「ある晴れた日に」3
「ある晴れた日に」3








「はぁ……僕が居なかったら、今頃騒ぎになってるだろうな……」

「どうでしょう。首席が欠席なら、次席に挨拶させるでしょう。
 あなたが思う程、あなたはかけがえのない人ではないと思いますよ?」


武道館の屋根を眺められるベンチで。
僕たちは座って(Lは座面にしゃがんで)缶コーヒーを飲んでいた。

携帯はLに取り上げられ、電源を切られているが、
もし入っていたら鳴りっぱなしだろう。


「そろそろ家にも連絡が行っているだろうな。
 下手したらもう通報されてるかも」

「家族にとっては異常事態でも、警察は、いい年をした若者が
 たかだか一、二時間行方不明になった程度では絶対に動きません」

「かもね」


僕は、鞄の中に入っている挨拶文を、何とかして次席に届けてやりたいと思った。
我ながら、よく書けてるんだ。
ああ、大学にもデータ送ったよな。
代読で良いから渡してくれると良いんだけど。


「本当にもう、家にも帰してくれないのか?」

「はい」


ぐびりと。
Lは、甘過ぎる事で有名な珈琲をあおる。

僕は、父や、母や、妹と交わした最後の会話を思い出した。
あまりにも……あまりにも普段通りだったが、まあ、こういった場合は
そんな物だろう。


「で。僕をどうするんだ?逮捕する?それとも、死刑に?」


動物的無表情の横顔を眺めると、上を向いて缶コーヒーを飲み干して、
春の日差しに少し目を眇めていて。
それが余計に獣っぽいと思った。


「……それとも、恋人に?」


Lを動揺させたくて言っただけで、本気だった訳ではないが。
彼は驚いた様子も無く、じわりとこちらに顔を向けた。


「色々と考えたと、言いましたよね?」

「ああ」

「それでまあ……あなたを無理なく監視し続けるには、
 一緒に暮らすしかないか、と」

「……え?」


ええっ?


「マジ?」

「マジです。あなたが月さんではないと重々分かってはいるのですが、
 残念ながら」


Lはそこで心底口惜しそうな顔をして、無造作に空き缶を放り投げた。
缶は見事に、離れた所にある空き缶入れに入る。


「……私はあなたを、忘れられませんでした」

「……」


どうして、こんなにも、動悸が激しいんだ。
男に……しかも宿敵に、愛の告白のような事をされて。


「……でも僕は、ゲイじゃない」

「私だって違いますが、贅沢言える身分ですか?」


ああ……そうだな。
ああ、そうだな。

僕が、デスノートを使わずに「退屈」という名の檻から逃げ出すには、
お前に囲われるしか無いのかもな。

そしてそれは、悪い人生じゃないかもな。



僕が黙っていると、Lはベンチの上で回転して、身体ごとこちらを向いた。



「だってあなた、キラですよね?」

「……」



今更。
でもないか、Lにとっては。

僕もブラック珈琲を飲み干して、空き缶を缶入れの方に投げる。
ストライク。



「……ああ。そうだ。僕が、キラだ」



何度も何度も同じ事を訊かれた。
その度に否定して来た。


だが、もう。


……Lがどんな反応をするか、興味深く観察したが。
彼はただ、少し伸びをして、足を地面に下ろしただけだった。


「ではそろそろ、行きますか」


その時、武道館の中でどんなパフォーマンスがあったのか。
ドッ、と、大勢が笑ったようなどよめきが漏れてきた。


外では、暖かい風が僕たちの頬を撫でていた。






--了--







※お読み頂きありがとうございました!
 恋に落ちていく二人をじっくり書いたのは初めてですが、意外と楽しかったです。
 一つ手前の章の最後で月が落涙したのは、らしくない気がしますが
 それを見てLの心が動いた、という設定なので仕方ない。(さりげなく解説)

 でも本来Lと月なら、恋愛関係が終わったらパッと頭を切り換えて原作通りに動き、
 手錠生活辺りで多少気不味い思いをする程度でしょうね。
 そんな二人も見てみたかったですが、今回は珍しくほのぼのと終わらせてみました。

 ところで男性とヤッて本当に気付かない物なのか?と誰しも疑問に思うわけですが
 「M.バタフライ」は実話だそうです。

 という事で、「東洋式のセックス云々」の理屈は現代とは合いませんよねー。
 ガリマールはそれで騙された(男性を女性と思い込んで愛人にしていた)そうなので
 ご容赦下さい。

 何か後ろ向きというか言い訳だらけの後書きですが、ありがとうございました!


 (各タイトルは「蝶々夫人」の歌曲から。偶々8曲で丁度良かった)






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