Nervous breakdown 1
Nervous breakdown 1








「だから!そこは相沢さんたちにお願いするという話になっていたでしょう?」

「そうだけど!インカムをつけて貰えば僕たちが直接尋問する事も可能だろう?」


マフィアの取引現場に、私を行かせるかどうかでLと夜神が揉めている。
彼らが直接行けるものなら行くだろうが、それが出来ない今、
私を身代わりにして良いかどうか、というのが争点らしい。


「今回の取引には、恐らく教授も金髪も来ないだろ。大丈夫だよ」

「逆にもし来たら、ニアが『偽L』だと思われかねません。
 それに、来なければ行く意味もないでしょう?」

「尋問はマフィアにも出来る。松田さんたちに顔を見せておく事も
 後々役に立つかも知れないってさっきから言ってるだろ!」


私は出来れば移動はしたくないが……。
二人とも、私の意志を尊重してくれる気はないらしい。
Lに頑張って欲しいが、私が口を出すと余計話がややこしくなりそうなので
聞いていない振りをして、ショーギの駒をドミノ状に立てる事に専念する。


「……というか本当は、ニアを直接松田さんや模木さんに会わせて
 彼らの様子を聞きたいんですよね?」

「……」

「懐かしいのは分かりますが、」

「違う。僕は本当に、」

「何ならカメラとマイクも持たせて、ビデオメッセージでも撮って貰えばどうですか?」


うわ。何だか行く方向に話が行っている。
L、投げないで欲しい……。


「ニアはどう思う?客観的に考えて」

「そうですね……」


突然夜神に話を振られて困ったが、客観的に、と但し書きをつけられると、
「行きたくない」と自分の意思は言いづらくなった。


「教授や金髪が、現場に来る事はないでしょうが、
 遠くから観察している可能性は高いでしょう」

「それはそうだろうね」

「……そして、まあ……Lもそうですが、私の得意分野も『観る事』です」


夜神は小さくガッツポーズを作った。
そして「ありがとう」と言いながら私に抱きつこうとするのから、逃げようとして
立てたばかりのショーギの駒に触れてしまう。
ぱたたたた……と倒れていく音を聞きながら、結局抱きしめられてしまった。





1/31夜半。
民間から雇った三人のSPに囲まれて現場に現れた私を見て、
アイザワもモギもマツダもイデも驚いた顔をしていた。
本当に、こんなに簡単に一般人に顔を曝すなんて有り得ない。

しかも結局夜神の選んだ服を着ている。
首都圏とは言え、日本の一月末の夜中は有り得ないほどに寒い。
ダウンジャケットに分厚いパンツ、肌着も保温力が高い物を選んでくれていた。

だがそんな事も、私の世話係と思えば当たり前なので特に感謝もしない。
服装には、肌触りと動き易さ以外拘りがないので、
彼のチョイスに唯々諾々と従っているからと言って、特に屈辱も感じない。
感じている筈がない。


「ええっと……あの……」

「ミスターヤマシタですね?初めまして。Lです」


ヤマモトは、物問いたげにアイザワやモギの方を見ていたが、
二人とも緊張した面もちのまま軽く頷いたのを見て、本当に私がLだと認識したようだ。


「よ、よろしくお願いします」

「あれ?ニア、ちょっと背、伸びたんじゃない?」


マツダ……。
なんだその馴れ馴れしさは。
おまえとは話した事もないだろう。
というかおまえが私に不満を持っているのは知っているぞ。盗聴で。


「その、何故『L』が直接?」

「少し初代や二代目に倣って自分で動いてみようかと思いまして」

「二代目Lって……」

「皆さんにご迷惑をお掛けしないよう、車の中で待機しています」


Lや夜神の名を出した事により、場の緊張が高まる。
これが、「デスノート」に関係した事件なのだと思い知れ。

それから二、三指示を出して、私はコンテナの中に隠してある
車の中に戻った。





数時間後。

黒塗りの一台の車が来て倉庫の周辺をざっと調べ、その数分後に
計四台の車が来た。
もっと少人数で動けば効率も良いのに、ご苦労な事だ。

双方荷物を持って倉庫に入り、入り口周辺を機動隊が固めた所で
アイザワ達が捕縛に入る。

…………

全てが片付いても、逮捕されたメンバーの中に金髪や教授らしい人物はいなかった。
まあ、あらかた予想通りだ。

教授や金髪にとって、マフィアとの関係が不要になってきたという事だろう。
ギブ・アンド・テイクのギブの比重が高くなってきた、だからこの機に一斉に始末した。
もしかしたらもっと上方から、このシンジケートを潰すよう指示されたのかも知れないが。

