「ある晴れた日に」2
「ある晴れた日に」2








「何、してるんだ?」


あり得なさすぎて脳が思考を放棄し、ありきたりな台詞しか出ない
だが、間違いなく、何秒見つめても、あの、僕が知るLだった。

黒くばさばさとした髪、いぎたなく口に咥えた指。
猫背と……何より、あの目。

服装もあの頃のまま、長袖Tシャツに緩いジーンズ、素足に踵を潰したスニーカーだ。
尤も、今は暖かいので当時ほどの違和感はない。
拳銃も、コイツが持っていると玩具染みて見えるせいか、誰も見とがめないようだった。
いや、本当に玩具か?


「……日本から、出たんじゃなかったのか?」


Lは、答えずに物珍しげに僕を見つめていたが、やがて口を開いた。


「スーツ、やっぱり良く似合いますね」

「ああ……」

「ワンピースも素敵でしたが」

「……」


そこで、初めて左の手首に目を遣る。

そこには、銀色の手錠が掛けられていた。
ただ通常想像する手錠とは違い、鎖が長くなっていて
反対の端は、Lの拳銃を持つ右手に填まっている。


「……どういう、つもりだ」

「色々と考えたんですけど」


Lは悪びれもせず、がりがりと頭を掻いた。


「私はLとして、やはりキラを放置してはおけません」

「だから僕はキラじゃ無いって」

「あなたはキラです」


小声での会話だが、さすがに人目が気になってきたので、鎖を束ねて
出来るだけ目立たないように、人気の無い場所まで引っぱって行く。

その間に、何とか頭を整理して現実認識をした。
Lが再び僕の前に現れるなんて考えられなかったが、
実際現れてしまったのだから対処するしかない。


「L、悪いけど、冗談に付き合っている暇はないんだ。
 これから大学の入学式で、」

「首席として新入生代表挨拶をするんですよね?大した物です」

「……」

「調べましたよ、夜神ライトくん。『ライト』は『月』と書くんだそうですね?」

「……」


くそっ!
身元を知られたか。

まあ、こいつの力で本気で調べれば、すぐにバレる話だ。
警察官僚の息子だと分かっているんだし。


「正直、お父さんとの繋がりがなくともあなたの身元を調べるのは容易い事でした。
 それをしなかったのは、単に『朝日月さん』に対する礼儀です」


普通は、あんな別れ方をしたのだから気不味くて仕方ないと思うが
Lは時折銃を示唆しながらも、普通に話を続ける。
だから僕も、平静な顔をして普通に対応する事が出来た。

いや、敢えて普通に話す事によって、自分の頭を
冷静に保ちたかったのかも知れないが。


「なぁ。もう一度、謝る。お前を騙していたのは悪かった。
 でも今日は、僕の……一応、晴舞台だ。
 巫山戯るのはこの位にしておいてくれないか?」

「私を騙した?何を騙っていたのですか?」

「だから……。女の、振りをして」

「ああ……キラなのにキラじゃないと言い張っていた事かと思いました」

「L!」


くどい、と詰る代わりに、じゃらりと自分の左手の鎖が音を立てる。

何かと思えば、僕は無意識の内に右手を思い切り引いて振りかぶっていた。
どうするんだ?と、客観的に訝しむ自分を置き去りに、拳が勝手に
Lの頬を思い切り殴りつけていて。

気付けば「はぁはぁ」と、荒い自分の息づかいがやけにうるさい。

僕とした事が、今の状況も自分の服装も、Lの手の拳銃も、全て頭から消えて
我を失っていたようだ。

Lは軽く飛び、尻餅を付いていた。


「痛いですよ」


だが、頬に手を当てて無表情のままに言う、その声音に、
一瞬感じた「不味い」という思いが吹き飛ぶ。


「何度も言うが、僕はキラじゃない!
 下らない言いがかりで、僕の人生の門出にケチをつけるな!」

「まあ、認めないのは自由ですが、どんな理由があろうと」


Lはゆらりと立ち上がり、ぽん、ぽんと尻をはたく。


「一回は一回です」

「?」


次の瞬間、Lの頭がすっと下がったかと思うと、視界が大きくぶれた。
何が起こったのか分からなかった。

顔が地面に叩き付けられて、自分が蹴り上げられた事に気付く。

あれほど紳士的に僕を扱っていたLに暴力を振るわれたのは衝撃だったが、
僕はもう「女性」ではないのだから、当たり前か。
それにLの言う通り、先に手を出したのはこちらだ。

冷静に。冷静になれ。


「……本当に、時間がないんだ。頼むからこれを外して行かせてくれ」


口惜しいがこうしていても仕方が無い。
これ以上スーツを汚される前にと頭を下げたが、Lの表情は変わらなかった。


「行かせません」

「え?」

「あなたを、入学式に行かせません。
 というか大学にも行かせません」

「……」


その目を見て、ぞわりと。
全身の毛が、逆立つ気がした。


「何を……言ってるんだ?」

「キラとして活動しながら受験勉強をして、東大に首席で入学。
 素晴らしい経歴ですね。前途洋々です」


コイツ……。


「……でもその直前で、私はあなたからその未来を奪います」

「……」


完全に、本気だ。
まさか、僕がキラだという証拠を掴んだのか?
そんな馬鹿な!


「それが、私を裏切った、あなたに対する復讐です」

「冗談……」


……いや、違う。
コイツは、完全に自分の感情だけで動いている。

証拠や理が有るとか無いとか関係なく、
自分が信じているから。

僕がキラだと、信じているから。

だから、世界を動かせると言うLの権力を以て、独断で僕を。


「夜神月くん。私は今からあなたを誘拐します」


“逮捕”ではなく、“誘拐”……。


真っ直ぐに銃口が、僕を狙う。
“気違いに刃物”
そんな放送禁止用語が咄嗟に浮かび、僕は絶望に頭を振る。

まるで事務的な告知のように淡々と言ったLは
僕の顔を覗き込んで初めてニヤリと笑った。







  • 「ある晴れた日に」3
  • 戻る
  • SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送