八角の棺 1
八角の棺 1








一階ホールの暖炉の隣、丁度階段の下に当たる部分には
ロープパーテーションで閉鎖された扉がある。
Lはポケットから鍵を取り出してその扉に向かった。

がちゃりと開けると、そこは小さな部屋……というよりはポーチ。
右手にはガラス戸があり、そこからも外に出られるらしい。

だが、客を入れる場所ではないらしく、床には埃がたまってきた。
壁際に古い木製の掃除用具入れや棚があったが、今は使っていないようだ。

内側の壁には配電盤と消火器。
動力室兼物置と言った所か。

Lはその小部屋の隅に向かうと、床板の隙間に鍵を差し込んだ。
折れはしないかと少し心配になったが、あっさり長方形の穴が開く。


「どうぞ」

「……」


穴の中には下に下る階段が見えたが、中は真っ暗だ。
マンホールの中のようで不気味だが、ここを降りるのかと聞くまでもない。
僕は、ゆっくりと足を下ろした。

……このまま蓋を閉められて、上に棚でも置かれたら
洒落にならないな……

そんな事を思ったが、その可能性は十分以上にあった。

Lは僕を殺すつもりなのだ。
自らの手を汚さず、僕に最大限に恐怖を与えて殺すなら
こういった「生きた埋葬」も有効な方法だろう。
何故神戸くんだりまで来たのかは分からないが。


だが、Lは一旦穴から離れて最初の扉に鍵を掛けると、
予想に反して自分も階段を降りてきた。
ご丁寧に、蓋も元通りに閉める。


「真っ暗だ」

「ああ、すみません」


しばらくごそごそと気配がしたかと思うと、突然辺りが明るくなった。
と言っても、LEDの小型懐中電灯だが。
そのまま降りると、階段は少しづつ曲がって斜めに降りていく。


「丁度、上の建物の階段の下くらいですかね……」


背後からの光を頼りに降りると、今度は広めの廊下に出た。


「ここは……」


霊廟……のようだな。
ここが僕の死に場所である可能性は高いだろう。
最後に、あの青い空と海をもう一度見せて貰えば良かった。


「大丈夫です。海抜0メートルですが、浸水対策は
 しっかりしてあると思います」


突き当たりの扉は意外にも新しいスチール製で
病院で見たような、テンキーのロックが付いていた。

Lが近づき、明かりを頼りにいくつかの数字を入力する。
何度かエラーが出て、やっと扉が開いた。
どこかにスイッチかセンサーがあったのか、辺りが明るくなる。


「信じられないな……こんな古い建物に、こんな地下室があるなんて」

「そう思わせるのが狙いでしょうから」


中は狭いながらも近代的なホテルのような部屋だった。
ベッドだってとても入り口からは入れられそうにない。
とすれば、この地下室を作る時に入れたとしか思えないが……。


「どうやって作った?上の洋館はああ見えて意外と新しいのか?」

「建物自体は古いですが、十数年前に移築されてるんですよ」


ああなるほど。
聞いてみれば、トリックと言う程のトリックではない。


「こういった物はいきなり壊される事はありませんし、場所が場所ですから
 地震も当分大丈夫でしょう。
 今言ったようにセキュリティの面でも少し安全です」

「へえ、おまえがこの地下室を作ったんだ?」

「いいえワタリです。私はここの事を全く知りませんでした」

「なら何故、たどり着けた?」

「彼の好みと思考をトレースし、日本国内でここ二十年以内に 移築された
 洋風建築をリストアップすると、ここしか考えられませんでした」


成る程……Lの、というかワタリの秘密のアジトと言う訳か。
キラ事件以前にそんな物を作っていたとは、先見の明があったのか
あるいはまさか各国に作ってあるのか。


「あの奥の扉は?」


二人で左手にあるスライド式のドアの前に立つと、
今度は指紋認証ロックがあった。
Lが指をかざすが、開かない。


「どうしておまえも入れないの」

「……取り敢えずは必要ない、という事ですかね。
 あるいは、キラが死の前の行動を操れる事が分かった時点で
 設定を変えたか……」


Lが、例によって後ろポケットからオートマチック銃を取り出す。
僕が一歩下がると、指紋認証システムに撃ち込んだ。

それから扉に寄り、力一杯引くと、扉はゆっくりとスライドした。






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