Nervous breakdown 3
Nervous breakdown 3








その夜。
珍しく、夜神がソファで眠り込んだ。
やはり時差が効いているのか、この数日気がかりだった取引が終わって
気が抜けたのだろう。


「どうします?このまま毛布を掛けますか?」

「そうですね……私一人で運ぶのはきついですし」


勿論私は手伝う気はない。
ベッドで寝かせるのなら、一旦起こすしかない。


「L、何だか嬉しそうですね」

「いえ。昼間あなたが言ってくれた、私を信じて委ねろというのを
 夜神が早速実行してくれたのかと思いまして。……ありがとうございました」


Lに、丁寧に礼を言われて、こちらの方が戸惑ってしまう。
別に私は。
Lをトップとして指示系統というか上下関係をはっきりさせておいた方が
仕事がやりやすいと思っただけだ。


「ああ……まあ、かつてない程油断してますね。
 夜神の事ですからポーズかも知れませんが」


熟睡しているように見える、端正な顔を眺める。
睫が鼻に影を落とし、胸が静かに、規則正しく上下している。
行儀良すぎる寝顔かも知れない。
相手を油断させるため、正体なく寝ている振りくらいするだろう、夜神なら。


「試してみましょうか」


そういうと、Lは何故か夜神の横に座った。
腹の上に置かれていた腕をどけ、指でシャツの裾を抓んでそのまま捲り上げる。


「L?」


私が驚いて声を掛けると同時に、ゆるゆると屈み込んで……
現れた白い肌に、夜神の臍に、キスをした!


「な、何してるんですか!」

「くすぐったがりません。本当に寝ているようです」

「いや、ちょっと、」


私が、今目の前で起きた現象をどう捉えていいか分からなくて
焦っていると、Lは何食わぬ顔で人差し指をくわえた。


「何かおかしかったですか?」

「ええっと!ええと……そういう事は、人前ではしないで下さい」

「どうしてですか?」

「Lは、何故夜神の腹に口を付けたのですか?」

「何故って……何となく。気がついたらしてました」

「……普通、そういうのは、愛の行為かと思います」

「愛」

「はい。よく知りませんが、一般的に、という意味で」


Lは、今度は親指の爪を噛みながら、少し首を傾げていた。
やがて。


「……私と夜神はニュートラルな関係です。
 彼を愛しているという事は、ありません」

「そうですか……」

「本当に、何となく、なんです」

「自覚がないだけ、という事もあります。
 普通、愛していない者の臍にキスをしてしまう、という事はないと思います」


Lは困ったように笑った。
こんな風に、自分を否定した相手が夜神だったら
Lはきっといきなり殴っているだろう。

そうしない事は有難いが、一抹の悔しさもあった。


「ならば、『普通』、愛してもいない者を抱いて、御伽噺をしながら
 寝かしつけるという事もないのでは?」

「……」

「私の行為が夜神に対する愛だと言うのなら、夜神のあなたに対する行為も
 愛という事になるでしょう」

「……それは」


それは、違う。
どちらかというと嫌がらせという気がするし、夜神が私に女性の手触りを求める
変態だという説も捨てきれない。
それも、一つの愛の形だと言われたら返す言葉もないのだが。


「……いずれにせよ、私達に『普通』という言葉は似合いません。
 求めるべきでもありません」

「……失礼しました、L」

「では、そろそろ起こしましょうか」


Lは夜神の耳元に口を寄せ、「月くん、起きてください、月くん、ベッドに行きましょう」と
言っていたが、夜神は少し身じろぎしただけで起きる様子がなかった。
だが。


「月くん……起きないと、襲いますよ?」


途端に、夜神がぱっと目を開いて、次の瞬間眩しそうに目をしばたいた。


「……」


何とか起き上がったものの、どこかはっきりしない様子で歩き出す。
そこへすかさずLが、肘を支えた。


「ちょっと、え……」


驚く私に関係なく、Lは夜神を誘導して歩かせて部屋から出て行った。


「……」


何となく、私のベッドに連れて行くのではないだろうと思った。

ならば……。

いや、私には関係無い。
関係のない話だ。


溜め息を吐きたくなる気持ちを抑えて、ショーギの駒の山の中から
大きな駒を一枚引き抜く。


カタッと音がして危ういバランスを保っていた山の一部が崩れ、
私は今度こそ遠慮なく大きく息を吐いた。





--了--





※8888打踏んでくださった、そまりさんに捧げます。
 リクエスト内容は、


"横文字設定で、月とLが言い争いをしてて、それを聞いてイラっときて
 怒鳴り声をあげたニアに、驚いて喧嘩をやめてニヤニヤしだす二人…"

 を、思春期の子が両親の喧嘩にキレて、なんだかんだいって
 三人ともうまく収まっちゃった風にお願いします!!!


 またしても拙作でのリク、ありがとうございました!
 横文字シリーズ気に入っていただけているようで、嬉しいです♪

 実は喧嘩シーンって、ちょっと状況が想像つかなかったのですが、
 横文字の話もこっそり進行させてみたりして、何となくこんな感じに。
 でもこの先ノープランなんですけどね。

 本当はもっとフルハウス的な、たわいもない事で喧嘩して、
 ニアもムキー!ぷんすか!というかわいい感じにしたかったのですが、
 なんかLや月に説教してしまいました。
 ニアの思春期っぷりが発揮できなくて申し訳なしです。

 そまりさん、こんなんで良かったでしょうか?
 かわいいリク、本当にありがとうございました!  


 






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