空虚の宴 2 Lと向かい合ったニアの表情は見えない。 ただ。 「お願いします」 「預かります」 淡々とした遣り取りがあってニアは退室し、入れ代わりにLが入って来た。 僕に視線を据えたまま、後ろ手に半自動ドアを閉める。 「また、久しぶりですね。夜神くん」 人差し指で下唇を弄りながら、にやりと笑った。 「……毎日、会ってるだろ」 「でもこうして二人きりになるのは久しぶりです」 目を見開いたまま微笑するLはやはり気持ち悪い。 それからぺたぺたと歩いてきて、静かにベッドの上に上ってしゃがんだ。 「何を、するつもりだ?」 「分かりますよね?」 「竜崎」 「はい?」 「殺してくれ」 自分でも軽くパニックに陥っていたと思う。 だがこれから自分に起こり得る事のなかでそれが一番マシに思えた。 Lは、静かに錯乱する僕を楽しそうに見ていた。 「殺しません。まだ償いも後始末もしていないじゃないですか」 「今からそれをさせるのか?」 「いいえ。今からする事は、私の個人的な趣味ですね」 「ならば人権の侵害だ」 Lはしゃがんだまま突然大きく一歩前へ出て、僕の体に跨った。 そして、鼻がつきそうな程顔を近づけて。 「おまえに、人権などない」 僕は思わず唇を噛み、無駄だと分かっていても手錠の鎖を ガチャガチャと引いてしまった。 やはりこいつは、また僕を犯すつもりだ……! 「大人しくして下さい夜神くん。 今度こそあなたも、気持ちよくしてあげますよ」 「どうして、おまえ、僕が嫌いだと言っていたよな? なら何故こんな事をするんだ?」 「……嫌いだから。ですね」 「いや、だから何故、男の、しかも嫌いな相手である僕を抱こうとするんだ!」 「それが一番効率よくあなたを苦しめられる方法らしいからです」 「だからって……おかしいよおまえ」 「ですかね。まあどうでも良いです」 Lは本当にどうでも良さそうに呟いて、覆いかぶさってきた。 寝間着の裾を膝で踏んで、僕の足が暴れられないよう抑える。 襟を掴んで来たので、無駄だと分かっていながら思わず逃れようとすると、 余計に肌蹴て肩まで露出してしまった。 「セクシーですよ、夜神くん」 ニヤリと笑う顔に、映画か何かなら唾を掛ける所だが、 生憎そんな物を吐いた事などなく、僕はただ、精一杯身を捩った。 Lは可笑しそうに僕を見ていたが、ふと何気なく、と言った動きで 拳で僕の脇腹の傷を突く。 「っつぁ!」 「もう痛みは引いてますね。そろそろ抜糸しますか」 「痛、いって!」 「暴れているからですよ。落ち着いて下さい。 前は大人しく受け入れてくれたじゃないですか」 「大人しくしてないけど! 前は……もう長くないと思っていたから自棄になって……」 「そうですか。期限を切ったら協力してくれるんでしょうか? なら、そうですね、刑の執行は一週間後としましょう」 「……!」 「一週間後の今日。あなたに、後始末と償いとをさせます」 「……」 「どうです?その気になってくれましたか?」 突然の宣告に。 思考速度が一気に失速する。 一週間? 何を、 冗談? 嘘? いや……Lは嘘吐きだが、こんなに軽く口にする時は、 逆に真実だ。 それが分かる程度には、僕もこいつを知っている。 「……おまえは、間違ってる。それにニアが許すかどうか」 「説得します。難しい子ですが、私の敵ではありません」 自分の立場を棚に上げて、一瞬、ニアが気の毒だな……と思った。 だが、そんな場合ではない。 あと 一週間……。 切られた、命の期限。 ……元々、おかしくなかったんだ、いつ殺されても。 明日、いや今晩と言われても文句は言えない。 だが。 はっきりと未来が見えるというのは……。 自分の終わりが見えたというのは二度目の経験だが、 前回と違って一週間の猶予があるというのが、逆にきついな……。 「ああ。大人しくなってくれましたね」 あと一週間。 どう生きるか……今度は出来れば毅然と終わりたいが。 だが、一体誰に見せる為に? 息苦しさを感じて気付けば、Lが僕の寝間着の帯を解こうと悪戦苦闘している。 だがもう抵抗する気も起きなかった。 あと一週間。 最後まで冷静に、静かに普段どおりに生きていくか。 それとも、殺される事覚悟でめい一杯Lやニアに抵抗し続けるか。 「……もういいです。ベルトが外れなくても下着を脱がせられるのが キモノの良い所ですね」 ジェバンニに、キラ事件の事を全て伝えて逝くか……。 いや、結局はLやニアに伝わるんだから業腹だな。 しかし逆らって苦しみながら逝かされるよりは……。 処刑の方法は何だろう。 出来れば電気椅子あたりだと有難いが。 「今日は優しく出来ないかも知れませんが。 理解して貰えますね?」 ……いや。 この様子からすれば、楽に殺してはくれないだろう。 それに、「償い」以外にも「後始末」という言葉もあった。 キラの裁きによって秩序を失った何かを、僕に回復させるという事か? だが……失われた命は戻らないし、 キラのお陰で助かった命の方が遥かに多い筈だ。 Lは、「スカートをめくるみたいで興奮しますね」とか何とか言いながら 寝間着の裾を開き、ボクサーブリーフを下ろした。 「少し冷たいですが」 僕の足を開いて間に入り、手に例のワセリンをつける。 前回と同じく、いきなり指を入れてくるのだろうと思って身構えたが、 Lは僕の萎えたペニスをそっと掴んだ。
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