虚構の檻 4
虚構の檻 4








「そうですか。良かったです」

「っ痛!」


Lがいきなりのしかかってきたので、無意識に脇腹に力が入る。


「何だよ……」

「で。話は戻るんですが、私溜まってますので」

「ちょ、っと待てよ、え、何?」


Lは、少し顔を顰めた。
笑いを噛み殺したのかも知れない。


「あなたとは長く過ごしましたが、そんなに狼狽ているのを見たのは
 初めてです」

「もしかしておまえは、僕と……その、するつもりなのか?」

「はい。言ってませんでしたが、私、ゲイなんですよ」

「嘘だろ?!」


また腹に激痛が走って、思わず歯を食いしばる。

それが本当だとしたら、そんな奴と24時間繋がっていたなんて怖過ぎるし
それを全く悟らせなかったLの精神力も凄過ぎる。


「嘘です」

「ああ……そう」

「でも、今あなたを抱こうとしているのは本当です」

「どっちだよ」


数年ぶりに会ったLと。
何を掛け合い漫才みたいな事をしているんだと思うと、
力なくつっこんだ後、思わず笑いが漏れた。
Lでも、冗談を言うのか。


「痛たたた……傷口が、開く」


だが、僕は既にキラとして拘束され、先も知れている或る意味気楽な身分で
Lを殺す必要もなく、Lに狙われる事もない。

そんな状況で、単なる知り合いとしてLに出会ったのは初めてで
何とも不思議な気分だった。

Lは、笑いもせずに僕の患者衣の紐を引いて解く。


「……怪我人相手に、強姦みたいな事をするのか?」

「そうしたくないので大人しくして下さい。
 実は私も目覚めたばかりで、ここに入院している身です。
 筋肉も衰えて非力ですから、逆に手加減出来ません」

「……」


冗談、じゃないのか?
真顔で説明されて、洒落にならない状況なんじゃないかと気付く。


「なら止めろよ……」

「止めません」


何だよそれ。
笑えよ。
笑って種明かしをしろよ。
僕の何を試したいんだ?何を引き出したいんだ?


「申し訳ありませんが、止めません。
 これは試験でも冗談でもなく、敢えて名づけるなら……まあ儀式ですかね」


儀式……。
どちらが上か、僕に思い知らせたいって言うのか?
顔から、血の気が引く。

確かにこの世に、おまえと僕は両立出来ない。

ただでさえ明日をも知れない身の僕だ。
こうしておまえが目の前に現れたと言う事は、きっと長くないのだろう。

Lが僕を深く知り、屠りたいと思うのなら今が最後のチャンス。
おまえは人間関係はとてつもなく不器用そうだから、僕を手に入れるのに
こんな方法しか思いつかないんだな……。


「ああ……そう」


哀れまれて然るべき身の上なのに、僕はLを哀れに思った。
体から、力が抜けていく。

どうせ体も、プライドとやらも、既にボロボロだ。
この僕を翻弄し、殺されても見事に復活したおまえへの褒賞として
体くらい好きにさせてやるよ……。


「……」


僕が抵抗を止めたのにLは眉を開き、無言で、自らのTシャツとジーンズを脱ぐ。
それから僕の衣を開いた。
紙おむつにも眉一つ動かさず、ばりばりと剥いでいく。


「シャワー、浴びてなくて悪いね」

「食事の後、寝ている間に私が清拭しました。恥ずかしがって
 寝た振りをしてるのかと思いましたが本当に眠ってたんですね?」


そうか……他人に体を触られて起きない筈はないと思うけれど。
Lの気配は気にしなくて良いと、気にしていたら生活出来ないと、
あの手錠生活中に体に刻み込まれてしまったのかも知れない。


Lは僕の足の間に入り、脇腹のガーゼを少しめくると
傷口を見て何か納得したように二、三度小さく頷いて元に戻した。

それから、僕の膝を立てさせて尻を持ち上げる。


「ちょっと待ってくれ。いきなり?」

「私はもう勃起してます。
 あなたを気持ちよく出来なかったら申し訳ありません」

「いやいや、そういう事じゃなくて。
 濡れてないと、入らないと思うんだけど」

「ああ……」


Lはまた、患部を観察する医者のような目で僕の足の間を……
恐らく尻の辺りを見た後、急に大きく口を開いて
自分の人差し指と中指をべろりと舐めた。

たっぷり唾液を絡めた後、自らの物に擦り付けたのだろう、
それからその指を……僕の口に押し付けた。


「唾液を下さい。あなたが、良いと思う量を」

「……!」


いやだ、Lの唾液がついた、しかも性器を触った指なんて
舐めたくない、
そう言いたい口をその指で塞がれて。

えづきそうになりながら、僕は結果的にLの指を唾液で濡らす事になった。
……久しく忘れていた、殺意が蘇る。


「竜崎!」


漸く口から指が離れ、叫ぶとまた腹に力が入って気が遠くなりそうに痛んだ。
なのに上の男からは「何ですか?」ととぼけた返事がある。


「やっぱり、嫌だ」

「今更ですよ」


Lは意にも介さず、僕の肛門に触れる。


「嫌だって言ってるだろう……!」

「今更止められないと言っているでしょう。動くと怪我しますよ?」

「……!」


思わず体を硬くすると、何度か周囲に塗りこむように動いた指はやがて
くちゅ、と小さな音をさせて僕の中に入り込んで来た。
思わず息を飲み込む。

痛みは感じないが、嫌な違和感がある。
下の世話にまでなっておいて言う事でもないだろうが、やはり
体の中に触られるのには嫌悪感があった。

それに耐えていると、やがてもう一本の指も入り込んで来て。


「痛いですか?」

「いや……でも、本当にもう止めて欲しい」

「夜神くんは、こういう場面では意外と弱音を吐くんですね。
 可愛いですよ」

「おまえこそ、こういう場面でもしつこいんだな。何故止めない?」

「理由なんかありません。
 強いて言えば、男の生理、ですかね」


そう言うとLは指を抜き、僕の腰を抱えなおした。
濡れた硬い物が、肛門の周辺を不器用に突つく。


「あなたにも、覚えがあるでしょう?」


それは男だからあるけれど。

男なのに、男の前で足を開いて尻の穴にペニスを当てられているなんて。
一体何のコメディだ。
そんな現実逃避をしていると、Lは狙いを定めたように
ぐい、と入り込んで来た。


……痛い!!


「やめろ!」


思わず叫んで足を動かしたが、激痛が走った割りに
何程の抵抗にもなっていない。
足でLの腰を挟んで動きを止めようとしたが、Lには全く効かず
体重を掛けて膝を開かれた。


「は……ぅ……!」


……覚悟はしていたが、肉を裂かれるようだった。
いや、実際裂かれているのか。

体の中に、大きな異物が入って来る痛み。
注射針でチクリと刺されるのとは訳が違う。


「竜崎……少し、待ってくれ……」

「今日は『待った』ばかりですね?夜神くん」


自分のしわがれ声と、Lの余裕ありげな声。
だが、腹を立てる余裕もない。

無理だ……。
いや、世間には肛門性交をする者も少なくないのだから
きっと大丈夫。なんだろう。……な?
などと埒もない事を考えるがやっぱり、

その間にも、Lはじわじわと入り込んで来る。


痛い。痛い痛い痛い痛い。痛い。

止めてくれ止めてくれ止めてくれ止めてくれ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……


いやだ!






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