八角の棺 6
八角の棺 6








自分の感覚では二時間くらいだったが、恐らく客観的には
もっと何時間も経ったであろう。
やっと、ワタリのアジトはそれなりに普通の部屋のようになった。

饐えたような黴臭いような臭いも少しマシになり、
昨日僕が吐いた物もきれいに片付いている。

我ながら、とても何年も死体が腐り転がっていたとは思えない。


「竜崎」


寝室に戻って手を洗いながら声を掛けると
今度は一度でむくりと起き上がった。


「きれいに、なったよ」

「……」

「ワタリさん、連れて帰れよ」


蓋をしたツールボックスを顎で指すと、じっと見つめたが
確認しようとはしない。


「床の体液も、可能な限り回収した」

「……連れて帰るって。
 それはワタリではなく、カルシウムとタンパク質の塊ですよ」

「おまえが最初に『迎えに来ました』って言ったんだろ」

「……そうでしたかね」


額に手を当てながら、ゆっくりとまた体を横たえる。


「まだ寝るのか?」

「何だか……眠くて、仕方ありません」

「僕は片付け終わった。おまえも、ちょっとは整理しろ」


気持ちを。
と、言わなくても分かるだろう。
僕が言うべき事でもないし。

Lは、ワタリの死に際して乱れたままの自分の精神を、放置している。
きっと今までこんな経験がなかったのだろう。
周囲に(というか僕に)当たってみたり、こんな風に幼児退行してみたり。

幼い彼を養育したのがワタリかどうか分からないが、
動物か何かに親しみ、それを失うという経験をさせておかなかったのは
失敗だと思う。

まあ、「カルシウムとタンパク質」発言からすると
死は特別な事ではないという思想を持っているようで、そこは僕と似ているが。

それでも、慣れ親しんだモノを無くす喪失感に耐えるには
それなりの経験と訓練が必要だ。
ペットロスや卒業式や恋人との別れと言った、
Lには縁が無かったであろう経験が。


「……冷たいです」


毛布をめくり上げ、その体に触れるとLは小さく呟いた。


「良く聞け、竜崎」


痩せた体をだらしなく横たえて、無精ひげを生やしたLは。
何故か僕の欲情をそそった。

死んだ魚のような目。
これが、世界一の頭脳と謳われた、影の支配者と言われた男だ、
という所が堪らない。


「ワタリさんは死んだが、おまえは生きている」


首に唇を寄せると、ざらりとした。


「僕を殺しても良い。おまえにはその権利があるだろう。
 でも、おまえは、生きろ」


考えもせず、どうでも良い口から出任せを言いながら、
昨日(恐らく)もさんざん玩弄した体に指を這わせ、開いていく。

Lは僕の言葉を聞いているのかいないのか、全く返事をしなかったが
体は昨日と違って雄弁に反応した。


「っ……」

「気持ち、良い?」

「……そこは、駄目です夜神くん」

「昨日は全然大丈夫だったのにね。
 そう言われると余計に煽られるな」

「……」

「それとも分かって言ってる?」


口に含むまでもない、手で握っただけで力強く脈打つ。


「その、手で」

「ああ。この手でワタリさんの遺体を運び、ワタリさんの血を、体液を、
 拭った」

「……嫌になる程思考を読みますね」


そんな事を言いながら、僕が手で触れる度に刃物を押しつけられたように
びくびくと震える。
だが、全く嫌そうではなく……どちらかというと興奮しているように見えた。

その手で足を押し開き、膝裏に体重を掛けて限界まで押しつける。
Lの体は、意外にも柔軟だった。


「やはり……入れるのですか」

「ああ。嫌か?」

「……優しく、して下さいね?」

「可愛い事を言うんだね」

「本当ですね……どうやら今の私は、あなたに」


自分でも驚いたように言う、言葉が終わるのを待たずに唾液で濡らした指を入れる。
慎重に前立腺辺りを探ると、昨日は反応がなかったのに、
すぐにぴくぴくと会陰が震えた。


「今日は、どうしたの?」

「……私が、どうかしたのではなく。こういう事はやはり修練ですから、
 昨日の練習であなたが上手くなったんでしょう」

「本当に、そう思ってる?」


我ながら不器用で無様だが。
興奮に声を震わせながら、自らの先を持ってそこにあった穴に押し込む。
Lは目を見開き、歯を食いしばった。
ゆっくりゆっくりと腰を落とすと、眉を寄せながら瞼を閉じる。


「泣いても良いんだよ?」

「……慣れましたから、今日は大丈夫です」

「じゃなくて」


生理的な涙の話ではなく。
大事な人が死んだら泣いても良いと思うし、それによってふっきれる事もある。
というか、感情を抑えすぎるのは体にも精神にも良くない。
と、思ったのが伝わってしまったらしく、Lは突然カッと目を見開いた。


「おまえの前でだけは、絶対に泣かない」


ああ、ニアと似てるな。
余裕が無くなると敬語が使えなくなる癖。
それとも、おまえの場合はわざとか?


「では、本当に泣いて貰おうか」


Lの口調を真似て言うと、険悪に眉を寄せたが
僕が動き始めるとその目はだんだん虚ろになっていった。

半開きの口の奥で、舌が遣る瀬なげにひらひらと蠢く。
その顔を見ているだけで、興奮する自分がいる。


「あっ、あっ……ぅ……」


だんだん、余裕が無くなり、ぎゅっと瞑った目の端から、液体が流れ落ちる。


「ちょ……そんなに、強くしないでくだ、」


僕の腰にしっかりと絡めた足は、僕の動きを止めたいのかも知れないが
まるでもっと深くとねだっているようだ。

もどかしくなって一旦抜き、手でLの足を外す。
そのまま片尻に手を当てると、察して素直に俯せになった。
再び突き入れると、今度は低く一声「あ、」と呻く。

それからお互い這って、獣のように交わった。
僕が腰を押し込む度に嬉しげに震える尾てい骨が、
腰を引く度に未練がましく絡みつく桃紅色の薄皮が、
堪らない、視界から脳に入り込んで中から溶かされる。


「気持ち、いい?竜崎」

「……っん……はぁ、あ、あの、」

「凄く、感じてるよな?」

「わ、私、じ、自分でも信じられませんが、」

「どこが、感じる?」

「刺激によって、というよりは、あなたに、キラに、こんな恥ずかしい事を
 されている、という認識に興奮しているみたいです変態でしょうか私は」


変態は変態だろうけど……そこじゃない、と思うが。
それを口にする余裕も無く、僕も勝手に動きたがる腰を制御するのに
精一杯だ。

何とか少し動きを緩めるとLも一息吐けたようで。
それでも何かが高ぶるらしく、シーツにぽたぽたと滴が垂れた。

ぱたぱた、ぱたたたた、と、突く度に液体は垂れ。
だんだん、上半身が崩れていく。


「っくっ!、う……っく……ううう……」


シーツに顔を埋めた竜崎から聞こえたくぐもった声は、驚くべき事に
限りなく嗚咽に似ていた。
その顔は見えないので本当にそうかどうかは分からない。


構わずに突き続けていると、やがて背が反り返り、
尻だけを高々と持ち上げて締め付けてきた。


「そんなにされたら、もうイクよ、ねえ、おまえも、イクよな?」

「だ、やがみ、くん……ん、」


Lの尻の肉を掴み、痙攣するように腰を振る。

そんな機械のような動きで犯されながら、
Lは勢いよく射精した。

勿論僕も……残っていた精液を、全て絞り出した。






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