S1+J 3 分析やら火口の死の後始末やらヨツバへの対応やらで バタバタしている捜査本部を後にして、Lは僕を寝室に連れて行った。 ドアを閉めるなり、 「先程、ここのカメラにロックを掛けました。それで良いですね?」 「早速だな」 椅子に座り込み、テーブルの上に出しっ放しになっていた菓子鉢の中の 飴玉を掻き混ぜる。 「殺人ノートを手に入れた経緯や死神の事、動機について 洗いざらい喋って下さい」 「そうだな……まず、ノートが僕の所に来た時の事だけれど。 僕は運命を感じたけれど、死神によれば単なる偶然らしい……」 それから僕は、学校で授業を受けている時にノートが忽然と 校庭に現れたのを見つけた事、 最初は信じていなかったが、音原田九郎で何気なく試した事、 それから……もう一人クズを殺して、確認した事も 包み隠さず話した。 「その時点で二人の人間をその手で葬った訳ですね。 どんな気持ちでしたか?」 「恐ろしくて、眠れなかったよ……」 「ほう?」 「特に二人目の渋井丸の死に様は、何度でも夢に見た。 食べ物もろくに喉を通らないし」 「でも、結果的にはもっと大勢の人間を殺しましたよね?」 「ああ。二人目と三人目の間が、一番辛かったな。 僕は世直しをする手段を手に入れた。 だが、たった一人で背負うには、重すぎた……」 「止めようと思わなかったんですか?」 「思ったさ。何度も。 でも、止めてはいけないと思った。 精神と命を犠牲にしてでも、誰かがやらなければならない事だし、 それが一番上手く出来る僕の所に、デスノートが来たんだ」 「……」 「本当に偶然だとするならば、これは人類史上最大のチャンスだ。 この先人類がどれ程発展しても、こんな機会はもう二度と訪れない」 「……」 「だから、潰れそうになる精神と戦って、裁きを続けた。 その内に、呵責は感じなくなって来た」 「……可哀想な人です」 Lは哀れとも何とも思っていなさそうな表情でぽつりと呟き、 飴玉を掻き混ぜる指を止めた。 「では、殺人ノートの三人目の犠牲者は、あなただったのですね」 「え?」 「夜神くんの良心……それが、三人目の犠牲者です」 「……」 そんな風に、考えた事なかった。 だって、自分が選んだ事だから。 僕はいつだって止められた。 でも止めなかった。 チャンスに目が眩んだんだ。 人類史上、最初の、「本物の神」になれる可能性に。 Lは少し憂鬱そうな顔をした後、「今日はこの辺にしておきましょう」と 言って、椅子から降りた。 Lに本当の事を言うのは勿論怖かったが、今までの経験からして 彼に中途半端な虚言は通用しない。 僕の一言一句、ちょっとした仕草や表情まで観察して嘘を見破ろうとする。 後でどうせ殺すんだ、疑われたり余計なストレスを感じるくらいなら、 肝心な事以外は積極的に真実を伝え、信頼を得る方が得策だろう。 同じく、本音を吐露するのも、慣れれば何という事もなかった。 ……デスノートを使う事に慣れた時と、少し似ている。 「今日はミサを解放するんだよな?」 「はい。彼女は本当に何も知らないようですし。 あなたさえ私の手元に居てくれれば、それで良いです」 「しばらく会えなくなるし……車を拾うまで送るくらいは良い?」 「良いわけないじゃないですか。 あなたはキラで、彼女は第二のキラです。 外に出る彼女に、何を吹き込むつもりですか?」 相変わらず監視されていて、ミサに全く接触できないのは困った。 僕がLの許可無く不自然に離れようとすれば、キラである事を 暴露されるかも知れないと思うと、迂闊に動けない。 結局ミサに何も伝える事が出来ないままに彼女は解放された。 ……だが、こちらにはまだレムが居る。 当初の予定の、レムに「ミサの為に」Lを殺させてレムも死なせ、 もう一冊デスノートを得るという一挙両得は難しくなったが 彼女は監禁前、Lを殺すと約束してくれている。 待っていればその内実行してくれる筈だ。 早ければ早いほど良いのに、それを伝えられないのは辛いが……。 「しかし、困りましたねー」 「何がだ、松田」 「あれから三ヶ月、キラの裁きはぴたりと止まったまま、 全く進展しませんよね。 死神も何も言わないし」 「うむ。やはり、火口が元祖キラ、というのが結論か……」 捜査本部の面々の、何気ない遣り取りにいつも心臓が止まりそうになる。 そんな、Lを刺激するような事を言わないでくれ! ただでさえ、もう時間稼ぎも限界に来ているのに。 レムは一体どういうつもりだ……。 「いいえ。それではキラの裁きの方向転換に説明がつきません」 「しかし」 「キラは他に居ます。ノートももう一冊ある。 何故現在鳴りを潜めているのかはまだ分かりませんが……」 言いながら横目で僕を見るな! 僕は、もう一冊のノートの存在は認めたが、その在処については、 何も言っていなかった。 記憶があった頃のミサが隠した、という事にしてある。 Lは早速ミサの行動範囲を細かく調べたようだが、発見出来なかった為 僕の証言を疑っているようだ。
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