恋愛勘定 4 次の週末、捜査本部ビルの自室で突然Lに「トイレに行って下さい」と言われた。 「トイレに?行きたいのか?」 「いえ。私は行きたくありませんがあなたは行って下さい」 首を捻りながら用を足している間に、嫌な可能性に思い至ったが 果たしてそれは当たってしまう。 「……嘘だろ?」 部屋に戻ると僕は裸に剥かれ、ベッドに四肢を縛り付けられた。 「トイレは当分大丈夫ですよね?寝ていても結構ですが携帯、PCは使わないで下さい。 あ、TVのリモコンは置いていきます」 「僕を一人にするって事か?」 「はい。私、京子さんとデートして来ます。あなたの言う通り」 「……一応僕は無実の学生という事になっている。 こんな所、もし捜査本部の他の人に見られでもしたら……」 「言ってませんでしたっけ?昨日完全に私物も引き払ったんですよ。 彼等がこの建物に入って来る事は二度とありません。 そして私が留守の間中あなたの姿を録画し続けます」 そうだった……。 竜崎は日本の捜査本部にはこのビルを使い続けても良いと許可していたが、 父の警察庁への復帰と共に皆このビルから出るという話だった……。 くそっ! これではミサに連絡も出来ないし、死神と話す事も出来ない。 話せても、Lの死の前の行動を操って、各国に対する僕の告発文を 回収出来るかどうか訊ねる程度だが。 「……で。それ、何」 竜崎は答えずニヤリと笑った。 その手には、小ぶりの注射器。 「注射器以外の何かに見えるのなら、興味深いですね」 顔から血の気が引く。 一応抵抗したが、「暴れたら中で針先が折れますよ?」と言われ、 結局腕に注射されてしまった。 「……何の薬だ」 「お楽しみです」 竜崎はまたニッと笑って踵を返した。 「あ。そうそう」 「……何」 「こういう事は夜神くんの方が得意なので聞かせて下さい。 女性との初デートで持っていくべき物は?」 「こういう事は」の「は」を強調されたのが、面白くない。 恥をかかせてやろうかとも思ったが、僕を試しているだけかも知れないので 常識的に答えた。 「現金。ハンカチ。あと、その女性に気に入られたいのなら 荷物にならない程度のちょっとしたプレゼント」 「ああ……そう言えば、現金……って要るんですね。 ワタリに借りて行きます。 危ない所でした。ありがとうございました」 竜崎が部屋から去った後、しばらくすると暑くなってきた。 暖房、か? いや……この、少しくらくらする感じ。 僕が、発熱している? と気付いてから、先程打たれた注射に思い至る。 まさか、変なウイルスを入れたんじゃないだろうな? いや、有り得る。 あいつは自らデスノートに死刑囚の名前を書こうとしていた。 平気な顔で人体実験が出来る奴だ。 ……人の事は言えないけれど。 考えろ、考えろ。 あいつが僕に薬を入れるとしたら何の薬だ? 何らかの疾病を引き起こす毒? まだ認可されていない新薬? それとも。 まさか……。 嫌がらせ? と思い至った途端に、ズキン、と股間に血が集まるのが感じられる。 興奮剤か……! あの馬鹿! 何だ?僕から離れるように言ったからか? だが……考えようによったら、まだマシな方だと言える。 後遺症が残るような酷い目に合わされる訳ではないのだから。 痛みがある訳じゃ無し、あいつが帰って来るまで耐えれば良いだけだ。 耐えると言っても、縛られている以上何かをしようと思っても出来ない訳だし あとは五感を遮断して寝てしまう位しかないが。 そう。寝てしまえば……。 ……。 ……。 ……。 ……くそっ!!! 体が苛々して、眠れない。 ああ、じっとしていると益々体中の血が沸騰するようだ。 少し頭を持ち上げると、案の定勃起した自分自身が見える。 その向こう側で、ぱんぱんに張り詰めた睾丸が、足に当たって、 ……それを感じると、堪らなくなる。 何だこの感覚。 自分の体に欲情するなんて変態だ。 だが、裸で縛り付けられ、身動きできない状態で性器だけが 勃起しているなんて。 我ながら、なんて嫌らしいんだろう。 薬のせいだ。 仕方ないじゃないか。 でも。
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