個人教授 8
個人教授 8








「シャワーを浴びたいのですが、良いでしょうか?」


お互い達して、荒い息が整うやいなや竜崎はまたいつもの
膝を抱えた座り方をした。

事後に、もう少し気の利いた言い草はないのかと思ったが
竜崎らしいと言えば竜崎らしい。


「ごめん……もうちょっと、待って」


腰が、開かされっぱなしだった太股が、受け入れていた場所が、辛い。
だがもう五分もすれば「無理をすれば動けなくもない」という程までには回復するだろう。


「もうちょっとと言うのは、ワタリにケーキを持ってきて貰って
 それを食べ終われる程の時間ですか?」

「やめろよ……五分。五分経ったら、一緒にバスルームに行くから」

「分かりました」


何を考えているんだ……僕はこの汚れたシーツさえどう始末しようかと
頭を悩ませているというのに。


「カメラで……見られてないよな……」

「見られるのは嫌ですか?」

「当たり前だろう!」

「大丈夫です。捜査本部のモニターでこの部屋を監視可能だったのは、
 最初の三日だけです」

「そうなのか?!」

「はい。あとはその三日分の録画を交代で流しているだけです」

「何でそんな事を」

「もし私が夜も仕事をしている事がばれたら、夜神さんたちがうるさいでしょう。
 自分のペースを乱されるのは嫌です」


そう言えば最初の三日は、竜崎も連続で横たわっていた。
録画用だったのか。
いや、他の捜査員達に気を使わせない為だとは思うけれど。


「……勝手なんだな」

「カメラを気にしていたから、あんなに大人しかったんですね、月くん」

「関係ない」

「もう一度、乱れてみますか?」

「おまえは……誰もこの部屋を見ることが出来ないと知っていたから、
 本性を出したんだな」

「本性?」


本気で分からないかのように、頭を傾げる。
時々こういうしらばっくれ方に、殺意が湧きそうになる。


「知らなかったよ。おまえがあんなに残虐で変態的な嗜好を持っているなんて」

「ああ……。でも、あなたもその言葉に随分興奮しているように見えましたが」

「……」

「世間には、キラが正義の味方の振りをしたサディストだという人も多くいます」

「……なんだ急に」

「一理ありますが、私には同時にマゾヒスト的傾向をも
 多く併せ持っているんじゃないかと思えてなりません」

「……」

「キラは人を裁く時、自分の心も削れていくのが分かっている。
 それでいて、その事すら楽しんでいるんですよ」

「……まさかそれで、わざと僕をあんな風に煽ったのか。
 おまえの趣味じゃないっていうのか」

「当たり前です。キラの容疑が確定したら、普通に死刑台に送りますよ」


何だか……とても脱力する。
ほんの十分前までお互いあんなに乱れて。
竜崎に狂っていると、竜崎も僕に狂っていると、思っていたのがバカみたいだ。


「あなただって、女の子としている時に嘘を吐くと言ったじゃないですか」

「……それで、キラのセックスイメージとの合致割合は」

「答え合わせが必要ですか?」

「いや……必要ない」


そろそろと体を起こしてみると、節々の痛みについ呻いてしまう。
体の辛さに加えて精神のダメージが、地味に効いて来る。


「何だか元気がないですね」


竜崎が膝を崩してずず、とこちらに這い寄って
顔を覗き込んできた。


「おまえの、嘘は……」

「傷つきましたか?」

「……」

「それは、私を好きになったということでしょうか」

「誰が!」


確かに、おまえの手足の先から一寸刻みにすると言われて、
それが嘘だと告げられたら喜ぶべきだろう。
でも。


「本当の事も言いましたよ」

「いいよ、もう」

「まず、髭を永久脱毛しているのは本当です」

「……」


いいと言いながら、少しでも期待した僕がバカだった。


「キラに、欲情するのも」

「……やっぱり変態だな」

「性技を習ったのは本当、あなたが少年だからという理由で
 思いとどまろうとしたのは嘘です」

「分かってるよ。もういいって」

「あなたに狂ったのも本当です」

「……」


あり得ない。
あんな最中に僕を試し、冷静に観察した。
セックスの間にすら捜査してしまうなんて、逆に可哀相だと思う。


「それは、嘘だ」

「本当です。あなたに欲情しました。我を失いました」

「それは、僕がキラだと言ったからだろ?すぐに否定したじゃないか」

