月百姿 13
月百姿 13








バスローブを着た夜神の手を引き、ベッドまで行くと、一旦上気した頬からまた血の気が引いた。


「どうぞ」

「……」


一歩二歩、後ずさる肩に手を乗せる。
彼は振り向いて怒りと怯えを滲ませた眼で私を睨んだ。


「分かってましたよね?私の口利きで出所するという事は、こういう事だと」

「……」

「私はゲイです。分かりますね?」


夜神は黙ったまま少し止まっていたが、逃れようがない事は分かるのだろう。
一旦肩を竦めた後、溜め息と共に肩を落とした。


「意味が分からない。……と言っても、無駄なんだろうな」

「はい。私は、」


胸が熱い。
まるで、火の玉が迫り上がって来ているようだ。


「あなたが欲しい。あなたとセックスがしたい」


はっきりと口に出すと、夜神は少し目を見開いた。


「……夜までに、覚悟を決めれば良いと思ってた」

「分かっていたのなら、焦らさないで下さい」


そして彼はゆっくりとベッドに上って横たわり、軽く足を開く。


「良い子ですね……」


私もTシャツを脱いでベッドに上がり、夜神のバスローブの帯を解くと中から現れたのは白く光る身体だった。
刑務所内の健康的な生活のお陰で今も十代の頃のように引き締まり、程良く筋肉が付いている。


「素敵です……十年越しの思いが、叶います」

「竜崎」

「何ですか?」


早速腹筋の割れ目に舌先を付けると、大袈裟に身震いした。
そうか……何度も彼と面影や体格が似た男を買ったが。
本物の彼に性的に触れるのは、これが初めてか。
乳首まで舐め上げると「あ、」と可愛い声を上げる。


「何なんですか」

「その、やはり時間をくれないか」

「恐らくですが。時間を置けば置く程辛くなると思います」

「……」


見上げると、夜神は瞼を閉じて悩ましげに眉を顰めていた。


「何故だ……」

「はい?」

「何故、僕なんだ……」


私も思わず、首を傾げてしまう。
何故と言っても。


「元々好みのタイプなので」

「キラだから、ではないのか……」

「ああ、それもありますが」

「……!」


私は余程気のない返事をしてしまったのか、夜神は瞼を開いた。
その目が、血走っている。


「やっぱり、絶対に嫌だ!」


腰を捻って逃れようとするのが、馬鹿馬鹿しい。
私から逃れる術など無い事は分かって居るだろうに。


「今更、子供みたいな事言わないで下さい」

「!」

「大した事でも無いでしょう?
 あなたも、中で多少は覚えたんじゃないんですか?」

「……」


夜神は私を軽蔑したように睨んだ。
だが突然、その表情を一変させる。
溜め息を吐いた後、偽悪的にニヤリと笑って片目を瞑ったのだ。


「そうだな……『多少』と言って良いかどうか分からないけど」

「ほう?」

「分かるだろう?……中では、これでも中々モテたんだ」

「……まあ、モテそうではありますね」


一体何を言い出すのかと眉を顰める。
夜神はそんな私を見て更に笑い、頭を枕に落とした。
それを良い事に、私は夜神の肌を再び味わい始める。


「だから。僕はみんなの『女』だったよ。所謂『公衆便所』って奴」

「……」


本当に、何を言い出すのだ。
公衆便所?


「同室になって僕を姦らなかった奴の方が少ないな」

「……」


私から視線を逸らし、天井に何か映っているかのように見つめて、うっとりと目を細める。


「最初は嫌だったけれど、その内開き直ったよ。
 輪姦もされたし、沢山知らない男の精液も飲まされたし入れられた」

「……」

「でもまあ、健康診断は受けてたし病気は持ってないと思うよ。多分。
 荒んだ奴らばかりだから、分からないけどね」

「……」

「どう?怖くなった?」


私の愛撫が止まったのをどう解釈したのか、夜神は笑いを含んだ声で言って上半身を起こした。


「……っくっく」

「どうした?」


私もつい笑い声を漏らしてしまうと、怪訝な顔で覗き込む。


「色々とね」

「何だよ」


本当に、可笑しい。
あの夜神がこんな下らない嘘を。
いくら焦っているとは言え面白過ぎる。


「知ってるんですよ」

「?」

「公衆便所どころか、あなた皆に崇拝されていたそうじゃないですか」

「……!」


そう。本当に、舐めて貰っては困る。
おまえの前に居るのは、仮にも「世界の影の支配者」だぞ?


「暇があれば皆を集めて話をしてみたり。まるで教祖気取り。
 なのにいつの間にか、あなたは全ての囚人に傅かれ、刑務官まで味方に付けた」

「……」

「キラを批判し、全ての罪人は改悛すれば救われるべきだと唱え。
 慈愛を説くあなたの話に、涙を流す受刑者まで居たと言う話を聞いてますよ」

「……」


夜神はまた私を睨み付けていた。
噛み締めた唇が、白くなっている部分に視線を奪われる。

……決めた。
どうやら期待されているようなので、予定を変更して彼を抱くとしよう。


「さすがです。あなたはどこでも人心を掌握し、思うように操る事が出来る人だ」

「……」

「まあ、例外も居ますし、それが私なんですけどね」

「……」

「みんなの『女』、ね。マリア様のような存在と考えればそうとも言えますけど。
 沢山の男に汚された身体だと言えば私が怯むとでも思いましたか?」


夜神の握り拳が、私の顔目がけて飛んでくる。
それを掌で受けると、夜神の目は見開かれた後、苦しげに閉じられてぐったりと全身の力を抜いた。


「何故……知っているんだ」

「刑務官の中にね、アイバーを潜り込ませて居たんです」

「まさか!日本人ばかりだったぞ?」


また目を見開いたのに、また思わず笑ってしまう。


「多少顔が濃いのも居たでしょう?」

「それは、何人か居たけど……」

「何だか」


日に焼けていないその首筋を舐めると、夜神はびくりと身体を震わせた。


「輪姦されたとか精液を飲まされたとか」

「……」

「あなたらしからぬ下品な物言いに、余計に興奮してしまいました」


勃起した物を押しつけると、嫌々をするように枕の上で首を振る。


「お、おまえの言う通り、全部嘘だ」

「ですよね。意外と日本の刑務所内ではそういう事は今は起こりにくいそうです」

「ああ……」

「でも。きっと、心の中ではあなたを姦らなかった男の方が少ないと思いますよ」


敢えて用意しておいた潤滑油を使わず、夜神の性器を愛撫する。


「嫌だ!離っ、」


最初は萎えていたが、長い禁欲生活の後だ、この鍛え上げた技術に抵抗する術はない。


「竜ざ……ちょっ、本当に、止めてくれ!」


顔を近づけると、足を曲げて避けようとしたが。
逃がす物か。

初めて間近で見た、勃起した夜神は……とても素晴らしかった。


「見るな……見るな!」


舌先で裏筋を舐め上げるだけでぴくぴくと血管が震え、亀頭を舌先でちろちろと刺激すると、切なげに透明な涙を流す。
思わず微笑みながら頬張ると、夜神は「んっ、」と、聞いた事もないような可愛い声で鳴いた。

……私自身にも血が充満し、びくん、と揺れる。
一旦深呼吸して落ち着いてから足を広げさせ、潤滑油をたっぷり付けた指で肛門に触れた。






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