個人教授 2 竜崎の舌はひんやりしていて、僕の舌を拒みもしなかったが応えもしない。 どんな顔をしているんだろうとつい目を開けると、 目の前に吸い込まれそうな洞が広がっていて思わず顔を上げた。 「キスした事ないの?こういう時は目を閉じるもんだよ」 「キスをしているつもりはありません。夜神くんを観察しているのです」 「……」 「あなたこそ、キスの最中にそうやってこっそり目を開けて、 相手を観察するのですね」 嫌なことを言いながら、とぼけた顔をする。 その顔を見るのが不愉快で、僕は再び体を倒して竜崎の首筋に口を付けた。 シャツを少しめくって腹の辺りを触り、続ける意図を示す。 耳に息を吹き込むように 「……君が欲しい」 低めの声で囁けば、例えばミサなら大きく震えてしがみついて来そうだが 竜崎は微動だにしなかった。 「いい?」 「……なるほど。ここで、女性の承諾がなければ進まないのですか?」 「ああ。勿論」 「それでは、どうぞ。続けて下さい」 うんざりしながらシャツの中に手を這わせる。 さらりとした肌を撫でながら胸の辺りを揉む真似をして ついでに見つけた小さな突起を指の先で軽く弾いていると、やがて硬くなってきた。 ああ……竜崎も、人間なんだな。 そんな所で妙に実感して頬を緩め、先程と同じように下着に手を差し込む。 二度目なので抵抗感は薄れていた。 男相手に本気で前戯をするつもりもないので、性器を避けてもっと奥の、 潤むはずのない部分を形ばかり指で挫く。 「で、ここで女の子の喜ぶような事を言う」 「ほう。例えば?」 「そうだな……」 それは、ちょっとした思いつきの悪戯心。 竜崎が仕掛けてきた面白くもないゲームを面白くする一粒のスパイス。 「竜崎相手なら……」 もう一度、耳に口がつく程に近づいて、声を出さずに息だけで。 「『僕は、キラだ』」 眉を顰めたら「嬉しい言葉だろ?」とからかってやるつもりだった。 ただ、それだけのつもりだった。 だが、竜崎は、竜崎の男は、びくりと震えて驚くほどの早さで、 「僕が、キラだ」 勃起した。 「お前のにらんだ通り、キラだったんだよ」 手の甲で感じる、竜崎の脈、その見た目からは想像の出来ない熱。 恐らく今、本人も狼狽しているだろう。 僕に勃起させられた事に、屈辱を感じているかも知れない。 そう思うと笑い出したくなったが、笑う代わりに掌を滑らせて竜崎のペニスを握る。 「ずっと追っていた、『キラ』に抱かれるのはどんな気分だ?『L』」 竜崎は、今や堅く目を瞑っていた。 初めて女に触れられた中学生のように身を固くし、震え、 あられもなく先走りを滴らせる。 もう少し遊んでみたかった気もするが、あまりに顕著な反応に ひいてしまったのもあるし、あまり苛めて後で陰険な仕返しをされても困る。 竜崎が射精直前のように血管を引きつらせるのを確認して、僕はすっと手を引いた。 「……と、こんな感じなんだけど」 身を起こして笑い混じりで言う。 竜崎は横たわったまま二、三秒何かに耐えるような顔をした後、大きく息を吐いた。 いつも白い顔が、微妙に赤らんでいるように見える。 蝋人形のように無機質だった額に、生え際の髪が張り付いている。 どんな言い訳をするかと楽しみにしたが、竜崎が発した第一声は 「……やっと、自白してくれましたか」 だった。 「違うよ。あんなの、たわいのない嘘だ」 「女性相手の時も、嘘を?」 「そういう時は、誰でもそんなもんなんじゃない?」 一番きれいだとか。好きだとか。 愛を交わす時はいくらでも適当なことを言うだろ、男なら。 「女の子は言葉で感じる生き物だから」 「そんなものでしょうか」 「竜崎もそうだとは思わなかったけれどね」 あと少しだけ。 少しだけ、優越感を楽しんだら手を引く。 その誘惑に抗えなかった事を、僕は後に後悔する。
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