長夜の憂 3
長夜の憂 3








動きを止めて顔を上げると、背後から声がする。


「どうかしたんですか?」


振り向くと部屋の入り口付近に、Lが立っていた。

血の気が、引く。
ベッドの上でニアの服を今にも脱がせようとしていた格好で
自らも裸の肩を曝したまま固まる。


「いつの間に……」

「夢中で気付きませんでしたか?」

「何の……用だ」

「用という程の事はありません。私の事は気にせず続けてください」


ぺた、ぺた、といつも通りの裸足の足で近づいて来る。
下のニアを見ると、無表情……というか呆けた顔で反応がなかった。


「……そんな事、出来る筈がないだろう」

「どうしてですか?」

「どうしてって」


ベッドから少し離れた、ライティングデスクの椅子をこちらに向けて
その座面によじ登る。


「お楽しみを邪魔して申し訳ありませんでした」


口元は笑っているが、その見開いた目は全く笑っていない。
ふざけるなと言ってベッドを降りたいが、ニアの上から
ぴくりとも動けなかった。


「なんで……何でおまえにそんな事言われなきゃならないんだ。
 何で見せなければいけないんだ」

「続けなさい」


Lが突然居丈高に言って、手を後ろに回してごそごそを探ったと思うと、
見覚えのある拳銃を取り出してこちらに銃口を向けた。


「おい!冗談でも人に、」

「どうぞ。本当に私の事は気にせず」


気になる!と言いたいが、言えばこいつは警告もなく突然
発砲しそうだと思うと言葉が出なかった。


「そんな……無理だよ……勘弁してくれ」

「別に、さっきの続きですよ?以前も寝たんですよね?
 難しい事ではありません」


この変態!と罵りたいのを我慢して睨みつけると、
Lは腕を伸ばして銃口を上げ、ぴたりと僕の額に狙いをつけた。


「……いいさ。殺したいなら殺せよ。
 一週間くらい寿命が縮まっても、こんな辱めを受けるよりマシだ」


どうせ死ぬなら楽に死にたい、という計算もある。
苦しんで中々死ねない場所を撃たれたりしたら辛いが。

Lは鼻白むかと思ったが、何故か期待通り、とでも言うようにニタリと笑った。
嫌な予感が。


「夜神くん。これが何か分かりますか?」


言いながら、前ポケットから小さな折り紙程度の大きさの、
皺だらけの紙を取り出す。
両手で摘んで掲げるように持ち上げた。


「さあね」

「デスノートです」

「馬鹿を言え」

「本当です。ニアが取って置いたんです」

「嘘だ」


馬鹿馬鹿しい。
あれ程キラもデスノートも嫌っていたニアだ。
ほぼ間違いなく破棄していると思って良いだろうし、
何より死神が見えない。


「それに、もしそれがデスノートだとしても、おまえは僕の名前を書けない」

「どうしてですか?」

「個人の決定でそんな事をしたら、キラと同じになるからだ。
 そんな自己矛盾を受け入れられるか?」

「夜神」


突然、下からニアが声を掛けてきた。


「Lは本当にやりますよ。この目で見ました」

「何を?」

「デスノートで、人を殺すのを」

「まさか」

「本当です」


Lがデスノートを使った……?
そんな馬鹿な。
あれ程キラを憎んだ探偵が、自分もキラと同じ真似をするなんて。


「嘘……吐け」

「そう思っても構いませんが。続きをしないのなら、ここに
 『夜神月、飲まず食わずで死ぬまでニアとセックスし続ける』
 と書きますよ?」


は?冗談か?
だとしたら悪趣味過ぎるが。


「そんな事をしたら、ニアの方が先に死ぬだろう」

「どうでしょう。魅上に依れば、人を巻き込む死に方はさせられないそうですが。
 ニアが先に死ぬなら効きませんね。
 どちらにせよ、書いてみれば分かります」


魅上が供述……?
あいつなら、錯乱でもしない限り僕と自分に不利になる自供はしない。
検事という職業柄、司法取引にも応じないだろう。

なのにLは、リュークに魅上へ伝えさせたデスノートのルールを知っている……。

デスノートを使ったというのは、魅上の死の前の行動を操って
自供させてから殺したのか……?

それなら、やりかねない。
と、納得した。

Lは、自分が欲しい答えを得る為なら手段を選ばない男だ。

と言う事は、今もやはり本気か……。
腕から力が抜けて、ニアの上に覆い被さってしまう。

昨日のような地獄を。
気を失うことも許されず、死ぬまで続けさせられるとしたら、
こんな恐ろしい死に様はないと思った。


「L」


ニアの枕に吹き込まれた、自分の声がくぐもる。
だがLには届いているだろう。


「おまえが……てくれ」

「何ですか?夜神くん」

「……ニアを抱く事は、出来ない。
 おまえが、僕を、好きなだけ抱いてくれ」

「へぇ……あなたが私をせがむとは」


屈辱に震えながら何故か、下にあったニアの体を思い切り抱きしめていた。
溺れる者は藁をも掴む。
何かに縋りたいと思ったのは、初めてだった。

Lが、椅子から降りた気配がする。


「そんなに、ニアを守りたいですか?」


足音が無かったのに、突然耳に直接吹き込まれて
総毛立った。
慌ててニアの体を離して身を起こす。


「そんなんじゃ、ない……」


考えれば、裸足なんだから足音なんかいくらでも殺せるか。

ニアは起き上がると、外れていたパジャマの一番上のボタンを嵌めた。
それからポケットから(今度はそこか)鍵を取り出し、自分の手錠を外す。
それをLに渡すと、Lは自分の手首にはめ、がちゃ、と輪を閉じた。


「L。前も言いましたが、程ほどにしておいて下さい」

「大丈夫です。あなたの可愛い夜神を、そんなに簡単に壊しはしません」


そう言うと、Lは上を向いて舌を出し、鍵を乗せてごくんと飲み込んだ。

やっぱり、普通じゃ無い……


ニアは無言で顔を顰め、ベッドから降りて出て行った。

長い夜が、始まる。





--了--




※似た話が続いてしまいました。





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