掌中の王 3
掌中の王 3








ジェバンニによる夜神の取り調べは翌日も以前通り続けられた。

尤も今は殆ど雑談しかしていない。
夜神のストレスを取り除くと同時に、少しづつジェバンニに
心を開かせる目的は達成している。
いつかキラ事件の全容解明に役立つかも知れない。

Lと二人でモニタルームで観察していたが、そういうわけで
口を出すべき場面はなかった。


だが、「あれ」以来初めて二人きりで過ごす気まずさに、
思わず無駄口を叩きたくなってしまう。


「……夜神と過ごしていた時、キラ事件の話題は出ませんでしたか?」

「はい。あの時はお互いワタリの事で頭がいっぱいで」

「そのワイミー氏と、あなたを殺した方法とか」

「私は死神だと思っていますが……確認する余裕はありませんでしたね」


……余裕無く、抱かれていたんですね?

全く。
あのLが、腑抜けたものだ。
七歳から最前線で活躍を続けていたLが。
こんな所で男に狂うとは。

それとも、先日からの度重なる奇行と併せて考えると、
やはり昏睡の影響で脳に障害が?


「それと……夜神に愛を告白したそうですね?」

「……」


不意打ちで驚かせるつもりはなかったが、Lが言葉に詰まったのを見て
少し嗜虐的な気持ちになった。


「彼は、キラ事件の事以外なら、結構何でも私に話してくれるんです」


……私にすら秘密主義のあなたよりもね。
言外に軽く嫌味を含ませて。
Lはこちらを向きもせず、モニタの中の夜神を見つめたままだった。


「L」


頭脳や精神に異常を来していても。
あなたはやはり、Lだ。

そしてそうやっていつでもいつまでも、夜神だけを見つめているのですね。
私など眼中にない。


「ニア……確かに私は、夜神に執着を持っている。
 今更ながらあなたの慧眼を認めます」


それでも。


……あなたを助けたのは、夜神でもワタリでもなく、私だ!


恥も外聞もかなぐり捨てて、そう詰りたくなってしまいます。
時々。

だってきっとあなたは、私が海の泡になって消えたとしても気にもしない。
気づきすらしないかも知れない。


萎えた、形だけの足を引きずって陸に上がったのは
ただあなたに会いたいが為なのに。

あなたは所詮キラと同じ人種だ。
同じ種しか、愛せないんだ。


「でも」


我ながら幼稚だと思ったが、Lの言葉など、もう耳に入れたくなかった。
夜神の話なんかこれ以上聞きたくない。


「そんな夜神を、あなたには安心して預けられる」


……?


「何の、」

「あなたは今や、この世で唯一私が信頼するに足る人物です」

「……」


何故か、呼吸がやや苦しくなっている。
呼吸数が、普段の1.5倍……肺気量にして……何ミリリットルだ。

と、Lがこちらを向いて、すっと私に顔を寄せた。
唇に触れる、柔らかい皮膚。

以前のように、顔を捕まれて無理矢理、ではなく、
夜神のように、甘ったるくしつこいそれでもなく。
啄むような軽いキス。

それでも唯でさえ息が苦しかったので、更に息を止めると
瞼が熱くなって来た。

熱と質量が離れると共に、目が潤んで湿る。
ので、思わず顔を伏せる。


「……L」

「何でしょう?」

「そんな事を……言わないで下さい」

「どうしてですか?」

「私を、信頼したりしないで下さい。
 あなたは一人で十分あのキラを御せる人です」

「はい。まあ、そのくらいには自惚れていますが、
 同じくらいあなたを信じている。いけませんか?」


声が、頭上から降ってくる。
低く、少しハスキーな抑揚の無い声。
それは、目の前の薄い胸の中の肺に共振して、
耳をつければきっと柔らかく響くだろう。

その思考を読んだように、Lはゆっくりと私の頭を引き寄せた。
ああ、暖かく。安定した鼓動を打っている。


……きっと私に乱暴した時も同じように打っていただろう、
胡散臭い、鼓動。


Lは、嘘吐きだ。


私が夜神と近づき過ぎないよう牽制する為に、この位の事はするだろう、
この人なら。
「今や」と言うのは、以前もワイミー氏しかいなかったという意味だろうが、
それも私の情に訴えかける手段の一つに過ぎない。

それでも。


……Lは、決して間違えない。


そのLが、この私を、本気で警戒している。
もっと言えば嫉妬。
それは本来、歓迎すべき状態ではないのだろうが、
何故か甘やかな感情に私の胸は満たされて行った。

そして極めつきは。


「それに、あなたには感謝してもいる。
 あなたがあの時私を甦生してくれたから、今の私があるのですから」

「……」


その声は思った通り、柔らかく優しく耳朶に響き頭蓋に染み渡る。
嫌になる程生暖かく、私の心を絡め取って行った。


感謝している相手に、あんな事をしたのか。
などとは聞かない、Lは少なくとも私に助けられた事をちゃんと認識している。

それは……私にとってはある意味晴天の霹靂で、何だか鼻の奥がツンとした。

素直な喜びと、嫉妬されているという暗い快感と、もっと時期を選んで、
夜神がこの世から消え去ってしまってから甦生すれば良かったという後悔が、
心の中で複雑に交錯する。
きっとそんな私の胸の内も全て、計算済みなのだろうけれど。


ともあれ私は、海の泡にならずに済みそうだ。


あなたが本当に私が眼中になくても。
大量殺人犯を選んだとしても。
その言葉だけで私は生きて行ける。

夜神の心があなたに傾くよう、応援する事は出来ないけれど。

……もう少し覚悟が出来たら、もしかしたら本当に
夜神を盗ってしまうかも知れないけれど。


あなたはいつまでも私の……私たちの憧れであり、尊敬に値する唯一の人物。



Lのシャツに鼻を埋めると、夜神とは違う肌の匂いがした。





--了--




※長い間お読み頂いてありがとうございました!
 そして勿論、きっかけのリク主さんで且つ各タイトル絵でお世話になっている
 クロさんにはSpecial Thanksでございます!

 ご覧になられている方も多いでしょうが、ご自宅では
 漫画や各章のイメージ画も描いて下さっています。
 滅茶苦茶格好良くて、そして自分が原文を書いたとは思えない程
 面白そうです。(笑


 例によって言い訳大半な後書きチックなものを書いておりますので
 よろしければ。→「後書きとか言い訳」








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