salvage 4
Salvage 4








「他は?何か質問ある?」

「色々聞きたいことはありますが。月くんこそ、私に聞きたい事はありませんか?」

「そうだな……さっきの話からすると、ここはアラビア語圏か?
 おまえが一人で動いているという事はモロッコかエジプトあたりか」

「ご明察です。モロッコです」

「こちらの方では、キラ事件は有名じゃないんだな」

「そういう事です」


キラの信者もアンチキラもいない、万が一ここにキラがいるとバレても
救出されたり殺されたりする可能性の低い土地。
その辺境の町と砂漠との境目に、この地下の牢獄がある。

それにしても、何故夜神は、私が彼を連れ出しに来た理由を聞かないのだろう。
自分が幽閉された後、世界がどうなったのか知りたくないのだろうか。


「今度はおまえのターンだ」

「そうですね……取り敢えず、眩しくないですか?」

「眩しいね。実は今もよく見えていない。目に霞が掛かっているようだよ」

「サングラスを用意してあります」

「……」

「どうしました?あと、目のやり場に困るのでこの服を着て下さい」


自分がワタリのように夜神月の世話を焼いているのが馬鹿らしいが
それがニアの条件なのだから仕方ない。
夜神月を連れ出しに行くなら、院を出るところから帰って来るまで
全て一人で。

この私に嫌がらせをして楽しんでいるのだろうか。
この条件は、ニアにすれば相当ハードルが高いのだろうし。
とにかく夜神月が扱いづらい事になっていなくて良かった。


「あ、服は私のお下がりですがパンツは新品です。安心して下さい」

「……」

「どうしました?ここで長話するつもりはなかったんですよ。
 暑いので、早く服を着て車に乗って下さい。
 これからカサブランカに向かいます。話なら車でもホテルでも出来ます」

「……」

「ちょっ、月くん!」


ゆらりと、盥の中から立ち上がった夜神月は、ふらりと横に揺れた。
慌てて抱きかかえて、「あの時」との相似にゾッとする。
このまま、夜神月は私の腕の中で息絶えてしまうのではないか。


「……大丈夫。ちょっと、目眩がしただけ」


今まで気丈に振る舞っていた夜神月が、弱々しく目を閉じていた。


「おまえは……僕に事件の全貌を聞きに来ただけだと思ったから
 しばらくあの牢に戻れないとは思わなかったよ……」

「何を言ってるんですか。二度と戻しませんよ」

「そうか……いつも食べ物をくれていた人……」

「大丈夫です。止めるように手配してあります。
 それよりいきなり倒れるなんて、脅かさないで下さい」

「おまえと会って、事件の話をしている間だけは以前の僕でいようと思って
 頑張ったけど……長丁場になるなら、無理だ」


苦々しい表情で弱音を吐く夜神月は、逆に昔通りに見えた。

そうか……。
夜神月を、透明で美しく見せていたのは、絶対的な諦観だったか……。

言い換えれば絶望。

ゆっくりと自分が朽ちて行くのを眺める事に慣れた、
私が何をしに来たのかと、聞く気も起きない程の、深い絶望。

少し話をしに来ただけだとは思っても、それを尋ねれば希望が生じる。
私の口から「少し話をしに来ただけ。すぐに牢に戻す」と聞けば、
また絶望の淵に落とされる。

だから、訊けなかったのだ。

またかつて自分が動かしていた、しかしもうすぐ去る世界に、
興味も湧かなかったのだろう。



「月くん。まだ少し臭いです。早くホテルに行って、熱いシャワーを浴びましょう」

「ああ……それはありがたいな」

「それから、パリから引き抜いたという一流シェフが作ったディナーを食べましょう」

「……竜崎」

「それから、テレビを見ましょう。衛星放送の入る部屋です。
 日本のお笑い番組を見ましょう」

「竜崎。僕を、殺すのか?」


どうしてそんな、透き通った笑顔でそんな物騒な事を言うのだ。
絶望の果てには、人はそんな笑顔を浮かべられるものなのか。


「……いいえ。殺しません」

「でも、現実的じゃないよ。毎日、僕はもうすぐ死ぬだろうと思っていた。
 死ぬ前に、夢でもいいから清潔にして美味しいご飯を食べて、
 出来る事ならもう一度おまえに会えれば、言うことはないなと考え続けてた」

「あなたには、別の牢に移って頂きます」

「そこは、あそこよりマシな場所か?」

「いいえ。あそこより酷いかも知れません」

「はははっ。想像もつかないな」


そうですね。
清潔で、ご飯が美味しくて、そして私がいる場所です。

私しかいない場所です。

私は戸籍も、存在証明もないあなたを閉じこめて、
探偵の仕事を手伝わせるつもりなんです。
一生無給で無休です。


そんな地獄に、私はあなたを閉じこめます。


あなたの一生を、私に捧げさせます。


私と、私が守る世界に捧げさせます。


だから、死ぬまで死ぬほどこき使ってやるので覚悟しろ、夜神月。





--了--





※神様が国語に厳しい人だったら、「ここくっついてないから×!」とか
 「撥ねてないから×!」とかあるのではないかと。あって欲しいなと。

 モロッコですが性転換手術関係有りません。
 モロッコと言えばそれが浮かんでしまってすみません>モロッコ方面の方






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