S1+J 7 僕は注意深くLの表情を読みながら、一枚一枚、カードの上に手をかざしてみる。 まるで仏像を相手にしているかのように、全く変化なかった。 「無駄ですよ。私にもどこにどのカードがあるか分かりません。 何なら、私のカードもあなたが選んでくれて良いですよ」 「……」 「その代わり、私が勝ったらキラになるんですから、もう一冊の殺人ノートの在処も 教えて下さいね?」 ガチ勝負か。 なら、ますます負けられないな。 自分が一番取りそうな位置にあるカードを避け、一番取らなさそうなカードも避け、 粧裕の誕生日を素数分解して縦横に割り振った数字に従って一枚取った。 「私のカードも選んで下さい」 「なら、これ」 さっき僕が一番取りそうだと思ったカードを、指差す。 手の中にあるカードをそっと見ると、剣を象った大きなマークが見えた。 ……スペード1。 勝った……! やはり、死神じゃない方の神も、僕に味方している。 粧裕にも感謝だ。 キラにスペードのエースなんて、なんて粋な計らいだろう。 貴族の、騎士の剣。 まるで僕の事のようだ。 「悪いね」 そう言ってぽん、とエースをトランプ群の上に置くと、Lは少し目を見開いた。 「なるほど」 そう言いながらも、僕が指差したカードに手を伸ばす。 無駄なあがきだよ。 おまえって案外と往生際が悪いタイプだったんだな。 ……だが。 ゆっくりと時間を掛けてLが裏返したカードには。 「JOKER」 人相の悪いピエロが踊っていた。 「嘘……トリック?」 「まさか。見ていたでしょう?」 「でも」 「運命。ですよ」 手にとって見るが、ジョーカーは二枚重ねになっている事もなく、 怪しい所もなかった。 もしトリックだとしたら、脱帽するしかない。 「私にジョーカーだなんて、神も粋な計らいをしますね?」 「……」 「スペードのエースも、不吉や攻撃、強行、死の前兆と言った意味がありますから あなたに相応しいですが」 思わずまじまじと二枚のカードを見つめていると、 何だか笑いがこみ上げてきた。 「ふ、ふふっ……」 ……結局。 どこまで行っても、僕はおまえに敵わない、という事か。 「勝った」と確信した直後に、奈落の底に突き落とされる。 自分が最強のカードだと思っていたのに、 想像を超えた手で、僕の上を行く。 負けたよ、L。 その時、壁の中からヌッとレムが現れた。 「入る時はノックくらいして下さい」 『……』 レムは無言で僕たちを見比べた後、口を開いた。 『今の話は、本当か』 「立ち聞きですか。悪趣味ですね。 でも、私もこれから長い付き合いになるんでよろしくお願いします」 『……』 「ミサさんのノートの場所、教えてくれますよね? あなたも聞いたように、月くんも同意してくれています」 レムがこちらを見るので、肩を竦めて見せた。 「……おまえが早めにLを殺してくれていたら、こんな事にはならなかったのにな」 「そんな事を頼んでいたんですか!酷いですね」 「何故、約束を破った?」 『私は、おまえとは何も約束していない。ミサと約束しただけだ。 そして今のミサにその記憶はない』 「……!」 思わず大きく舌打ちをすると、Lが目を大きく開いたまま、ニヤリと笑う。 『Lがキラになるのなら、捜査本部にあるノートは返して貰う。 私もそろそろ死神界に戻りたいからね』 「もう一冊はどうしますか?」 『○○公園に埋めてあるやつか。それは私の物ではないから関係ない。 ただし、今後ももしミサに危険が及んだら、Lであろうが月であろうが容赦しない』 僕たちが仕方なく頷くと、死神は再び壁の中に消えた。 捜査本部のノートも、間もなく消えるだろう。 僕が呆然としていると、Lは僕の肩に手を置いた。 「では、行きましょうか、○○公園へ」 「……ああ」 「楽しみですね?これから」 「そう、だな」 「ジョーカーと、スペードのエース。最強のカードが二枚揃ったんです。 “人類史上最高のチャンス”が、更新されましたね?」 「え……」 ……それは。 僕も、キラを続けて良い、という意味か? 「勿論です。二人で、犯罪の無い平和な世界を作りましょう」 「……」 ……Lが本当の事を言っているのかどうか分からない。 Lとデスノートを使うなんて、考えた事もない。 僕の基準で裁かせてくれないかも知れない。 でも、ジョーカーの気まぐれだとしても、「活路」には違いない、よな? 「正確には、平和な世界を作るゲームを楽しみましょう、だな」 「おっしゃる通り」 それからLは、また並べたトランプを薙ぎ払って「raison d'etre」の下に 「permanence」と書き加えた。 「早速ですが、キラの一番の弱点は私達の死を以てそのシステムが終わる事です」 「私達」、か。 本当に早速だな。 「我々が死んでもキラの脅威が……言い伝えではなく現実に “罰が当たる”システムが代々存在し続けるにはどうすれば良いか。 まずこの辺りを考えてみましょうか」 「あ、その前に妹に返信して良い?」 「どうぞ」 僕はもう一度携帯を借りて、返信画面を出した。 妹があのタイミングでメールをくれなければ、僕は終わっていたかも知れない。 長い間一緒に生活して分かったが、Lの行動は、本当に気まぐれなのだから。 “ありがとう。粧裕のお陰で最高の誕生日になった” 正確には、「僕の強運のお陰」だが。 僕は……僕たちは今日、新世界の、神になるよ。 --了-- ※とにかく月を幸せにしたくて書いたお話でした。 月2013誕生日おめでとう!
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