「さよなら坊や」3 翌日、つつがなく答辞を終えて同級生と少し喋った後、 その足で警察庁に向かった。 「あ、ライト君!お父さんがお待ちかねだよ」 「?」 「ああごめん。去年の事件で会ったんだけど覚えてないよね」 「えっと……すみません。受付の人はみんな同じ顔に見えて」 「あはは。それにしても凄い荷物だね。ああそうか、卒業おめでとう。 ……もしかして、貰い物ばかり?」 「ありがとうございます。後輩が、何だか色々くれて。 預かっていただけませんか?」 「ああ、良いよ。モテる男は大変だねぇ!」 「いえ、そんな事。……あ、これは持って行きます」 どうやら受付の男は、二度ほど女装して現れた僕には気付かなかったらしい。 軽く胸を撫で下ろしながら、捜査本部に向かった。 父に迎えられて、マジックミラー越しに久しぶりにLを見たが、 確かに窶れていた。 何故か胸が、締め付けられる。 Lなら、助けを呼ぶことも可能だろうに。 一人で活動している訳でもあるまいし、サポートメンバーを呼んで、 弁護士でも何でも頼んでさっさと出たら良いのに。 警察と繋がっていた僕が、キラだという可能性は消えたのだから、 もう日本を出ても良いのに。 「ライト、Lと会ってくれるか」 「ああ」 「その、その格好のままで大丈夫か?」 僕は自分の制服に目を遣って、思わず吹き出した。 確かに僕は女装してLと会っていたけれど。 それは正体を隠し、油断させる為だ。 今更別に、性別を隠す理由もない。 ……嘘を吐いていたのは、多少は気が咎めるけれど。 逃げるわけには行かない。 僕は胸を張り、取調室のドアを開ける父に、続いた。 僕を見たLは、驚くかと思ったが無表情だった。 だたじっと、あの殆ど瞬きをしない目で穴が開くほど僕を見つめる。 「……もう知っているだろうが、改めて紹介しよう。私の息子だ」 「……」 パイプ椅子の上で膝を抱えたLは、以前より小さく見えた。 元々痩せているが、更に肩の骨が尖った気がする。 「男……だったんですか」 「おお、久しぶりに喋ったな!」 僕は息を吐いて、腹を据えた。 「キラの役をするんだ。それ位の用心当然だろ?」 思う所があるのか、声に反応してか、Lの頬がぴくりと痙攣する。 そう言えば、本来の声……低い地声で彼の前で話すのは、初めてだな。 「なるほど……あの演劇、何故前世紀の中国が舞台なのかと 引っかかっていたのですが、立て襟で自然に喉仏を隠すためでしたか」 「そういう事」 Lは独り言のように呟き、その視線は僕に向けられていながら どこか通り越して、別の場所を見ているようだった。 僕は当然のように、キラだと言われたり、オカマ野郎と罵られたり、 こいつとアナルセックスをした、と暴露されたりする事を覚悟していたが。 Lはまた、父がどんなに宥めすかしても黙秘したままの、貝に戻った。 「父さん。ちょっと、Lと二人で話をさせてくれないか?」 「……分かった。では私は外そう」 「悪いけど、監視カメラも」 「……」 父は一旦退室し、十分ほどで戻って来た。 「特別会議室を借りられる事になった。窓も無い、完全な密室だ」 「そこで良い。ありがとう」 「だが」 そこで僕の腕を引き、声を潜める。 「……中から鍵を掛ければ、外からは開けられない。 万が一Lが暴れたら」 「大丈夫だとは思うけれど」 「ドアを破壊する事も有り得る。心してくれ」 Lが暴れて、ドアを破壊してくれて。 警官がLを射殺でもしてくれれば楽なんだけれど まあ、そんな都合の良い奇跡は絶対に起こらないだろうな。 僕は苦笑しながら、特別会議室とやらに向かった。 警官に両側に付かれて、Lも大人しく着いて来た。
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