S1+J 6 Lは「失礼」とも言わず、普通に携帯を開ける。 「……あなた宛です」 「え?おまえの携帯だろ?」 そう言いながら受け取って見ると、粧裕からだった。 “携帯通じないんだけど!変えたなら言ってよね。 SMで悪いけどお兄ちゃんのせいだからね。 誕生日おめでとう!” 「……」 「前にこの携帯から電話した時の履歴を辿ってショートメールをくれたんですね」 「みたいだね」 「おめでとうございます」 「え?」 「誕生日」 「ああ……ありがとう」 「何か欲しい物があったら言って下さい。 先日は美味しい“ちょこれいとけーき”も貰った事ですし」 馬鹿馬鹿しい。 いきなり友だち面するなよ。 と思ったが、言える立場でもないので、唇を歪めて笑って見せてやった。 「本当に言って良いの?」 「良いですよ。何でも言って下さい」 「なら、“自由”が欲しい」 「……」 「見逃してくれ。僕をキラだと認めたまま、解放してくれ」 「……」 ははは、何を黙ってるんだ。 それはそうだろう。 今の僕に望みと言ったら、それしかないだろ? 分かっていて言ったんだろう? 分かっていて揶揄ったんだろう? ……最低だ、おまえ。 「分かりました」 ……え? 「え?」 何だって? 分かったって……そんな筈ないだろう? おまえが飲める筈ない。 「ただしカードで勝負してから、です」 「……へ?」 Lは澄ました顔で裏返したカード群を指差す。 ああ……そうか。 バレンタインデーの時と同じだ。 とことん僕を揶揄うつもりらしい。 「そういう冗談、もう良いから」 「冗談……?いえ。私、本気ですよ?」 「僕が勝ったら解放してくれるのか。 僕はキラをやめないぞ?勿論おまえも殺す」 「良いですよ」 「……」 マジか。 ……いや、こいつの事だから負けるつもりはない、という事だろうな。 問題は、逆の場合だ。 「……で。僕が負けたら?」 「私が“キラ”になります」 ……。 「正直、私も疲れて来たんですよ。進展のない取り調べにも。“L”にも」 「……」 ……嘘、だろ? Lが、キラになるなんて。 あり得ない。 だが、こんな嘘を吐くメリットも想像がつかない。 僕が勝てば解放されるし、負けても“L”が……僕を追いつめる者はいなくなるだけ。 僕にとっては、メリットだけの、勝負だ。 「長い間あなたの話を聞いている内に、キラも良いのではないかと思えてきました」 「……本当に?」 「はい。確かに、人類全体の進歩を考えれば、キラは絶対に居た方が良い。 犯罪が減り、勿論戦争もなくなります。 イスラム世界でも善悪の基準が宗教ではなくキラになりますから、平和になりますね」 「……」 「加えて、キラという機構は確かにパズル的に面白いです。 どう警察を欺くか、あるいは味方につけるか、どうすれば公正かつ永続的な システムを作れるか」 「……」 「考えるとキリがありませんね。 以前あなたは、自分がデスノートと出会ったのは運命だと言っていましたが、 私があなたと出会ったのも、運命だと思いませんか?」 「いや、自分の意志で捕まえたんだろ」 「同時代に、キラとLが並び立った事が、運命的だという意味です」 確かに、そう言えばそう……かも知れない。 「キラ」がこの世に出たのも奇跡だが、「世界的名探偵」という存在も不世出だ。 信じて良いのか? いや。万が一勝てば、約束を守って貰えなくとも精神的優位に立てるし 負けた場合の「Lがキラになる」も見て見たい。 というか信じても何も損はない。 出来れば僕が勝ってLを始末できれば後顧の憂いがないが。 やってみる……か。 「……分かった」 「それでは、どうぞ」 Lは芝居がかった仕草で両掌を上に向けて、広げたカード全体を示した。
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