八角の棺 4
八角の棺 4








どのくらい経っただろう。
二時間?三時間?

ふと、Lの目が開いた。


「おはよう」


銃を構えたまま言うと、もぞもぞと起き上がった。


「……それで、私を殺すんですか」

「そうしたくない」

「良いですよ。私を殺せばあなたもここから出られない。
 人知れず心中しましょう」


ちっ。
こちらの作戦を読んで、先手を打ってきた。


「ああ……そうだな。どうせ僕の命は長くないんだから、
 ここでおまえを道連れに、というのも悪くないな」

「はい」


Lは無駄口を叩かず、銃に怯んだ様子も見せずにまた横たわり、
ぼんやりと天井に目を遣った。

……いくら死んでも良いと思っていても、武器には本能的に
体が硬くなってしまうものなんじゃないか?普通。

と思ってから、この所Lの様子が普通でなかった事を思い出す。

僕は自分の事で精一杯だったが、Lも……。


『私にとって、ワタリは全てでした』


さっきの、絞り出すような言葉。
ワタリの死体を見て女の子みたいに気を失ったL。

元捜査本部ビルで仕事をしながらこの場所を特定し、
ワタリの死体が数年前から放置されている事を予想し、
それを見つけ、『片付け』る為に……信用できない僕と、ここまで来た。

本当にそれほど大切な人を失ったのだとしたら、
その心中はいかばかりだったかと、いつもならさすがに察するが。

Lだから。

何となく、そんな、ノーマルで月並みな感傷とは
縁が無いような気がしていた……。


「竜崎……ワタリさんは、」


おまえにとって、それほど大切な人だったのか?
……ワタリを殺した僕を、憎んでいるか?

訊きたくなったが、やめた。
聞いても快い答えなんか絶対に帰ってこない。

その代わり、銃を背後に落としてベッドの上に乗り、
Lに覆い被さった。


「……私が気落ちしているのにつけ込むつもりですか」

「つけ込むという程執着はしていないつもりだよ」


ああ、こうして僕は。
誰かにとっては憎むべき犯人であっても、別の誰かにとっては
大切だったかも知れない、沢山の命を奪ってきたよ。
罪も無い、だが、新世界を実現するのに邪魔な人間も。

後悔も懺悔もしない。

ただ僕がおまえにしてやれるのは、最後まで思いのままに振る舞う事。
同情も憐憫も一欠片も見せず、記憶が無かった僕の記憶すら褪せる程
完膚無きまでにおまえの中の僕を、「悪」で塗りつぶしてやるよ。


「慰めてあげるよ」

「あなたが、言う事じゃないですね」

「いいじゃないか。すごく、良くしてやる」


Lのシャツの中に手を入れると、暖かかった。
逆にLはぶるっと体を震わせる。


「そんな事を言って、本当は、仕返しですね?」

「まあそうだ」

「卑怯ですね夜神くん」


Lも感情を見せない目で、クスリとも笑わず言う。
それでもシャツをめくり上げて色の悪い乳首を舌先で嬲ると
身を捩らせた。

その間にジーンズのボタンを外し、中に手を入れる。
僕の指は冷たいだろうな、と思いながらペニスに触れると
ぐにゃぐにゃと、海鼠のように柔らかく生暖かく、
前回触った時よりも気持ち悪く感じた。


しばらく触っても、Lの物は硬くならなかった。
そう言えば一週間前から、勃起はしても決して僕の中で
射精しなかったな。
あれは……ワタリを殺した僕への、精神的な抵抗だったのだろうか。

仕方なく顔を下げ、唇に先を含む。
飴を舐めるように舌先で転がしていると、だんだん大きくなってきた。
何度も口に含みながら、我ながら良くやる、と内心軽く呆れる。

やがて、十分に硬くなった所で、服を脱がせた。
コートとTシャツ、ジーンズに下着。
協力するという程ではないが、Lは全く抵抗しない。
僕も、シャツのボタンを外し、コートと一緒に脱いだ。

電灯と一緒にこの部屋の空調も自動で入っていたのか、いつの間にか
寒くなくなっている。
お互い全裸で絡み合っていても、不快ではなかった。


「ねえ。足、開いて」

「……」

「入れるね」

「……」

「指」


抵抗しないLの、尻の穴をほぐしたが、先ほどと違って何も反応しない。

Lが萎えずに僕を責め苛んだ事を思い出し、中を色々刺激してみたが
やはりLは射精どころか微動だにしなかった。


「竜崎……生きてる?」

「……まぁ、何とか」


僕を抱いていて、楽しくも気持ちよくもなかったのは、本当か……。

理由の掴めない虚脱感に、だんだん僕も萎えそうになってきた。
溜め息を吐いて指を抜き、一旦ベッドから降りて丹念に手を洗う。

それからLの腹に跨がり、膝立ちになって性器を見せつけるように
鼻先で振って見せたが、案の定その顔色は全く変わらなかった。

口に無理矢理押し込むと、僅かに歯を開く。
その従順さに、苛立ちが募った。
舐める気がないのなら、拒め。
抵抗しろ!

何度か腰を動かしたが、口内の熱ともどかしい刺激に堪らなくなり、
結局自らを扱いて飛ばした。

Lは、どこか遠くに視線を遣りながら、無意識のようにゆっくりと舌を出し、
動かして口元を舐める。

口に入れていた時に垂れたLの涎と、その顔に散った僕の精液が、混じった。


僕はまた溜め息を吐いてその顔を拭いてやり、そして寝た。





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