S1+J 1 新世界が、誕生する。 デスノートを手にした途端、流れ込んできた記憶の奔流。 勝った……! 気付いてみれば、拍子抜けするほど全てが計画通りだった。 後は、火口を殺してデスノートを所有し、ミサにLを殺させる。 ミサがLの名前を覚えていなくても、彼女は死神の目を手に入れるだろう。 そして、ミサを疑わせるように仕向ければ、レムは絶対にLを殺す。 いずれにせよあと二手でチェックメイトだ。 「だ、大丈夫ですか?」 背後の気配を伺う。 大丈夫じゃないのはおまえだよ、L。 死神の出現で、さすがのLも相当動揺しているな。 火口の名前を書くならやはり今しかない。 素早く、腕時計の竜頭を四度引いた。 「火」 「口」 自分の血を針につけながら、右手でカタカタとキーボードを弄る。 書く事に集中しているので、タイピングは適当だ。 ただ、Lの耳に真面目にノートの名前と実際の死者を照合しているように 聞こえればそれで良い。 「卿」 やった……! 難関の画数の多い字も潰さずに書けた。 この、ヘリのエンジンで振動している中、我ながら恐ろしく器用だと思う。 後は「介」だけだ。 「ノ」 その時。 「!」 肩を掴まれて、びくり、と不自然なまでに震えてしまう。 「初めまして……いや、お帰りなさい、というべきですね……キラ」 しまっ……! 「……何の、話だ?」 「記憶が、戻ったんですね?月くん」 「いや……今忙しいから後にしてくれないか」 「どうしてこちらを見ないんですか?」 「……」 「忙しいというのは、その滅茶苦茶なタイピングに、ですか?」 振り向く事が出来ない。 が。 Lの顔が、僕の顔のすぐ横まで来ているのは分かった。 「やっぱりちょっと、緊張して、」 「緊張してエンターキーを押し間違えて、括弧を2行も量産した、と?」 駄目だ……!完全に疑っている。 ……いや、僕がキラだと確信している。 何故? どこで間違えた? やはり、この場で火口を始末しようとしたのが間違いか……。 いや、しかし火口に余計な事をしゃべられては。 あいつはミサがキラだという事を知っているに違いない。 僕は取り敢えずLを無視して、火口の名前を書ききる事に集中した。 「\」 「‖」 「何をしているのですか?」 これで、取り敢えず火口は死ぬ……。 後はノートを取られても記憶を失うだけで証拠は出ない。 指紋も消したし、僕が書いた部分も処分したんだから。 僕は竜崎の隙を突いて、腕時計に隠していたデスノートの紙片を 飲み込んだ。 「何をっ……馬鹿な事を、」 はははっ、馬鹿はどっちだ。 僕は死にはしないよ。 でも、出来ればキラの記憶を失いたくはない。 僕はデスノートを抱え込み……そして、気を失った。
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