とにかく、Lが通報して一斉検挙されても良いし、
Lが通報せず、偽L……夜神が来ても、捕獲すれば良かった。
夜神も警察も両方来て、夜神の顔を警察に見せて反応を見ても良かった。

どこに転んでも良い計画だったわけだ。
そんなものだと思っていたが。


しかしだとすると、夜神が来ているかどうか観察するために、
どこかから見張っている筈。
倉庫の内部にカメラや盗聴器が仕掛けられている可能性もあるが
それを探すのは警察に任せるとして。


倉庫から出た私は、港から夜明けの街を見渡した。
観るのは得意だが、範囲が広すぎる……。
それに、犬の散歩なのかこの時間から動いている者も少なくない。
さすがに難しいか。



そう思ったとき、遠くの山手住宅街に向かう坂道の、ガードレールの隙間で
何か光った気がした。

目を凝らしてじっと見ていると。
ガードレールの向こうから、人物が、立ち上がった。

遠すぎて男か女か分からないが、若い。
黒い髪をしている。
だが、肌が異様に白い。
北欧系の白人だ、と思った。

尚も目を逸らさずにいると、ニコニコしながら手を振って来る。
それから、ゆっくりと大きく手を動かし始めた。

……2?……8、8、……

鏡文字で二十程のランダムな数字とアルファベットの羅列が続く。
@が現れた所でメールアドレスだと気付いた。

北欧系の手が止まったところで手持ちの携帯電話に
そのメールアドレスを打ち込む。
What?と打つ手間も惜しいので、


“Wh?”


と送ってみた。
すぐに返信がある。
「お前がLか」などと聞かれても答えられる筈もないが、と思いながら開けると


“D U K M?”


「Do you know me?」か。
ふざけたガキだ。


“K”


know. よく知っている。
名前は知らないが、そんなものはどうでも良い。


“U K?”(おまえが、キラか)

“D K”(Don’t know)

“O L?”(それともLか)

“D K”(Don’t know)

“どちらでもいい。蠅を払ってくれた事に感謝する”

“R”(了解)

“だがこちらも網を張っている。逃げられると思うな”

“心配無用。こちらの網の方が大きい”

“G L”(Good luck)

“U T”(You too)


僅か数秒のやり取り、北欧系が私に見えるように携帯を掲げて閉じる。

こちらも携帯電話を閉じたが、その音が妙に大きく響いた。
私とした事が、あからさまな挑発に感情的になってしまったようだ。
ポケットの中で気に入りの超合金ロボットを握り締める。

もう一度山の方に目をやると、向こうは双眼鏡でこちらを見ながら手を振っていた。
私の顔は知られた、か。
Lが動かせる日本の捜査員……、キラ捜査に関わったのが誰かも
恐らくある程度知られてしまった。

だが、私も金髪の顔を見られたのは収穫だった。


「撮れましたか?」

「山の中途にいた色の白い外国人ですね?完璧です!
 今日にでもプリントアウトして届けさせますよ」

「助かります」


マツダにあらかじめ高解像度カメラを渡して、私が合図したら私が見ている人物を
撮るように伝えてあった。

遠目になるだろうしあまり期待はしていなかったが、
メールのやりとりで時間を稼いだのと
向こうがあれだけ盛大に手を振ってくれたので、特定できたらしい。


勝った……。


あっけなかったが、これで金髪は始末出来ると思って良い。
あとは死神の目を持つと言うアマネ・ミサに写真を見せて、
私が持つデスノートの切れ端に名前を書かせるだけだ。

万が一効かなければ、夜神にデスノートを持ってこさせなければならないが……。

そんなものは隠していないと言い張っているので難しいだろうが、
私の顔を見られた事が逆に幸いするかも知れない。

私の命を盾にデスノートを要求した時、夜神がどう反応するか見ものだ。
そう思うと、私が持つ、燃やしたデスノートの切れ端が無効であれば良い、
そんな事まで思ってしまった。


その後Lの指示で一応マフィアに尋問をしたが、予想通り特に得る所はなかった。






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