「さよなら坊や」4 Lを机の奥に座らせて父達が去った後、ドアに鍵を掛けてゆっくりと振り向く。 彼は相変わらず膝を抱え、僕を凝視していた。 僕は笑顔を浮かべ、Lの向かいに座って、後輩の女の子達がくれた お菓子を並べる。 「これ。食べる?」 いきなり言うと、さすがのLも面食らったような顔をしたが 数秒迷った後貪り始めた。 そんなに飢えているのなら、出された食事を食べれば良いのに。 僕が現れるのを待っていたのだろうか。 それともまさか、死神の言っていた、「甘い物しか食べない」というのは 本当だったのか……? Lが獣のように汚らしく食べ散らかした後、部屋に備え付けられた冷蔵庫から 水を出して渡すと、甘くないのが不満なのか暫く見つめていたが結局飲む。 「で?」 「……」 「どうして何も言わないんだ?」 「……」 満腹になった筈のLは、飢えた狼のような目で僕を睨みつけた。 「何とか言えよ。何か僕に言うことはないのか?」 「……」 「……」 たっぷりと五分ほど見つめ合った後、Lは面倒くさそうに 「……それ。制服ですか」 棒読みで訊いてきた。 「そうだけど!そういう事じゃなくて、」 「カメラ。本当に無いと言えますか?」 「絶対にない!盗聴器もない!父はそんな下らない嘘は吐かない」 「……」 Lはだるそうに、凝った首を解すように首を回すと、 また僕を見つめた。 「ならば証明して下さい。キラだと、白状して下さい。 盗聴されていないのなら言えるでしょう?」 まだ言うか。 カメラ云々はここに話を持っていく為の布石か。 「キラじゃ無い」 「話になりませんね」 Lは今度はぷい、と顔を背け、決して僕の目を見なくなった。 「L」 「……」 「僕の父は、さっきの警察官僚だ。これは本当だ。似ていただろう?」 「……」 「確かに僕はおまえを騙した。だが、どうしても警察に協力して Lとコンタクトを取りたかったんだ。 おまえなら、キラの情報を多少は掴んでいるだろう?協力してくれないか?」 「……」 「L」 どんなに言葉を尽くしても、Lは何も言わないだろう。 そんな気配があった。 まあ、それで良い。 余計な事を言われるよりは。 なのに。 その筈なのに。 「L」 「……」 「L……。L!」 僕は何を苛ついている? あんなに、熱く僕を見つめた目が。 今は冷たく醒め、僕を見もしない。 それが何故か、許せない気がした。 「こっちを見ろ!リューザキ!」 「リューザキ」と言う呼び名に、Lが初めてびくりと震える。 少しだけ溜飲が下がった。 そうか……こいつは。 月(つき)に。 「……L。分かったよ。カメラが無い事を証明してやる」 僕はゆっくりとネクタイを緩めた。
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