恋愛勘定 2 「……お前。本当に止めろよ」 「何故ですか?別に、あなたがキラだと言うつもりはありません。 同じベッドに寝ていると伝えるだけのつもりでした」 「それを止めろって言ってるんだ。 悪目立ちしたくないって言ってるだろう!ゲイ扱いなんてごめんだ!」 「ゲイ扱いの方がマシなんじゃないですか? あなたは高田さんと付き合い、私を遠ざけようとした。 十分背信行為に当たると判断出来ます」 「……っ!」 思わず壁を殴りたくなる。 読まれていたか……それに、コイツには外面とか体面とか言う物を 期待するのも間違いだった。 「高田さんは、あなたがゲイっぽいと思ったでしょうが 他の人には言わないと思います。そこまでバカじゃない」 「ああ……自分がゲイと付き合って振られたなんて、吹聴したくないだろうしな」 全く。 ……やはり今は大人しく、コイツの言う事を聞いて置くしかないのか。 四年間の大学生活でコイツの信頼を得て、行動するならイギリスへ行く直前、 というのが一番近道かも知れない。 食堂に向かった後、生姜焼き定食を食べていると(竜崎はパンケーキとパフェだ) 「おおー、夜神くんじゃない?」 見たような二人組が声を掛けてきた。 そうだ、第二のキラを探す為に一緒に青山に行くメンバーを集めていた時。 来たがっていたが、こっちは遊びじゃないから面倒くさそうな奴は断ったんだ。 名前は忘れたが確か、同じサークルに入ろうと言われて 適当に返事をしておいたような。 「あ、本当だ。学校来てたんだ?」 「久しぶりだねぇ」 鬱陶しいな……元々、我ながら目立つタイプだから、こういった、 著名人と関わりを持とうと強引に近付いて来る輩のあしらいには慣れているが。 「うん、少し身体を壊してね」 「もういいのか?」 「お陰様で。心配掛けたな」 「……別に心配はしてねーけど」 一瞬意地悪い表情を浮かべて顔を見合わせた後、打って変わって愛想良い顔に戻る。 「俺らが入ってるイベサーの話、覚えてる?」 「ああ……」 僕に対する嫉妬と羨望。 本当は妬ましくて、蹴落としたくて堪らない癖に、僕に近付きたくて、 利用したくて仕方が無い。 どうしようもない奴らだ。 「夜神が入ってくれたら、女の子もぐっと増えると思うんだよねー」 「う〜ん、考えておくよ」 「前もそう言って何ヶ月も音信不通だもんなぁ。薄情な奴だよ」 ……もう呼び捨てで、「奴」呼ばわりか。 おまえとそんなに親しくなった覚えはないけど? と、言ってやりたくなる。 自分のイメージを壊すような真似はしないが。 「イベサーって何ですか?」 突然竜崎が口を挟むと、相手は動物が喋ったのを見たような、 ぎょっとした顔をした。 「あ、流河くんいたんだ」 「さっき目が合いましたよね?無視されましたが」 「他所の大学との合同イベントサークルに入ってるんだ。 主に東応女子大の女の子と一緒に、飲み会したり」 「ほう」 「流河くんも興味ある?あー、でもちょっと怖いからなぁ。 女の子逃げちゃうかも?」 面白くもない事を言って、自分たちでぎゃはぎゃはと下品に笑う。 「大変ですね」 「は?」 「いえ。子どもの頃から遊びらしい遊びもせず、友人も作らず勉強漬けで、 やっと念願叶って東大に入れて、後はもう一生努力するもんか、 今までの分遊びまくってやる、と、必死な様子が、滲み出ていて」 「……はぁ?何それ」 「大した努力もせず首席になってしまった夜神くんや私が羨ましいのは分かりますが 人間天分という物がありますから」 「おたくさぁ!」 「実際夜神くんは東大という肩書きがなくてもいくらでも女の子が寄ってきますし、 ミス東大やモデルと付き合ったりもしてますしね」 男の顔色が変わる。 愛想の良い仮面をかなぐり捨て、ほとんど殺意と言って良い目で 竜崎と僕を交互に睨んだ。 「……ちょっと顔が良いだけでつけ上がりやがって」 「ちょっと、ですかね?メンズ○○の三月号を持っておっかなびっくり美容院に行って この通りの髪型にして下さいとお願いして、その足で渋谷に行って 店員さんに上から下まで全部コーディネートして貰った誰かさんとは 決定的に違います。大変身したつもりでしょうが、坊ちゃん刈りで丸眼鏡の もやしっ子が透けて見えてますよ?」 「!」 男達は無言でがたっ、と立ち上がった後、ばつの悪そうな顔をして うぜぇきめぇと意味の無い負け惜しみを吐きながら去って行った。 「……あんなにやり込めなくても良かったのに」 「あそこまで言えば今後は近付いて来ません。 あんな人間、相手をする価値ないと思いませんか?」 「坊ちゃん刈りで丸眼鏡はどうやって推理したんだ?」 「ああ、推理なんかしていません。受験の時会ったんですよ。 夜神くんはぎりぎりに来たから気付かなかったでしょうが、後ろの方に座ってました」 「そうなんだ……よく覚えてるな」 竜崎はニッと笑って、パフェのプリンにスプーンを突っ込んだ。
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