月百姿 14
月百姿 14








「そこは」

「しっかりと、覚えておいて下さい」


優しく何度も撫でてから一本の指を滑り込ませる。
少し出し入れしてから二本に増やす。
それから。前立腺の辺りを。


「あ、」


夜神は弾かれたように私の腕を掴んだ。


「何ですか?」

「……やめてくれ」

「何故ですか?気持ち良くないですか?」

「いや……気持ち良いというよりは、痛い……というのとも違うん、だけど、何だか触られたくない」

「そんな事を言っていては進みませんよ」

「それに、その、何もかもが急過ぎて……ちょっと着いて行けない」

「直ぐに追いつきます。あなたは優秀な人ですから」


夜神の、口惜しそうに歪む顔が、赤らんでいる。


「嘘、みたいだ……。あのLに、こんな事されてるなんて」

「言いましたよね?私、結構嫌らしいって」


言いながら中で微妙に指を動かすと、太股がびくびくと動いて面白い。


「言ってたけど、」

「本当は口でイかせても良いし、指だけでイかせる事も出来るんですけどね」

「……っうっ……」

「今のあなたは、どうやってもイきそうなので、最初は私のペニスでイって下さい」

「嫌、だ、それは、嫌……」


指を抜いて片足を持ち上げ、ゴムを付けた亀頭を当てると、そこは狭いながらも少しづつ私を受け入れた。


「っあ……!」

「きつい、ですね……」

「やめっ、」

「あ、暴れると、痛いですよ?お互いに」

「何、言ってるんだ!おまえ、より、僕の方が痛い!」

「なら、声、上げて下さい。可愛い声を」

「誰がっ……!」


色気も何もなく、歯を食いしばって耐えている夜神に、私も機械的に埋め込んでいく。
全部入った時、快感よりも一体感よりも、作業を終えた達成感に溜め息を吐いた。


「入りました」

「……」

「私との初セックスの感想は、どうです?」

「……」


夜神は目を閉じて、徹底的に私を無視するつもりのようだ。
せめてもの抵抗、という奴か。


「月くん。弁えて下さいね?あなた今、私のテリトリーに居るんですよ?」


彼は一層眉根を寄せた後、うっすらと瞼を上げた。


「月くん。感想を」

「その……おまえと、というか、男とするのが、初めて、なんだけど」

「本当に処女だったんですか……三十間近で」

「当たり前だ!僕は、男だ!」

「刑務官の目を盗んで、一度や二度は楽しんだんじゃないですか?」

「そんな訳、ないだろ……」


夜神の落ち着きようは意外な気もしたが、よく考えたら叫んだり暴れたりも彼らしくない。
どんな反応が彼らしいと言うのだろう。
十年の間に、私の中での彼の輪郭は曖昧になっていた。


「まだ痛いですか?月くん」

「……いや」

「そうですか。では動いても?」

「それは……!ちょっと……待ってくれ……」


二人で何度か深呼吸をする。
三十数年生きてきて、こんなに艶が無く、しかも動悸の激しい行為は私も初めてだった。


「ああ、でも萎えていないのは流石ですね」

「何が、だ……!」

「出来るだけ痛くないようにしますから。よく、味わって下さい」


前も刺激しながら、中を探り探りゆっくり動く。
微妙に抜き差しする度に、夜神が「うっ」と小さな呻き声を上げた。

だが、単純に苦しいだけ、と言うのでは無さそうだ。
暫く観察していると、私の動きと夜神の性器の脈が連動する部分に気付いた。
指とは違って性感帯が分かり難いが、どうやらここがイイらしい。


「あ、あ、竜崎……!」


恐らく初めての感覚に、戸惑い怯える「キラ」。
中々悪くない。


「イきそうですか?月くん」

「嫌だ、ちょっ、……あっ!」


無言で手の動きを早める。


「だっ、め……」


数往復で、夜神はあっさりと果てた。
擦る度に、びゅる、びゅる、と、大量の精液が垂れる。
私は夜神の中から自分を抜き、ティッシュでそこを綺麗にしてワセリンで手当をしてやった。

夜神はただ、魂が抜けたかのように呆然と為すがままだった。


「痛いですか?」

「……ああ。痛い」

「でも気持ちよかったですよね?」

「……」

「それに私、まだ出してないので」


そう言うと、死人のような夜神は生き返ったかのように息を呑む。
手首の辺りから、産毛が立ち上がって行く。
私は態とその目をニヤリと覗き込んでから、萎えた夜神の物を口で咥えた。
射精したばかりだと言うのに、そこは敢え無く勃起する。


「待て、竜崎!無理だから!マジで無理だから!」

「ここは元気ですよ?」

「いや、尻の穴、多分切れてる。まだ痛い」

「血は出ていませんでした。我ながら上手くやりました」

「しかし……」

「それに」


私はそこで初めて夜神の顔に触れ、彼はその事に驚いたように瞬きした。
唇が、小さく震えていて……ぞくぞくしてしまう。
不味いな、そろそろ揶揄うのは止めよう。


「それに、今度はあなたのお尻は使いません」

「……え?」

「すみません実は私基本的にネコなんです」

「猫?……猫?」

「ゲイセックスに於ける女役ですね」

「ええ?!」


夜神が上半身を起こし、口からペニスが抜けて行った。
丁度良いので私は素早くゴムを被せ、その腰に跨がる。


「入れて下さい」

「だっ……え?」

「私の中に」


後ろに回した手の、人差し指と中指で夜神の亀頭を挟み、自分の穴に導く。
腰を落とすと、軽い痛みと共に熱い肉の棒がめり込んできて、私は眉を寄せながら射精しそうになってしまった。


「んっ……!」

「うっ……気持ち、良い……です……」

「マジか……何だこれ……さっきは……」

「ああ……あなたが誤解していたようなので、乗らせて貰いました。
 私にする時の参考になればと言う程度でしたが」

「……!」

「でも初回は、私が動きますからそのまま感覚を味わっていて下さい」


感情が抜け落ちたような表情で私を見上げている夜神は、まるで人形のようだ。
十年間、焦がれ続けていた……、キラ。
忘れようとしても、忘れられなかった男。

その男のペニスを、今自分の身体の中に呑んで居ると思うだけで、息が上がる。
何度か腰を上下しただけで昂ぶってしまい、自らを扱きながら腰を跳ねさせて抽挿を繰り返す。
もうイきそうだと思った時、夜神が慌てたように私の太股を押さえた。


「何ですか……」

「駄目、だ……その……」

「は?」

「その、それ以上動かれたら……」

「先に達ってしまって私を満足させられないと?月くんらしくないですね」

「いや……おまえの為と言うよりは……」

「大丈夫です、私だってもうイきそうなんですから。
 私が調整しますから要らぬ気を使わないで下さい」


私は夜神の手を払いのけ、思い切り腰を動かす。
一層強く腰を落とすと、身体の奥でゴリ、と夜神が擦れた音がした気がした。


「うあっ!」

「あっ……!」


その瞬間。
アイバーでも感じた事のない程の。
一瞬気が遠のきそうな快感と共に、私は弾けていた。

それでも腰は勝手に動く。
身体の奥で、夜神も熱を吐き出しているのを感じる。

どくどくと溢れ出した私の物は、夜神の白い胸から顔に掛けてを、ねっとりと汚していた。
夜神はそれにも気付か無げに、呆然と宙を見つめてはっ、はっ、と荒い息を吐いていた。






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