「さよなら坊や」1
「さよなら坊や」1








不味い。
本当に不味い。

一度してしまえば、後は流されるように毎夜Lと身体を重ねた。

最初は苦痛だったが、自分の精神をコントロールする事は嫌いではないので
すぐに平常心で口で奉仕する事が出来るようになった。

また、日々学習して予め腸の中を空にしたり、ローションを仕込んで置いたり、
自分で尻の穴を広げておいたりで、だんだん環境を向上させている。

それはあくまでも、不自然な器官で男を受け入れる苦痛を軽減する為だったが
気がつけばさしたる嫌悪感もなくLを飲み込んでいた。

それどころか。
Lに動かれて、中を擦られている時に。
じんわりと、身体の中心が痺れるような感覚を得るようになったのだ。


「ああっ、」

「どうしました?」

「いえ、」


額に、原因の分からない汗が滲む。
何故か涙ぐみそうになる、身体の奥から灼かれるような、むずがゆい感覚だ。
自分が勃起しているのを感じた時初めて、それが快感だと気付いた。

幸いにも、射精する事はなかったが。

Lが終わった後、僕は勃起が静まるまで身体を丸めて
気付かれないようにしなければならなかった。
しかもざわざわした気持ちが治まらず、そんな時は早々に自室に戻って
自慰をしたりした。




『おにいちゃん、一人でもちゃんと勉強出来てる?
 明日は遅刻しないようにね!』


妹からのメールに、ああ、明日はセンター試験だと少し憂鬱になる。
試験に関しては、自信があった。
Lに会わない昼間は、デスノートでの裁きの合間に勉強していたし。

だが丸二日会えない言い訳を、Lにするのが面倒だった。
さすがの僕も、本試験の前日や当日に、セックスで体力や気力を
消耗する気はない。


『試験、受けるのか?』

「ああ。その為に毎日勉強して来たんだろ?」


死神が、言わずもがなの事を訊いてくるので、つい苛々と答えてしまう。


『そうか?ここの所毎晩Lと遊んでたじゃないか』

「まあね。でも、僕なら両立出来るよ」

『もう、試験とかどーでも良いのかと思ってたぜ』

「まさか」

『落ちたらどうするんだ?』

「落ちないよ。絶対に」


リンゴを投げてやると、リュークは涎を垂らしそうになりながらむしゃぶりついた。
まあ、死神にとっては人間の試験なんて、リンゴよりどうでも良いんだろうな。


『ライト、知ってるか?』

「何」

『Lは、甘い物しか食わない』

「?」


そう言えば僕は、彼が自分の指以外を食べている所を見たことがない。
多少僕から離れられるリュークは、こっそりLの私生活を
覗き見ているのかも知れない。

それをつぶさに聞けば何かの役に立つかも知れなかったが
教えてくれないだろうし、教えて貰ってもアンフェアになるので聞かなかった。




結局僕は、Lに何も言わず試験に臨んだ。
勿論、携帯も発信器付きのカーディガンも置いて行く。

尾行されては敵わないので、わざわざ早朝にホテルを出て、
ぐるぐるとあちらこちらを回り、公衆トイレで制服に着替えて入試会場に行くという、
面倒な手間を掛けて二日間を乗り切った。

結果は、我ながら良く出来たと思う。
間違っていそうな所や、不安な部分がない。
自己採点では全教科満点だ。



試験が終わって、人生で一番の解放感に人恋しくなる。
この際、Lでも良いから会いたい、と思った。

ホテルに戻りシャワーを浴びてから、慣例を破って日中からLの部屋へ向かう。
途中電話をすると、ワンコールで出た。


ドアを開けてくれたLは、たった二日会わなかっただけなのに
懐かしそうな顔をしていきなり僕を抱きしめた。


「ちょっと、」

「会いたかった」


これ以上無く素直な、シンプルな言葉に、少し胸が苦しくなる。
だがこれから行われるであろう事に、胸が高鳴る気がしたのは
気のせいだろう。

それにしても、今日のLは何故か……。
初めて僕を抱いた日以上に、危険な匂いがした。


「もう、我慢できません」

「はい?」

「月さん。本名じゃありませんよね?」


……!
今何を、言い出すつもりなんだ。
動悸が激しくなる。


「ええ……、それは、まあ」

「どうか本名を呼ばせて下さい」


僕の、本名。
今更何故、……試験に行く姿を見られた?男だとバレた?


「あなたの全てが欲しい」


だがLは、まるで馬鹿な男のように……僕に欲情していただけだった。

そう考えれば、これはチャンスだ。
この瞬間の為に、僕はLと付き合ったんじゃないか。

Lの懐に入り込み、その正体を、知る為に。


「……あなたが、本当の名を教えてくれるのなら」


さらりと言ったつもりだが、Lは絶望したような顔をした。
やはり僕が……キラだと、思っているのだろう。


「マイクロフト・リューザキが偽名だと?」

「……」

「そう思うのは、キラの能力で私を殺そうとして、殺せなかったから?」


そう言えば、マイクロフト・リューザキの名前も、一応書いてみても
良かったかも知れないが。
僕は、そんな無駄な事はしない。


「そんな事してません!」


自分が馬鹿だと思われたようで、つい語気が荒くなってしまった。

売り言葉に買い言葉で、Lを詰るような物言いをしてしまうと、
突然Lの声が低くなる。


「ならば名前は要りません。月さんで十分です。
 その代わり、あなたの全てを見せて下さい。服を脱いで下さい」

「……!」


一体……どこまで気付いている?
男だと気付いている?

だが少なくとも、キラだという確証はない筈だ。
もしあったら、こんな悠長な事はせず、すぐに逮捕している筈。


「私があなたを愛したように、あなたも私を愛してくれたと思ったのは、
 私の勘違いですか?」

「いえ……いいえ」

「ならば、見せてくれますよね?
 全てを愛させてくれますよね?」

「でも私は日本人で」

「でも私はアメリカ人です。散々東洋式のセックスに付き合ってきました。
 偶には、西洋式も受け容れてくれても良いと思いませんか?」


いつになく強引な物言い。
僕を、抱きたいだけか?
それとも。

試験直後の、クリアな筈の頭が回転しない。
だがLの目が、「拒めば強姦する」と、語っているのは分かった。

仕方なく、のろのろとベッドに向かう。

考えろ。考えろ。
何とかこの場を切り抜ける方法を。
服を脱がされたり、股間や胸に触られたら一発でアウトだ。


覆い被さって来てキスをされたが、幸いにもLはいきなり襲っては来ず、
足を撫でて太股を舐めて来た。
気持ち悪いが、今の内だ。

考えろ。
考えろ。

だが。


「あなたは、キラです」


突然言われて、息が止まった。






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