狂気の男 2
狂気の男 2








  魅上 照



思わずいくつかあるモニタの内の一つを振り返る。
遠く離れた監獄にいる、魅上の様子を中継している映像だ。

当然、一旦日本警察を経由してからこちらに回して貰っているのだが、
彼の存在はまだ公にはなっていない。
夜神月の名も含めて、キラ事件やデスノートについてどこまで公表するか、
相沢達はまだ結論を出せないでいた。

魅上は倉庫では取り乱していたが、さすがは検事だけある、
不当逮捕だと訴え、弁護士同伴でなければと黙秘の態度を貫いていた。

今も、デスノートに名を書かれたとも知らず、静かに机に向かって
何か書物を読んでいる。

Lはそんな魅上の様子に目もやらず、ノートを見つめたまま少し考えて


  キラ、キラ事件、デスノートについて知っている事を全て告白し
  自らの罪を全て悔い改め、心安らかに死ぬ


と、書き加えた。
その後、一番上に「彼の神に関する事以外」と更に付け加える。
ぎりぎり38秒、すぐに魅上は、読んでいた書物をぱたんと閉じた。

そして、監視カメラを見上げる。



『あれは、2009年の11月27日……』



魅上の、澱みない告白が始まった。
録画してあるが、日本警察の面々も今モニタ前に釘付けになっている事だろう。

私もモニタ前まで這ってそれを観ながら、何気ない振りをしてLに尋ねた。


「……罪を認め、悔い改めた上で安らかに死ぬのは無理じゃないですか?」

「実験ですよ」


まるで朝食のメニューでも聞かれたかのように、淡々と答える。
人一人の命を、その手で奪っておいて(まだだが)何の感情も見せない。

ふと、この人にもキラに似た不気味さ……狂気を感じた。


「……夜神月の名を伏せたのは?」

「彼が生きているからです」


生きていようが死んでいようが、これだけの大罪人だ。
名が公表されるのは当たり前だろう。
しかも、公には既に死んだ事になっている。


「やはり……彼を、哀れんでいるのですか。
 彼に、情を掛けているのですか」

「聞きにくい事をはっきり訊きますね」


Lが、親指をくわえたまま少し笑った。


「ですが、関係ありません。私は彼を使いたいと考えているので、
 彼の顔が死者として公表されてしまうと困るだけです」

「夜神を、使う?」

「はい」


私は……苛立ちを止められなかった。
夜神を仕留めたのは私だ。
私の、獲物だ。

私に相談するならまだしも、勝手に夜神の使い道を考えるなんて
いくらLでも許せない。
その使い道がいくら正しく、公益に帰するものだとしてもだ。

これは……嫉妬とは分けて考えても良い感情だろう。


『その時は特に、良心の呵責は感じなかった……。私は、』


魅上の、半眼の静かな顔。
まるで書いてある物を読み上げるようによくまとめられ、時系列に沿って
知った事、自分の行動、その時の心境を澱みなく語っていった。






「用事は、それだけですか?」


魅上が話し続けているので沈黙が苦になる事はなかったが、
自分の背後にじっとLが佇んでいるのは、気分の良い物ではない。


「ああ……」


Lは、寝ていて目覚めたような声を出して、椅子から降りた。
ぺた。ぺた、と歩いて近づいて来る。
一歩づつ距離が縮まるにつれ緊張は高まるが……
まだ臨戦の心構えが出来ていない内。

不意に、肘を掴まれて引かれた。


「?!」


勢いよく後ろに倒れ、頭を庇って体を丸めた所で横になった腰の上に
重みが圧し掛かってくる。
椅子に座ったまま横に倒れたような体勢で、Lに跨ぎ乗られて
身動きが取れなくなった。


「何……」


言おうとしたら、無造作に腰に手が伸び、パジャマと下着を一気に太腿まで下ろされる。

尻を叩くのか……?

私は今まで尻を叩かれた事がない。
叩かれるような事もしなかった。

いや、尻を叩かれる子どもなんて、古いジュブナイルにしか存在しない。
ハウスでだって、余程酷い悪戯をする子どもも体罰は受けなかった。
せいぜい訓戒だ。
そういう時代だ。

Lは長い間寝ていたから……いや、Lのブランクはたった数年……

動けない……混乱しながら散らかった思考を集めようとしていると、
Lがポケットから何かチューブを取り出した。


「……何ですか、それは」

「ニアも恥ずかしがらないんですね」

「答えてください」

「ワセリンです」


ニア「も」って。
誰と比べているんだ。
というかワセリン?それを一体、

と訝しんでいると、Lは中指に出してその手を自分の背後に回し……
突然、私の尻の局部……肛門に、触れた。


「L!」


無言で、ワセリンを塗りこめて行く。
Lの指と私の体温で暖められた軟膏は、すぐに緩んでクチ、と
音を立て始めた。
恥ずかしいとかそんな感情よりも、ただただ驚愕する。


「何のつもりですか」

「……」


Lの中指は、穴の周囲と中心をしつこい程に丹念に撫で回し、
少し内側にまで爪先が入り込んできて怖い。
と思っていると、不意に、深く指が入り込んできた。






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