Open the grave 3
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『……あなたは、キラをどう思いますか?』


少し唐突、いや軽率だったかも知れない。
だが「夜神月」を知る者が、彼とキラを関連付けられるか試してみたくなった。
思い切って尋ねると、ヤマモトは意外そうな顔もせず、
ハンカチを取り出して眼鏡を拭く。振りをした。


『やっぱりきみもそう思うか?』

『……』

『キラが裁きを停止した時と、夜神が死んだ日は、大体一致している』

『それでは』


意外と、コイツは鋭いのだろうか。
夜神がキラではないかと、少しでも気づいている者が沢山いるとすると少し厄介だ。


『夜神は、キラを追いつめて、相打ちになったんだと思う』

『……』


そちらか……。
まあ、身近な者の裏の顔など中々想像できないから、妥当と言えば妥当だ。


『普通はキラなんて追い詰めようもなければ捕まえようもない。
 でも、あいつなら、出来たんじゃないかと思う。
 そんな頭脳を持った奴は、地球上にそういない』


それ、私なんですけどね……。
夜神は追い詰められた方です。

と言いたいが、言える訳もなく。


『……私には、夜神さんが本当はキラの裁きに賛同しているのではないかと
 思える事がありました』

『ああ、それも分かる気がするな』

『夜神さんは、本気でキラを追う事が出来たのでしょうか?』


夜神の事を、どの程度知っている?
夜神の後釜のようにアイザワやマツダの班に入ったのに、意味はあるのか?


『出来たと思う。キラの裁きに賛成していたとしても、
 それを自分以外の誰かがする事は承服出来ない奴だったよ』

『……』


なるほど。
ヤマモトは夜神の正義感の歪みを、的確に捉えている。
彼は意外と使えるかも知れない、と頭にインプットした。

知っているが一応、ヤマモトのメールアドレスを訊く。
今後、Jane.smith として連絡出来ると何かの役に立つかも知れない。




ヤマモトが去った後、夜神が斜面を滑り降りてきた。
ぱんぱんと服に付いた土埃を払うのを待って、声を掛ける。


「アイザワの下に着いたのに深い意味はなさそうです。
 良かったですね」

「ああ」

「彼、泣いてましたよ?」

「そのようだね」

「心が痛みませんか?」


夜神は不快そうに顎を上げ、私を睨んだ。


「僕達はそんな温い世界で生きてないだろ?」

「まあ、そうですね」

「僕は日本では間違いなく死んでいる。それはどうしようもない。
 おまえだって、手の打ちようのない事に感情を動かさないだろう?」


そう言われれば返す言葉もないので、少し矛先を変える。


「所で私、足が疲れました。休みたいんですが」

「そう?どこかに座る?」

「もっとゆっくり休憩できる場所。二人きりになりたいです」


夜神は眉を上げた後、わざとだろう、偽悪的に笑った。


「インターチェンジの傍に、ラブホテルがある」

「そこで良いです」

「……」


私の即答に一瞬訝しむような顔をしたが、自分に不利な事にはなるまいと
判断したのだろう、「なら、タクシーで行くか」と涼しい顔で答えた。





「インター横の、アオイヤネ、キャッスル」


運転手の、良いのか?どういう所か分かってるのか?という
おろおろした視線を意に介さず、夜神が黙り込んだので
私も携帯電話を取り出した。

まずアイザワに、夜神の墓や菩提寺の墓所にデスノートが隠されていないか
調査するようにメールで依頼する。

それから、Lに連絡を入れた。


『そうですか。夜神の墓はいずれ調べるつもりだったので丁度良い。
 相沢さんなら上手くやってくれるでしょう』


私が夜神と二人で出かけているのに、心配する様子もなく淡々とした、
いつもの感情を見せない語り口。
Lは斯くあるべきだと思う。
……思うが。


「ところでL」

「何でしょう?」

「アマネが死神の目を捨てたと、私には何故教えてくれなかったのですか?」


態と前置きなしに不意打ちで訊くと、Lは少し黙った後、静かに口を開いた。


『……弥の所に行ったのですか?』


GPSを見ていなかったのだろうか。


『こちらで、別件の捜査をしていたので見ていませんでした』

「墓に行く前に行きました。金髪を始末するには一番手っ取り早いと思いまして」

『弥が死神の目を持っていたら、デスノートに書かせるつもりだったのですね?』

「手段がきれいだとか汚いとか言っていられる状況ではありません」

『まあ、そうですね。それで、弥はデスノートに何か書きましたか?』

「いいえ。書きかけた所で金髪の名を聞いてきたので」

『……』


Lは電話の向こうでまた口を噤んだ。


「どうしました?L」

『やられましたね……』

「何がですか?」


嫌な予感に、ざわざわと首筋の毛が逆立つ気配がする。


『いえ……まあ、今は良しとしましょう』

「隠さないで下さい。でないと、」

『……分かりました。あなたに十分にデスノートの情報を伝えなかった、
 私の責任でもありますから』

「……」

『その前に。弥の元に行ったのは、夜神の誘導ですか?』

「いえ……」


いや、どうだろう。
わざわざタクシーに乗せたのは、遠くへ行かせる為……。
私が他の場所を指定したとしても、あのコミックでアマネの話に
持って行かれた可能性は高い。


「今回は私の意志という事になっていますが、
 夜神にも誘導する手段はありました」

『なるほど。上手いですね』

「そうなるとどうなりますか?」

『弥は、デスノートに触れて既に記憶を取り戻していると考えられます』

「……」


デスノート……の、切れ端に触れると、記憶が戻るのか!

Lは、デスノートの細かい法則を、恐らく殆ど全て夜神から聞いたと言っていた。
だが、夜神を地下牢から出して以来、Lと私がゆっくり話し合う機会はなく
夜神が誘拐されている間もその始末や奪還手段の話ばかりしていて。

私は夜神が既に拘束されている以上、デスノートに興味もなく
Lに訊きたい沢山の事柄の中で、その優先順位は低かった。

夜神はそれを利用して……。

私のデスノートを使って、私にアマネに記憶を取り戻させるとは……!


『ですが、夜神の言う通りすぐには危険がないでしょうから
 慌てる必要はありません』

「……そうでしょうか?」

『我々に一矢報いたかっただけでしょう』


Lと夜神のゲームは、まだ続いているのだ。
お互いに如何に相手の裏をかき、相手の手を封じるか。
私には参加し得ない、最早意味のないゲーム。

……いや。意味がない筈はない。
夜神は永遠に、キラだ……。


『怖いのは、あなたと私の連携を、絶とうとしている所です。
 私がデスノートの細かい法則を伝えなかったのには、他意はありません。
 申し訳ない』

「こちらこそ詰るような物言いをしてすみませんでした……」

『命の危険はないでしょうが、夜神には十分に警戒して下さい。』

「分かっていま……分かりました」


携帯電話をポケットに戻し、夜神に目をやると
窓の外に目を向けたまま口の端で、笑っていた。


私はLを、信じている。

Lだけを、信じている。

夜神を、信じない。

夜神に取り込まれたりは、しない。



タクシーは遠くに見えてきた安っぽい白亜の城に向かって
真っ直ぐに走って行った。





--続く--





※いつまでデートしてるんでしょうか。





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