恋愛勘定 6
恋愛勘定 6








静かに開いたドアから、ゆっくりと入って来た、猫背の影。
朦朧としてしまい、一瞬誰だったっけ?と考えてしまったが、
それは竜崎その人だった。

男は後ろ手にドアを閉め、足を引きずりながら近付いて来る。

こんな奴に、こんな姿を見られるのは屈辱だ!

という思考が、頭の隅の一角に突然現れ、じわじわと広がり冷静になっていく。

そうだ、僕は、こいつのせいで。
こいつが変な薬を僕に注射したせいで、こうなっているんだ……。

思い出した、全て。
どうして忘れていたんだ。
精神が壊れかけていたのか。

戻って来たら、突っ込まれるだろうな……
と想像した事まで思い出し、それだけで僕の背中はぐぐっと反り、


「……っぁ!」


切ない悲鳴が漏れてしまった。

なのに、射精出来ない。
その事に心はホッとするが、体は辛くて身悶えする。


「戻りました、夜神くん」

「……」


視線を、じわりと動かしただけで答える事も出来ない。
涎が垂れ、唇がぶるぶると震える。
射精直前のまま数時間放置されたペニスは、異常に張り詰めてぴくぴくと
脈打っていた。


「凄い格好ですね」

「……ぅが、」


おまえがやったんだろう!
と罵るつもりが、舌が上手く回らない。
そして刺激を受けて、また体中がびりびりと痙攣してしまう。
涙が零れる。


「量を間違えたんでしょうか……」


竜崎は尋常で無い僕の様子に眉一つ動かさず、近付いて来て見下ろした。
室内灯を背に受け、その顔が翳る。


「だとしたら、申し訳ありませんでした」


いつもの、心にもない謝罪。
と共に、顔が近付いて来る。

それをぼんやりと眺めていると、視界いっぱいに竜崎の顔が広がり。


「……っ!」


唇を塞がれた。

涎でべとべとしていて申し訳ない、という後で思えば不可解な感情。
唇の震えが伝わって、嘲笑われるのではないかという、不条理な焦燥。

……しかし。

そんな事よりも。

柔らかく動く唇。

ぬるりと、舌が入り込んできた瞬間。


「んんっ!!!」


……体が、爆発したかと思った。
全身の痙攣と共に、僕は……気を失った。




目を開けた時、竜崎はまだ同じ場所に立っていたので意識が飛んだのは
ほんの数瞬だろう。

だが、信じられない程の爽快感。

と、自己嫌悪。


触られてもいないのに、達してしまった……。


まだ涙の滲む目で見上げると、竜崎は袖に散った精液をまじまじと見つめている。
そして僕は……射精したばかりだというのに、まだ漲っていた。


「……」

「……」

「……キスだけで射精するとは」

「……」


揶揄うような竜崎の声に、苛立って目を固く瞑る。

竜崎はきっとこのまま、僕を犯す。
まず、足の戒めを解いて。
その間に腰を入れて。

きっと前戯も何もなく、突っ込んで来るだろう。
もし彼自身が十分に勃っていなかったら、まず口を使われるかも知れない。

などとぼんやりと考えながら、それでも半ば待ち焦がれていた。

しかし、意外にも竜崎はすぐに僕の手足の戒めを外してくれた。
信じられない思いで目を開け、起き上がって両手首を擦る。
久しぶりに見慣れた角度から見た自分の股間は、相変わらず勃起していて
その周囲は精液やら何やらで、陰毛が束になって固まっていた。

竜崎が戻って来たら。

手を出される前に、自分で擦って出してやったら痛快だろうと考えていたが。
実際目の前にすると、自尊心や羞恥心に邪魔されて、とてもではないが
そんな事は出来なかった。
一度出して、少しだけ頭が冷えているせいもある。


「……出て行け」


だから、精一杯虚勢を張ったが、竜崎は惚けた顔で首を傾げただけだった。


「何故ですか?」

「シャワーを、浴びる」

「ほう」


涙や唾液や精液や。
あらゆる体液にまみれたみっともない自分の姿を
これ以上人の目に曝すのはごめんだ。

それに。

……まだ、出し足りない……全然。

ベッドから足を下ろし、立ち上がろうとした所で、竜崎の手が素早く
僕のペニスを撫でた。


「っ!」


……元々、不随意に足に力を入れたりしていたから、筋肉が萎えていたのか。
それとも、大事な部分に触れられたからか。

僕は、膝から崩れ落ちていた。






  • 恋愛勘定 7

  • 戻る
  • SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送