硝子の塔 1 「何、」 「Lだ!」 遠くでキリキリキリ……と何か鋭い音が高くなったり低くなったり したかと思うと、再び地響きがする。 「何の音だろう……」 「行ってみましょう」 先程までの事がなかったかのように二人で息を合わせてベッドから飛び降り、 ドアの外に向かった。 片手で傷の痛む脇腹を押さえ、もう片方の手で角を曲がる度に転びそうになる ニアの手を引く。 エレベーターホールに着くと、夜なのにスーツを着たジェバンニと鉢合わせた。 エレベーターの内、一基の扉の隙間から白煙が滲み出ている。 「何事ですか」 「地階辺りから立ち上って来ています。 侵入者に、エレベーターを破壊された模様です」 「Lは今地階にいると?」 「Lかどうかは分かりませんが、恐らく」 「監視カメラは?」 「リドナーが確認しています。何者にしろ姿を確認できたら 連絡がある筈です」 Lは、どうやって入って来たのだろう……。 入るだけならまだしも、リドナー達に気づかれずというのはほぼ不可能だ。 破壊されたエレベーター……先程のキリキリという音。 ……そうか。 「ニア、上だ」 「何ですって?」 「Lがいるのは、屋上だ。侵入する為に、屋上に繋がっている方の エレベーターの扉を破壊したんだろう。 その衝撃で箱を釣っているワイヤーが切れ、下に落ちて行ったんだ」 「なるほど」 「ニア、急ぎましょう」 ニアとジェバンニは、破壊されていない方のエレベーターに向かった。 僕も慌てて着いていく。 「どこへ行くんだ?」 「地階にあるシェルターです」 「そんな物があったのか?」 「緊急避難用です。キラに対抗するために建てたビルなのですから その位はあって当然です」 早足でエレベーターに乗り込んだ所で、ジェバンニのインカムが 小さく音を立てた。 スピーカースイッチを押した途端にリドナーの焦った声が、 『ニア、急いでボタンを押してください!』 ジェバンニが地階のボタンを押すと、リドナーが安堵したように 少し低い声で続けた。 『Lが、最上階に現れました。一人です。 破壊されたエレベーター……A号機の扉を開けて出てきたのですが、 SMAWらしき武器を持っています』 「なるほど。それで屋上のエレベーターの扉を破壊したのですね?」 『はい。今そのC号機に向かって……あ、今到着しました。 階数ボタンを見上げています。 あなた方が地階に向かったのは分かりますから、急いでください』 Lが今、このエレベーターの遥か上方にいるのか……。 見える筈が無いのに全員、天井を見上げてしまう。 しかしどうやって屋上に登ったのだろう。 それにどうやってこんなに短期間で、そんな物騒な武器を手に入れたのか。 とにかく、手段を選ばないらしい様子に、背筋が凍った。 『地階に着いたらエレベーターの電源を落としましょうか』 「いえ。一度エレベーターを返して、Lが乗ってからにして下さい。 そんな単純な手に引っかかるとは思えませんが、Lが我を忘れていれば 捕らえる事が出来るかも知れません」 『ああ、申し訳ありません、Lはゆっくりと階段ホールに向かっています』 「でしょうね」 そう言った途端、軽くGが掛かって箱が停止し、電子音が鳴る。 扉が開くと、前は広めの通路で、左手に行くと地下駐車場、 右は行った事のない場所だった。 「リドナーは置いてきて大丈夫なのか?」 「シェルターに入ってしまえば、Lがいくらリドナーを締め上げても どうしようもありません。 Lがリドナーに手を出す事は絶対にありません」 「そうか……」 「因みにジェバンニも、外に残って貰おうと思っています。 こちらは少々危険かも知れませんが、大丈夫ですか?」 「……はい……」 通路を進みながらニアが言うと、ジェバンニも微かに顔を引きつらせながら 答える。 ご愁傷様というやつだ。 「じゃあ、おまえと僕と二人きりで入るのか?」 「外の様子はカメラで見られますし、中の様子も同様に外に見えるので 心配ありません」 僕に襲われて先程の続きをされる心配はない、か。 この非常時にそんな事するか!
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