個人教授 6
個人教授 6








幼い頃は何でも一番だった。
それでも僕の時間は限られていて、その分野に関して僕よりずっと
時間を割いている子には敵わないことも出てくる。

例えば小さい頃からプロ棋士を目指して一日何時間も碁を打っていた塔矢。
学校が終わってから夕食までの間ずっと飽きずにサッカーをしていた荒田。

僕は勉強で一番になる事を最も重視していたから、碁やサッカーは
彼らに敵わなかった。
それで、構わなかった。

碁を習っていないにしては、よくルールや定石を知っている子。
サッカーの練習に熱心な訳ではないのに、サッカークラブの子並に上手い子。

その程度の評価で満足だったし、彼らと同じ土俵で勝負する気もなかった。
だって努力もしていないのに、負けると分かっている勝負を挑む意味なんてない。

勿論習っている子より上手に出来てしまう分野もあったが、
僕は注意深くそれを目立たせないようにしていた。
勝ってしまっては、その子だけでなくその親にまで逆恨みされる。
そのくらいの分別は、小学校に入る以前から持っていた。


つまり、僕がしていない習い事をした人間と、その分野で勝負はしない。

それが僕の処世術の一つ。
だったから、勿論竜崎と性技を競うつもりなんて毛頭なかったし、
敵わなくても全然構わない。

……筈だったのに。

それが竜崎相手となると、こんなにも悔しくてならない。
思うように喘がされ、涼しい顔をした竜崎の掌の中のティッシュに放ってしまった事。

頭脳で僕と対等かそれ以上の人間に、何か一つでも負けるというのは初めての経験だが
こんなにも辛くて苦しい事なんだ。

今まで何かで敵わないと思った時に、悔しくもなかったのは
トータルでは圧倒的に僕が勝っているという、ただその自負に因るものだった。



「泣いているのですか?」

「まさか」


僕は数瞬の感傷を打ち捨てて、作り慣れた笑顔を浮かべる。


「気持ちよかったよ。とても」

「それは良かったです」


竜崎も、口の両端を上げる。
本人は笑顔を作っているつもりだろうが、僕からすれば不自然きわまりない表情だ。


「これからもっと気持ちよくなります」

「いや、もう良いよ」

「こちらは良くありません」


竜崎が、前触れもなくジーンズと下着を下ろして勃起した物を取り出した。
恥知らずかコイツは。


「えっと、もしかしてさっきからずっと?」

「はい」

「その、僕が言うのも何だけど、辛くない?」


本当だろうか。
勃起した状態で触りもせず、こんなに長時間維持出来るものなんだろうか。
普通萎えるか出すか、せずにいられないものなんじゃないか?


「辛いので、よろしくお願いします」

「……少年に、手を出すのはやめたんじゃ」

「性欲に我を忘れることにしました」

「しましたって……」

「抵抗されるのも面倒なので、先に射精させてあげたんですよ」


よく見ると、竜崎はさりげなく僕の両足に手を掛けたままだ。
僕が暴れても、すぐ足を押さえられるという事だろう。


「先に言っておくけど、僕は男同士の」

「でしょうね。幼い頃からゲイの自覚があった人でもなければ、普通です」


竜崎が捜査員達の言葉を一応最後まで聞くのは、それなりに気を使って
譲歩しての事なのだろうと思った。
普段は身の回りの人間とどんな会話をしているのだろう。
無駄のない、単語だけが飛び交う世界なのかも知れない。


「日本語は、最後にどんでん返しがある可能性があるので
 基本聞き漏らさないようにしているのですけれどね」


パジャマが完全に脱がされ、まだ湿った下半身が冷気にさらされる。
竜崎の骨張った長い指は、二匹のタランチュラのように僕の太股を這い
足を押し開いていった。


「あなたは正しい文法しか使わないし、話している途中で言いたい事が
 変わるような頭の悪い話し方は絶対にしないので、読めます」

「そんな事、ない」


膝の裏に竜崎の舌が当てられ、思わずびくっと震えてしまった。
竜崎は構わず、内転筋の凹みに添うように内股を唾液で濡らしていく。

射精したばかりの体は敏感で、それなのに動きは鈍い。
頭の回転も鈍くなっている。
さっきから竜崎に思考を読まれっぱなしで、
僕はただバカみたいな返事ばかりしている。

上まで来た竜崎の舌が、今度は焦らすことなく袋を口に含んだ。
それだけで、大量の血液が即流れ込んで、はしたない程の勢いで勃ち上がる。

竜崎が「若いですね」と言うか、言いたげな視線を寄越す事が予想されたので
僕は強く目を瞑った。
逃げたい、そう思う自分が許せない。

舌は少しの間睾丸を弄んだ後、滑って下の、


「竜崎!」

「なんですか?」

「そこは、やめてくれ」

「乾いたままでは、痛いですよ?」

「僕の精液を飲むのは嫌なのに、尻の穴は舐められるのか」

「はい」


これ以上の議論は不要と、竜崎の尖った舌が排泄器官に押し当てられる。
小さく蠢かされて、その感触は気持ち悪い筈だったのに
ぞくりとした何とも言えない感覚をもたらす。

あの、長い器用な舌が。

想像しただけで身悶えしてしまったその時、まさにその舌先が中に入り込んできた。


「うっ、」


思わず、声が漏れる。
円錐形に尖った舌先が入り込んで来たのだろう。
為す術もなく穴が広がっていくのを感じる。


「うあ、ちょっと、」


中で舌先が、自在な形を描く。
入り口を広げている筋肉の塊も、不測の蠢きで僕を刺激する。

竜崎の息が、濡れた粘膜に掛かる。
舌から分泌された唾液が、僕の内側と外側を、侵して行く。

なんなんだ、これは。
キスよりもずっと、他人と混ざり合ってしまう感覚。
不随意に動く舌先に、僕の中がこれもまた不随意にひくひくと応える。

嫌だ、何故、僕は。
こんな事で。

混乱しているとするっと舌が逃げていった。
軽い排泄感。
なのに、後を追いたくなる恐ろしい感触。

ほっと息を吐きかけたが、その瞬間自分とは関係のない所で濡れた音がして
嫌な予感に息が止まる。


「失礼します」


堅い、物が。
いきなり犯されるのかと思って身を竦めたが、舌より細いそれはどうも指だった。
繊細に動いた舌とは違い、指は大した動きもなく無遠慮に進む。

舌が侵した場所を通り過ぎた時、腰がびくりと動いた。
指が。
自分を含め、誰も触れた事のない内部を撫でていく。
その鈍い感覚の中に、時折電気が走るように敏感な箇所があった。


「そこ、触るな」

「感じやすいんですね」


指が二本に増え、窮屈そうにばらばらと動かれると、大声で叫んで
滅茶苦茶に動きたくなった。

竜崎も蹴り飛ばしたい。
けれどそんな事をすれば、内部で指が耐えられない快感を生むか
逆にとんでもない怪我をするかどちらかだろう。

だから僕は声をこらえ、震えながらただ耐えていた。






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