個人教授 7 舌でペニスを舐められて感じただけでも屈辱なのに。 前を全く刺激されず、後ろの穴に指を入れられただけで また射精直前まで追い込まれている。 自分の体じゃないようだった。 こんなに思い通りにならないものだっただろうか。 「舐めて、いただけますか」 不意に鼻先に、血管が浮き上がった物が突きつけられた。 下から見上げると怒張したそれはやけに大きく見える。 先走りに濡れ、滴を垂らしそうな先端は牡の匂いを放っていた。 普段は性の匂いはおろか、人間くさささえほとんど感じさせない竜崎。 きっと誰に聞いても中性的、いや無性なイメージを持っているだろう。 そんな竜崎が、今はどうしようもなくオスだった。 本能的に恐怖すら感じる。 体格的にはほぼ互角、腕っ節も多分同じくらい。 怪我を恐れず本気で抗えば逃げられなくもない筈だったが 今は、少なくとも今だけは、僕は格下のオスでしかなかった。 「噛み付くぞ」と嫌がらせを言う気力もなく、ただ小さく首を振ると、 竜崎は「そうですか」とあっさりと引き下がる。 恐らく「これがこれからお前の中に入るんだぞ」と見せつけただけで 目的は達したのだろう。 「まあ、そちらもこちらも濡れているので何とかなるでしょう」 「……」 本当に挿れるのかと、聞くほど愚かではない。 せめて見苦しくない態度でありたいと、平静な顔を心がけた。 竜崎は、Tシャツを脱がないまま僕の片足を抱えて覆い被さってきた。 真っ黒な石のような目が迫ってきて、唇が触れる。 勢い良く避けて横を向くと、頬を唾液の筋が走った。 「今更ですよ」 「そうじゃない。これは、キスなんだろ?」 「ええ」 「なら目を閉じろよ」 「そうでした」 上を向くと今度は唇よりも先に、長い舌が真っ直ぐに降りてきて 口の中に入り込んでくる。 吐きそうになる程喉の奥に舌先が達した時、やっと唇が合わせられた。 長い長い、キス。 息苦しくなる程、癖になりそうな程、二度目でも快感から逃れられない。 僕が、不器用ながらも(竜崎に比べたら、だ)舌を絡めると それに応えてくれるのが嬉しい。 ざらざらとした、味蕾を摺り合わせていると下の穴に、濡れた肉が押しつけられる。 受け入れる為に可能な限り体の力を抜くと、竜崎の舌が逃げて行って 唇が離れた。 「……何」 「『L』に抱かれるのはどんな気分だ?『キラ』」 耳元で囁かれたのでその表情は見えない。 瞬間的に拳を握って、竜崎の顔にぶち当てようとしたが、 その前にずぶりと下半身に違和感と、少し遅れて強烈な痛みが襲いかかってきた。 「い、……!」 抗議をするつもりが、掠れて裏返りそうな情けない悲鳴。 それでも予想よりは痛くないなと、やはり竜崎は上手いのだろうと 冷静に分析するもう一人の自分もいる。 「そうそう。暴れないで下さいね」 何だろう。 さっきまでと、同じ丁寧な言葉遣い。 こんな事をしていても声が静かなのも、変わらない。 それでも何かが違う。 違和感がある。 そんな事をぼんやりと考えるけれど、体で竜崎を受け止めるのが精一杯で 思考が進まない。 じわりと進んで来たのが止まり、僕はぜえぜえと大きく息を吸ったり吐いたりした。 みっともないが、止められない。 どうもしばらく息をしていなかったようだ。 奥に当たっている感じがする。 遂に竜崎に貫かれたかと思うと涙が出そうだったが、どこかホッともした。 「入、ったか」 「いえ、まだです」 慣れたようですね、と独り言のように呟くと、竜崎は更にぐっと腰を進めた。 「ぐっ、」 奥から、更に押し広げられて内蔵にまで入り込んできた感覚。 良く分からないけど、まさか直腸を越えてないか? その時尻に、柔らかい毛が触れた。少しくすぐったい。 と思うと共に、腰骨が押しつけられた。 竜崎が、遂に全てを僕の中に納めたらしい。 「くる、しい」 「それだけですか?」 恐らく変えないように努力している声が、少し掠れている。 息が僅かに上がっている。 竜崎が、興奮している。 その事に気付いて、何故か僕も興奮していた。 竜崎が言っていた事を信じるのなら、竜崎が僕に欲情するというのは 本気で僕がキラだと思っている、という事だ。 それなのに。 痛みが減ってきた頃、竜崎の腰が離れた。 ぬるりと太い物が動いて、圧迫感が去っていくと思ったら 全部抜けない内にまた押しつけられた。 