S1+J  2
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目が覚めたのは、どこかの病院の一室のような白い部屋にある
ベッドの上だった。

手錠が外れている。
Lは、どこだろう。

そうだ、火口が死んだ所は見られなかったが、死んでる……よな?

という記憶がある所を見ると、僕は無事、再びあのデスノートの
所有者になれたらしい。

程なく、入り口のドアがスライドして見慣れた猫背が入って来た。


「気がつきましたか」

「ああ……僕は一体……。ここは?」

「私のビルの一室です。
 あなたはヘリの中で気を失いました。どこまで覚えていますか?」

「ええっと、デスノートに書いてある名前と、キラの殺人の被害者の
 名前を照合している内にふらふらして……。
 そうだ、火口はどうなった?」

「死にました」


ああ、良かった……。
安堵が顔に滲み出るのを見られないように、顔を伏せる。


「一体……どうして……」

「心臓麻痺です。キラに殺されたんです」

「そんな」


眉根を寄せて、深刻そうな顔を作るが、Lが気持ち悪い程
覗き込んでくるのが不気味だった。


「あなたが殺したんですよね?」

「は?何言ってるんだ?」

「あなたは殺人ノートを手にしてキラの記憶を取り戻した。
 そして火口を殺した」

「ノートに、僕の筆跡で『火口卿介』とでも書いてあったか?」

「いいえ。自白、してくれませんか?」

「何の事か全く分からない」


このまま惚ければ、証拠なんか絶対出ない。
とにかく火口も殺せたし、デスノートの所有者にもなれた。

今頃捜査本部ではデスノートの裏表紙の、偽のルールも
明らかになっている筈。
僕は容疑者圏内から外れた事だろう。
Lに怪しまれたとしても、この場を何とかはぐらかせば何とでもなる。


「そうですか……では、決定的な証拠があると言ったら?」


何だって?!……いや、落ち着け、動揺するな。
ハッタリだ。
そんな物、あるわけない。


「……」

「まだ私しか知らない証拠です。
 気になりますか?」

「僕はキラじゃないんだから、そんな物あるわけない。
 あるとしたらおまえの勘違いか捏造か、どちらかだ」

「そうですか」


残念そうな口ぶりをしながらも、その目は嬉しそうに輝いていた。
嫌な予感に、背筋が寒くなる。


「あなたは覚えているかどうか分かりませんが、
 気を失う前、腕時計から何かを取り出して飲んだんですよ」

「……」

「私はその直前にあなたを追い詰めていたので、毒を飲んで
 自害を企てたのかと焦りました」


……まさか。


「そこで慌ててヘリで現場を離れ、ホースを口の中に突っ込んで
 胃の中の物を洗いざらい吐かせました」



そんな。


「大半は夕食のサンドイッチでしたが、それ以外に
 不思議な物があったんですよ。何か分かります?」


デスノートの、切れ端……。


「それはね、大学ノートのような物の、小さな切片なんです」

「……パンの、塊か何かじゃ、ないのか」

「声、震えてますよ?」

「……」


こんな所で、僕は終わるのか。
いや、諦めるな。
これもハッタリだという可能性も十分ある。


「……で、それが、どうかしたのか」

「どうもしません」

「……」

「まだ分析に掛けていないので、現在の所は単なるノートの……
 少し血液らしきものがついた、切れ端です」

「……」

「でも、成分分析すればそれが殺人ノートかどうか分かります。
 血液をDNA鑑定に掛ければ誰の血か分かりますし、
 ルミノール反応を見れば、何か……例えば文字が、
 浮かび上がるかも知れませんね?」

「……」


万事休す、か。
いや、だがまだLしか知らなくて、分析もしていないというのが救いだ。

何とかこの場を誤魔化して、先に竜崎を殺してしまえれば。

どうする。
どうする。

……。

……仕方ない、か。
僕は大きく息を吸い込んで、そして吐いた。



「ああ……そうだ。確かに僕が、キラだ」



竜崎は、わざとではないだろうが僕と同じように大きく息を吸い、
大きく吐いた後、人差し指を加えてニタリと笑った。


「……投了ですね」

「ああ。だが、頼むから少し時間をくれ」

「どういう事ですか?」

「洗いざらい自白する。だが、発表は少し待って欲しいんだ」

「発表というと、どこまでの範囲ですか?」

「捜査本部にも内密にして欲しい」

「……ほう」


Lが困惑を滲ませる。
自分を殺す為の時間稼ぎだという所までは分かるだろうが、
こいつはまだ、レムが人の為に動くという所までは気付いていない。


「その代わり、お前にだけは訊かれた事は何でも正直に答える」

「……」

「僕が良いと言う前に、捜査本部に伝えたら、僕は黙秘したまま死ぬ」

「脅迫ですか」

「自分の命だよ」


事件の詳細が永遠に分からなくなる、などというリスクを
おまえは許容出来ない筈だ。
そうだろう?


「……分かりました。当面は、捜査本部には言いません。
 まず、どうやって殺人ノートを手に入れたのですか?」

「監視カメラのない場所じゃないと」

「……」


それからLは、僕を連れて捜査本部に戻った。
恐れていた訳ではないが、みんなが手放しに僕を気遣い、
必死でデスノートの解析をしている様子に、胸を撫で下ろす。


「ああ、月くん良かった!
 聞いてくれよ、殺人ノートの裏表紙に、十三日以上使わなければ
 名前を書いた者は死ぬ、って書いてあったんだ」

「月くんも弥も何十日も監禁されていたし、その後も
 手錠で繋がれていたからな」

「完全に容疑が晴れたね!
 だからこそ竜崎も、手錠を外したんだ、おめでとう!」

「ありがとうございます」


複雑な気持ちで答えながら横目でLを見ると、


「そうですね……今まで申し訳ありませんでした……」


指を咥えながら殊勝に謝罪する。
だがその目はよく見れば笑っている。

僕だけが、その事に気付いていた。






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