「さよなら坊や」2
「さよなら坊や」2








……またいつもの戯れ言か?
それとも、もう、詰んでいるのか。
僕はここで、終わるのか。


「間違いありません。この命を賭けても良い」

「……」

「それでも私は、あなたを愛しています」



……何の、罠だ……。
僕をただ言葉だけでキラだと決めつけて、おまえにどんなメリットがある……。

太股の付け根まで這い上がってきた手を、思わず避けて
ベッドの上で身体を丸める。


「逃げないで下さい。月さん」

「だって」


それ以上触られたら。


「どうか私と一緒に、私の国に来て下さい」

「……え?」


え?


「どう、言う、」

「駆け落ちをしましょう、と言っています」

「……」

「あなたはキラですが、私はあなたを愛している。
 これ以上あなたに罪を重ねさせる訳には行きません」

「……」

「どうか身一つで私と一緒に来て下さい。
 これまでの罪の償い方は、これから二人で一緒に考えて行きましょう」


馬鹿かこいつ!
……いや。僕を油断させて拘束するつもりか?

いずれにせよ、Lは完全に、僕がキラだと確信している。
気付かない間に確証を握られたのかも知れない。

これは、一刻の猶予も無い。
このまま行為を続けられることも、本国に連れて行かれる事も、
僕の破滅を意味する。

……本来は、自分一人でLを始末するつもりだったが。

仕方が無い。
考えている余裕もない。
どうせ、警察公認のこの状態も、そろそろ潮時だったんだ。

僕は尻を触ってくる手を避け、身体を起こした。


「分かりました……。あなたがそこまで仰るのなら、行きます」

「……ありがとうございます」


Lも性的な動きを止める。
一難去った事に、小さく息が漏れた。


「でもその前に、父にだけは……挨拶をして下さい。
 今から一緒に、来て下さい」


これからこの自称演出家を、警察庁に連行する。
Lとして。キラ容疑者として。

これで自分でこいつを殺せる可能性は消えるが、僕もキラ容疑者から
外れるだろう。

以降は会うこともないだろうが、顔は見たんだ。
僕に出来る方法で、ゆっくりとLの名を調べれば良い。


「えっと。髪の毛、梳かした方が良いですか?」

「そうですね」

「髭はどうでしょう」


心なしかはしゃいでいるLを見ると、少し心が痛まなくもないが。
不自然さに気付かれる前に、考えさせる前に、
警察の手に渡して仕舞わなければ。





警察庁のロビーに着くと、大勢の警官に囲まれた。

もうちょっとさりげなく出来ないのか。
これではまるで大捕物だ。


「……どういう事ですかこれは」


こちらを振り向くLを見ず、僕は父に近付いた。


「父さん、この人だ」

「そうか……」

「リューザキさん、紹介します。父です」

「……」


目を合わせないまま言ったが。
これが恋人を家族に紹介する場ではない事は十分に分かっているだろう。


「あなたは承知していたんですか?月さん」

「……」

「それとも、最初からこのつもりで?」

「……」

「答えて下さい、月さん。月さん!」


馬鹿な男みたいに、叫ばないでくれ。
いやしくも「世界の切り札」ならば。

最後まで僕のライバルらしくあってくれ。


もう会う事はない。
さようなら。

L。






後日、父にLの取り調べの事を聞いた。
彼は自分がLである事は認めたが、後は全く黙秘しているらしい。


「水以外、殆ど何も口にしないんだ」


父も、Lがそう出るとは思わなかったらしく、憔悴している。


「死ぬつもりかな?」

「そうなっては……困る」


絞り出すような声に、心が痛んでいるような表情を作ったが
内心では勝ち鬨を上げていた。
Lが、死んでくれれば言う事はないが、せめてキラ事件に対する意欲でも
失ってくれれば、キラは勝ったも同然だ。


「月。おまえとは、ちゃんと話していたんだな?」

「ああ。彼は健常だし、頭が良いよ」

「そうか……」


父は頭を抱えた後、申し訳なさそうに僕を見つめる。


「悪いが、一度おまえから話してみてくれないか?
 おまえが彼がLであるという確証を引き出したんだろう?」


……まあ、そうなのだが。
冗談めかしたキラとLとしての会話。
どこで本物のLだと確信したかと言われても、困る。
しかし滅多に弱みを見せない父の頼みを、この僕が無下にすると不自然だ。


「分かった。明日卒業式が終わったら、そちらに顔を出すよ」






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