恋愛遊戯 1 「取り敢えず……どうする?」 「このまま捜査本部に戻る訳にも行きませんね」 竜崎は手錠の鎖を束ねたまま、僕の腕を掴まえて参道を進んだ。 神社から出て、タクシーを捕まえる。 「新宿に向かってください」 ええっ?そんな人が多い場所に行くのか?この格好で? 「繁華街の方が逆に目立ちません」 いや……目立つと思うけど。 だが、生真面目そうな運転手は、腕を組みながら乗り込んできた 男二人を見ても、顔色一つ変えず頷いた。 そして、竜崎の指定する道を細かく進んで降りた場所は。 「……なるほど。ある意味目立たないな」 「知り合いは絶対いないと思いますし」 腕を組んでいる者まではいないが、女性よりも男の二人連れが目立つ。 人待ち顔で店の前でウロウロしている、非日常的に着飾った男もいた。 噂には聞いたことがあるが、実際来たのは初めてだ。 そういう嗜好の人の、集まる場所。 「で。どうするんだ?」 「まず電話を探します」 携帯電話のショップはあったが、竜崎は身分証明を持っていない。 現金を裸のままジーンズのポケットに入れているだけだ。 仕方なく、公衆電話を探した。 目立たない場所にあるのを探したが結局見つからず、しばらく彷徨って コンビニエンスストアの前のを使うことする。 竜崎は、暗記しているらしい携帯番号をプッシュした。 「Yes……from Kabuki-cyo police box to Kuyakusyo-street,yes」 「Top floor?OK,south-east,」 「I will be waiting for y」 聞くつもりはなかったが、英語で何やら交渉らしき事をしていたらしい。 最後によろしくお願いしますと言いかけた所で先方が乱暴に電話を切ったらしく プッという音とプープープープーという話中音がこちらまで聞こえた。 「ワタリさん?」 「……ワタリにこんな無様な格好は見せられません」 と言うよりは、僕と取引しようとしていた事が内密なんだろう。 竜崎を殺した場合、ワタリをどうするかというのが悩みの種だが さほど深く「L」の仕事に立ち入っている訳ではないのかも知れない。 それとも、万が一の時はワタリだけでも助ける為に 僕の前では距離を置いている振りをしているのか。 「じゃあ、行きましょう」 「え。どこへ?」 竜崎は、もう手錠を隠すこともせず、じゃらじゃら言わせながら 僕の腕を取って歩いていく。 しばらく引っ張られて着いたのは、一軒のそういう……ホテルだった。 「まさか入る気じゃないだろうな」 「そのまさかです。いつまでもこうしてもいられませんし」 「断る」 「変な事はしません。ちょっと休憩するだけです」 「いやそういうセリフ言うなよ」 普通に恥ずかしいだろう!男二人でラブホって! 見られていなければ良いというものじゃない。 自分の人生に、男とラブホテルに入った事があるとか、そんな過去を作りたくない。 だが竜崎は僕の話を聞かず、入り口を入っていきなりインタホンを押し 受話器を取る。 「朝までお願いしたいのですが」 「……女性です。失礼ですね」 「ええ、それは構いません」 「なる程、そういうシステムですか、理解しました」 押し問答をしたり色々質問した後(質問するなよ恥ずかしい) 壁に掲示されたリストの中から一つの部屋を選んだ。 「フロアがモニタリングされてるんですね、同性同士は困ると言われました」 「そうなんだ?」 「こんな場所にあってゲイはお断りって、どういう了見でしょう」 「……まさかと思うけど」 「無論あなたが女性だと言い張りました」 ……あり得ない。 何がと言って、何もかもが無茶すぎる。 大体、僕は女には見えないだろう!いくら何でも。 あと、モニタされていたなら映像が残ってしまった可能性もある。 男と鎖で繋がって、ラブホテルの部屋を選んでいる僕の姿が……。
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