとするかも知れない。

その事に対する牽制の意味も込めて、ニアは私に、夜神との間に起こった事、
交わした会話を彼の目の前で包み隠さず話すのだ。
二人で秘密を共有する意思がない事を示す為に。

夜神とニアがどういう関係になっても私は気にならないが、
ニアはやはりどこか恐れているのだろう。
夜神に気付かない間に飼い慣らされる事を。


「では月くん、取り敢えず行きましょうか」


私が夜神を促して立ち上がると、ニアが「ちょっと待って下さい」と
小さな声を上げた。


「すみませんが、その前に……私の服を着替えさせて下さい」


夜神は笑いながらニアと私を伴ってニアの寝室に行き、
ロリータ服を脱がせてパジャマを着させた。





ニアと別れて私の寝室に着くと、夜神は大きく息を吐いた。


「何ですか?」

「本当に僕を調べるつもりだよな?」

「勿論です」

「……これからおまえにどんな変態な事をされるかと思うと溜め息も出る」

「今更です。介護も看護もさせられましたからね、
 あなたの体の事はあなたより多分詳しいですよ」


実際、おまえは知らないだろう。
おまえの背中の肌触り。おまえの尻の滑らかさ。


「で?どうすれば良い?」

「あなたが、私とする前にする処理を、私の目の前でして下さい」

「……やっぱり変態だ」

「何とでも」

「本当はわかってるんだろ?僕がそんな、デスノートを腸内に隠すような
 真似はしないって」


確かに、夜神の今までの美しさを優先するやり方なら、
隠すとしたらもっと違う場所だろう。
そしてニアに既に発見されている。


「だとしても、私の目を離れて外出するという事には、
 それくらいのペナルティが伴うのだと体に叩き込んでください」

「勘弁してくれ……」

「勘弁して、ニアと私の命を危険に晒すようでは、死んでも死に切れません」


おまえは、私に服従するしかないのだ。
これは飼い犬に対する躾の一環だ。

どれだけゴネても私の気が変わる事はない。
夜神にもそれは分かっている。

犬は軽蔑を込めた目で私を睨み、素直にバスルームに向かった





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