「それでも、です」

「複雑な気分だよ」

「それは、相反する二つの感情が喚起されるという事ですか?
 キラだと思われるのは不本意。でも……」

「そう。……いや!違う!」

「違いませんよ。あなたは私に欲情されるのは嬉しいんです。
 キラでなくても、私に求められたいと思っている」

「思ってない!」

「月くん」

「なんだ変態!」

「可愛いですよ」

「〜〜〜〜〜!」



コイツは!
変わり者だとは思っていたが、ここまで性格が悪いとは思わなかった。
いや、性格の悪さを隠すために、変わり者の振りをしているんじゃないだろうか。

セックスなんて無縁です、みたいな顔をしてあんなだったように、
本当は一般的な、誰も怒らせないような常識的な言動も出来るんじゃないのか?



「ちょっ、痛たたた、どこに行くんですか」

「シャワー!……うわ!」


体が回復したのを確認してベッドから降り、大股で歩きだすと、
足の間を、生温い粘液がどろりと伝い下りていった。
このタイミングで、忌々しい。


「ああー、私のですね。すみません。おぶって行きましょうか?」

「いい!」


床に垂れる前にと早足でバスルームに向かうと、竜崎も慌てて
Tシャツを脱ぎながら着いてきた。


「月くん、月くん、もう一つ本当の事があるんですが聞いてくれますか」

「聞かない」

「あなたのあそこが相当の名器だというのも本当ですよ!」

「!……」


今度こそ、僕の握り拳は竜崎の顎にヒットした。


「おまえの暴言の数々、今の一発でおあいこだろう!」

「…………っつ。……脳が揺れたじゃないですか。
 言葉と実際の暴力は釣り合わないと思いますが……」

「文句があるなら、掛かって来いよ」

「まあ、痛い思いもさせましたし処女も頂いたので良しとしましょう」

「っ殺す!僕はキラじゃないが、おまえだけは絶対に殺す!」


家庭ではおろか、同級生に対しても使ったことのない言葉だが
竜崎のわざとこういう物言いをする所は一生許容出来ないと思う。


「……あなたが本当に……」

「何だよ!」

「本当に、万が一キラでなければ、一生のパートナーにお願いしたい程、
 夜神月くんは魅力的な人ですよ」

「……」


咄嗟に何も言えなくて、黙ってシャワーを出す。

世界一の探偵に言われていると思うと、面映ゆいような。

でも、竜崎は僕がキラでほぼ確定だと思っている。
ありそうであり得ない未来を口にしてみただけ。
そう思うと切なくもある。

……いや、男なんだからこっちからもあり得ないけど!


「あなたは素晴らしいです。その頭脳も、カラダも」

「カラダ言うな!」

「本当です。抱き心地も良いです。東洋人の美少年サイコー」


下手くそな冗談に紛らわせて、抱きしめてキスをするなんて。
竜崎らしくない。

でも、意外と竜崎らしいのかも知れない。

一晩で、竜崎の知らなかった面をたくさん見てしまった。
僕も、誰にも見せたことのない顔をたくさん曝してしまった。




……キラでなければ、一生のパートナーにお願いしたい程……


直後に冗談に強引に紛らわせた所を見ると、案外本音なのかも知れない。
自惚れ過ぎだろうか。
いや……コイツの事だから、僕がそう考える事も計算の内だろうか。


……僕は本当にキラじゃありませんからよろしくお願いします……


そう返事をしたら、どんな顔を見せてくれただろうか。




「シャワールームのカメラも操作しているだろうな」

「勿論。こんな事もあろうかと」

「嘘付け。普通に、夜中のトイレで寝室カメラと矛盾しないように、だろ」

「はい。でも、だから、こうして、」


猫背の竜崎が、更に少し屈んで僕の足の間に手を入れる。
黙って耐えていると、 尻の穴に指を入れて中の精液を掻き出した。
……それだけの事で、ぴくんと、陰茎が震える。

ニッと上目遣いに見上げる竜崎に、自分が無言で彼の下着に手を入れてしまった理由が
何となく分かってしまったような気がした。






--了--






※色々詰め込みすぎました。
 Lが好きです。
 この二人は何とか助けたいものです。
 助け方を思いついたらまた続きを書くかも知れません。
 手段は選ばないというか多少強引な事はします。






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