兄弟喧嘩 2
兄弟喧嘩 2








「それにしても……」

「うん?どうした?」

「夜神さんから見れば、私も息子のような物なんでしょうか」

「だろうね、年齢的に。殆ど一緒に生活していると情が移って
 僕以外に息子がいたような気がして来たんじゃない?」

「そうですか……そんな扱いを受けたのは初めてで、正直戸惑いました」


ああそうか……。
竜崎は、「お兄ちゃん」呼ばわりされて怒っていた訳ではなくて
家族じみた事を言われて戸惑っていたのか。


「竜崎には、兄弟はいないの?」

「Lのプライバシーは極秘です」

「聞かなくても分かるよ。一人っ子だろ」

「逆に滅茶苦茶兄弟が多いかも知れませんね」


幼少期、年の近い誰かと否応なしに深く関わった事がない性質。
それが滲み出ている自覚はある訳か。


「それでもまあ、一般的な家庭で育った訳ではありませんから
 本当に新鮮でした」

「家庭、か……」


この事件が片付いたら、一度竜崎を我が家に招待したいと思った。
母の手料理、下らない駄洒落、粧裕の呆れまじりの笑い声。
時折ぼそりと惚けた事を言う父。
竜崎がどんな育ち方をしてきたのか知らないが、家庭の温もりとは無縁だったような気がする。

本当に、見せてみたい。
言っても無理に決まっているから言わないけれど。


「妹はいいぞ。可愛くて」

「でしょうね。例えキラでも、自分の目的、自分の命、その次くらいには
 大事にしそうです」

「いやだから……」

「弟はどうでしょう」


竜崎は、いつも通りぽっかり空いた黒い目で僕をじっと見ていた。


「……可愛いんじゃないの。僕にはいないから分からないけど」

「そうですね」


相手が竜崎でなければ。
ただの年上の友人なら、「可愛がってくれるなら弟になりますよ」くらい言っても良い。
先方も冗談として返したり流したりしてくれるだろうから。

けれどこと竜崎となると、どんな揚げ足を取られるか分からない。
それともこれも、僕がキラらしいかどうかのテストだろうか。


「弟が、欲しい?」

「いりません」

「……」

「が、夜神くんのように良くできた手の掛からない弟なら欲しいかも知れません」


突然持ち上げるような事を言われて、思わず少し顔に血が上ってしまった。
ほんの少しだけ、心の距離が縮まったのか。
いや油断してはいけない。


「……どうも。誉めてくれたお礼になってやってもいいよ」

「そうですか。私が夜神家に養子に入る訳には行きませんので、
 夜神くんに私の戸籍に入って貰わねばなりませんね。
 でもそうすると都合上、弟にはなれませんので私の義理の息子という事に」

「いやいやいやだから違うから。偶に『お兄ちゃん』と呼んでやるだけだから」

「そういうプレイですか?」

「兄弟でそういう事するか!弟には手を出すな!」

「じゃあやっぱり弟いりません」

「変質者!というか弟じゃなくても手を出すな!」


ここで釘を刺しておかなければ。
昨日は寝込んでいたから夜もさすがに手を出して来なかったが
今晩が肝心だ。


「それに、殺したくもないですからね、やはりあなたとは他人でいましょう」


話聞け!というか。


「はあ?何でそこで殺すとか殺されるとかいう話になるんだよ」

「大昔から兄は弟を殺す物と決まっています」

「ああ……」


カインとアベルの話か。
キリスト教では人類史上初の殺人事件は、実の弟殺しだとされている。
カインは、アベルに嫉妬して殺し、神に初めての嘘を吐いた。


「兄妹や姉弟や姉妹と違って、兄弟というのは難しいと思いますよ。
 特別な愛情で結ばれる反面、殺したい程憎みあっていたりもする」

「それはまるで、」


それはまるで……おまえと、キラじゃないか。
おまえは強くキラに惹かれている。性的欲求を感じる程に。
同時に生かしておけない程憎んでもいる。

僕の勘に過ぎないけれど、きっとキラもそうなんじゃないかという気がする。

僕にもし遠隔殺人をする能力があったら、キラに近い行動を取ったと思う。
その能力を最大限に生かして、善良な人々が住み易い世界を作りたいと願うだろう。

でも、おまえを知って、それとは別の意味で自分がキラじゃない事を残念に思う。

竜崎に、特別な視線で見つめられたい。
世界の切り札の、好敵手でありたい。



「私が殺したいのは、キラだけです」

「……」

「あなたがキラでないのならば、私の弟にならないで下さい」



そもそも何故神は、兄弟を公平に扱わなかったのだろう。

同じだけの才能を持ち、努力をした二人の兄弟。
等しく神が愛せば、悲劇も起こらなかったろうに。



「……僕は竜崎ほど、神に愛されてないよ」

「死神にもですか?」

「そうだとしたら、僕に嫉妬するか?」

「しませんね。全く」



おまえが、僕を見つめる。キラとして。

その視線に、僕は少し、酔う。



「僕は、キラじゃない」

「そうですか」

「だから僕に嫉妬する必要は全くないよ……兄さん」

「……」





--了--






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