狂気の男 3 「L!」 「動くと怪我をします」 痛くはないが……何とも言えない違和感。 身を捩って逃げたいが、Lは内側で鍵型に指を曲げている。 確かに私が変な動きをしたら、Lの爪は私の腸に食い込むだろう。 「何、何の……。説明を。L」 「実験ですよ」 「……怒って、いるのですね?」 「何をですか?」 「私が、夜神に襲われているあなたを、助けなかったので」 「いいえ。関係ありません。 ただその時に発見があったので、検証したいだけです。 少し協力して下さい」 「断ります」 「そうですか」 頼むような口ぶりをしながら、私が断っても意にも介さない。 どうやら私は、Lに喧嘩を売られているらしい。 それが分かっても、どうしようもないのだが。 やがてLの指は更に入り込んできて。 中の、色々な場所に軽くタッチして行った。 「L。汚いです……」 「手は洗えば大丈夫です」 「もう、やめて下さい。こんな事」 何だこれは……。 私の上にいる、この気持ちの悪い男は一体誰だ。 そう思うが、急所を押さえられて為す術もない。 混乱した思考は正気を取り戻し、この状況を打開する策を模索し始めるが 結局、私には現実を変化させる術などなかった。 そして思考は内側に向かっていく。 つまり……肉体は所詮道具、私本体ではない。 という、現実逃避だ。 虐待を受けた子どもは、新しい人格を作って体を明け渡し、 本来の人格はinner spaceに逃げ込むという話がある。 それはきっとこんな感じかも知れない。 残念ながらと言うか、幸いにもと言うべきか、 私は自らを投げ捨ててしまえる程幼くはないが。 それでも実際、何があっても、最悪手足の二、三本失っても、 私自身には影響はない。 私は私の価値を、頭脳に見出しているので。 この頭脳が失われる時には、それを惜しむ私という者は存在していない。 と思えば、男に気持ち悪い事をされてもどうという事はなかった。 そう、肝を据えた時。 「……っ!」 Lの指がかすめた場所が。 電流を流したように私の息を止める。 思わず、目を閉じた。 歯を食いしばって耐えたが、Lは当然私の反応には気付く。 件の場所を強く押されて、今度は辛さに悲鳴を上げてしまった。 「気持ちよくはなかったですか?」 「き……きついです……」 「そうですか。弱く触れた方が良いんですね」 そう言って、ゆるゆると小刻みに何度も触れる。 その度に背筋が……ゾクっとして、ふくらはぎ辺りからの血が、 ざわざわと股間に集まる気がした。 「L、やめて下さい」 「前立腺と言います。 男ならここを刺激されたら一たまりもないという話ですがどうですか?」 「L……あなた……」 「はい。私も一たまりもありませんでした。 私の特性か、男性全般が本当にそうなのか、確認したかったんです」 微かな刺激を継続的に与えられると、私のペニスが勃起して…… 顔から血の気が引いた。 『……貸金庫を借りる銀行を、給料振込みと同じ銀行にしたのは……』 スピーカからは、相変わらず淡々とした魅上の告白が続く。 どくん。 だが何故かその瞬間、血が逆流したように動悸が激しくなり、 冷たかった顔に血が上るのが感じられた。 どくん、どくん、 意図しないのに、ひく、ひく、と腹筋に不随意な力が入る。 「は……ぁ……」 つい我ながら変な声を出してしまい、息も絶え絶えにLを見上げると……。 後ろ手の中指を私の尻に刺したまま、もう片方の手の親指を咥え 黒い瞳は魅上のモニタに見入っていた。 その間も私の中で蠢く指は休まない。 『私は神……キラの裁きを、そう解釈した。 そこで高田に……』 『その電話で神と直接話せたのは、本当に僥倖だったと思う』 『高田が誘拐されたとTVのニュースで見た時は……』 『ノートに書いた名前はいちいち覚えていない』 魅上の話は、論理的で感情を交えず、単調だ。 ……逆に私はと言えば、Lの指の震え一つで感覚をかき混ぜられ続け、 三回目の吐精を迎える頃には地獄だった。 がくがくと体中が震え、精液だけでなく、涙や涎が流れるのを 止められない。 『私の削除基準は、』 魅上は何を思ったかいきなり立ち上がり、落ち着かなく狭い独房の中で 歩き回り始めた。 『ただ、社会のゴミ……』 『……私より恵まれた環境に居たくせに、胡坐をかいて努力をせず……』 『不平、不満を……。おまえに、私の気持ちが分かるのかと』 『……』 『私は……私は……、犯罪者だけではない、法律に意味など……』 『……』 『私の……裁きの基準は……、神と、違った?』
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