「あなたの中、ある意味名器ですね……」 「……ふざけるな」 「本当ですよ。絡みついて来ます。絞り取られそうです」 「嘘だ」 そう言いながら、自分の中が無意識に竜崎の形をなぞるように 締め上げるのを感じている。 目の前が、霞んで来るようだった。 奥、じゃなくて出口の近くにとてつもない快感の塊がある。 指でからかわれた場所だ。 竜崎が少しでも動くと、そこが、刺激されて、腰が、勝手に、 「ああ……飲み込みが良い。あなたは、最高です」 「……」 「最高の頭脳。最高の体。どちらかが欠けても、私はこんなに狂わなかった」 竜崎も、ゆっくりした、僕の内部を探るような動きから いつの間にか気遣いも何もない、乱暴な腰の振り方になっている。 「僕は、あっ、キラ、じゃ、」 「あなたを死刑台に送る時、私は、最高のエクスタシーを感じるんでしょうね」 変態! そう思うのに、背筋がひやりとするような言葉にも、ぞくぞくとした震えが走る。 恐ろしい、死刑台に送られる謂われなんかない、 そんな言葉が薄紙のようにちぎれて意識の海を漂って去る。 「ああ……、やめ、あああっ!」 「あなたに、電気椅子は勿体ない……。特別の計らいで、絞首刑にして貰えるよう お願いしましょう……」 お互いの汗でぬるぬると滑る足を片手で抱え直し、空いた手で僕の腹、胸をなぞる。 そのまま鎖骨を指で辿り、勿体ぶるように喉仏を指先でくすぐった後、 突然首を掴まれた。 「ぐっ、」 愛撫の延長だと思っていた手は、不安になる程の力で僕の喉を締め付けてくる。 「やめ、ころす、きか、」 出ない声で、何とか絞り出して見上げると、竜崎は半眼で恍惚の表情だった。 「試した事、なかったですが、男でも、締まるんですね……」 女性としている時、首を絞めるとよく締まるという話を聞いたことがあるが 眉唾だと思っている。 そういう嗜好を持った男が、殺してしまったのを 事故だと言い張っているだけなんじゃないか。 「くる、」 「私も、痛いです」 本当に殺されるんじゃないかと、恐怖に冷静な思考が戻ってきた所で 手が緩められる。 頸動脈を大量の血が流れる感覚と共に、耐え難い快感も戻ってきた。 竜崎は、小刻みに腰を動かしている。 前には全然触っていない。 それなのに僕は萎えることが出来ない。 あの長大な物を入れられた瞬間でさえ。 あまつさえ中を刺激されて、狂おしい程に感じている。 「やっぱり、だめだ。あなたを殺してしまうなんて、 金の卵を産む鶏を殺す以上の愚かな行為だ」 「う、うう、」 「あなたがキラだという証拠を掴んだら、司法の手には渡しません」 よく動く舌は今はただ言葉を紡ぎ、 器用な指も、愛撫をするというよりは縋るように僕の指に絡められている。 もう、技術も何もない。 ただきっと本能の赴くままに僕を抱いているのだろう。 それなのに、僕は、こんなに、 「私個人で監禁して、毎晩こうやって処刑するというのはどうでしょう」 「んっ、いや、だ、そこは、」 「日本語では、首という字がつく部位が人体に、七カ所……いや、八ヶ所ありますね」 「あっ、あっ、」 「それを順番に切り取っていくというのも良いですね」 「もう、もう……だめだ、ああ、」 「勿論頭を支えている首は、切りません。死んじゃいますからね」 首以外の七カ所の首。 左足首。左手首。右足首。 順番に失っていく所を想像する。 そんな僕を、竜崎は嬉々として抱くのだろう。 右手首。……両乳首、カリ首、か。 考えるだけで縮こまりそうなのに、僕は逆にびくん、と奮い立つ。 「あとは毎週、三p刻みに短くして行きましょうか」 「りゅうっ、ざき!竜崎!」 強く抱きしめられて、深く繋がり、お互いの腹で僕の物がこすられた。 竜崎は狂っている。 だがそんな竜崎に、僕も狂っている。 怖いくらいに。 竜崎が犯罪者に欲情するというのなら、 僕は、探偵の頭脳に欲情する。 どんなにきれいな女より、 どんなに僕を愛してくれる少女より、 無慈悲で残忍で、器用な舌と指を持ったこの探偵に。 この僕を陥れようとする頭脳に。 欲情する。 竜崎は僕が長い射精にがくがくと震えている間も、呻くようにキラを呼びながら 腰を打ち付けていた。 やがて 「おまえを……っ!」 最後に一言吠えた後、体の奥に熱が注ぎ込まれた。
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