「ある晴れた日に」1 桜が散り、高校生でも大学生でもない、曖昧な短い期間を経て 僕は大学生になる日を迎えた。 新入生挨拶を大学から依頼されていたが、送った原稿には 早々にOKを貰っている。 自分で書いたのだし、もう覚えているが、一応プリントアウトした物を きれいに畳んで鞄に入れた。 「よっ!東大生」 揶揄って来る妹に苦笑を返し、人生初めてのスーツに袖を通す。 制服とは違い、自分で選んだネクタイを結んでいると さすがに身が引き締まる思いがした。 まあ、次は就職活動の時までスーツは着ないかも知れないが。 「本当にお母さん、行っちゃ駄目?」 「やめてくれ……ただでさえ新入生挨拶で目立つんだから、本当に困るよ」 「仕方ないわね……今日はご馳走作るからね。 寄り道しないで帰ってくるのよ?」 「分かってる」 玄関で靴べらを使っていると、父が追いかけてきた。 「ああ、行って来ます」 「待ってくれ。今日は駅まで一緒に行こう」 「良いけど……珍しいね」 そう言えば、高校時代は登校時間と出勤時間が合わず、 朝は殆ど会わなかったか。 今日ももう少し遅くて良いはずなのに、わざわざ僕に合わせて 早く用意をしてくれたのだろう。 何だか、本人より家族の方が浮かれてるな。 僕はまた苦笑して、靴を履く父を待った。 「背が、高くなったな」 「ええ?今更?」 「いや、こうしてお前と肩を並べて歩くのは久しぶりだから」 「……警察庁でも何度も会ってるよね?」 「ああ!……ああ、そうだったか」 Lの尋問を手伝うために。 警察庁で父と待ち合わせたのが、遠い昔のようだ。 「そう言えば、Lはどうしてるんだろうね?」 「さあ……全く姿をくらませているからな。 ここまで日本警察と関係が悪くなった以上、今後何かあった時に 協力してくれる事もないだろうし……」 「ごめん。僕が余計な事をしたばっかりに」 「いや!そんな事はない。実際、あれからキラは鳴りを潜めているし 因果関係は分からないが、おまえの功績だと思う」 聞いた話では、僕が訪ねたその日の内に武装した外国人が 警察庁に踏み込んできて、Lを救出して行ったらしい。 警察も、不法な手段でLを拘束していた以上大事にする訳にも行かず、 そのまま捜索もしていないそうだ。 だが、Lはどうやらキラ事件から手を引き、日本から脱出したという 情報も入っているとの事。 僕は……。 何だか、少し休憩が欲しくなったのと、ほとぼりを冷ます目的で キラの裁きを少し休んでいた。 「キラが、このまま消えてくれると良いね」 「ああ……手掛かりが消えて逮捕しづらくなってしまうが。 やはり、もう死人は出て欲しくないな」 Lの活動を監視し、名前を調べたいけれど。 このまま大人しくしてくれるのなら、まあ、放置しても良いか……。 乗り換え駅で父と別れ、入学式の行われる武道館へ向かう。 ショーウィンドウに映った自分のスーツ姿は、そこらのサラリーマンより 様になっていると思った。 『ライトも大学生か……感慨深いな』 まあ、死神を引き連れているスーツなんて、僕だけだろうけど。 九段下で降り、人混みに紛れて橋を渡り、北の丸公園の門をくぐる。 武道館の特徴的な屋根が近くに見えた時。 不意に、後ろから左の肘を掴まれた。 「?」 死神……?はすぐ横を飛んでいるな。 知り合い? 掏摸? 瞬間的に色々な可能性を思い巡らせながら振り向く。 その数瞬の間に手首に金属が当たり、がちゃりと嫌な音がした。 だが、その音の正体よりも。 そんな事よりも。 「お前……」 目の前に、小型拳銃をぶら下げたLが居た。
|