「可愛がってくださいね」2
「可愛がってくださいね」2








「……早いですね」


現れたLは、いつも通りTシャツにジーンズ、素足に踵を潰したスニーカーだった。
この寒空に、屋外から来たとは考えられない。
全く、コイツは。


「少しでも早くあなたに会いたくて」


白々しい。
監視を外したどころか、ぎちぎちに貼り付かれていたんじゃないか。


「もしかして同じホテルですか?」

「はい」

「というか、何故ホテルや部屋番号が分かったのですか?」


僕が考えている事が分かったのか、Lは悪びれもせず
「すみません」と一言だけ謝った。


「まあ、仕方ないですね。Lとキラなら。
 私の方が迂闊でした」


嫌味混じりに言うと、Lは黙って部屋に入ってくる。
くるくると辺りを見回した後、クローゼットに顔を近づけて隙間から
中を覗いているようだった。
誰か他に居ると思っているんだろうか。

……居るよ。
おまえのすぐ後ろを、飛んでいる。

Lはくるりと後ろを振り向いて、指を咥えたまま真顔で僕を見つめた。


「月さん。確認しておきたいんですが」

「はい?」

「あなた……キラなんですよね?」


……突然、何を言い出すんだ。
コイツの藪から棒な言動には慣れて来ていたので、何とか表情を崩さずに済んだが


「そうでしたね。舞台上では」

「マジな話なんですけど」

「……」


ここで、決着を付けると言うのか?
長らく音信不通だった割に、急だな。

今ここで、こいつを事故に見せかけて殺す事は可能か?


「私はあなたに渡した携帯で、あなたの居場所を監視していました。
 あなたがキラでなければ、洒落にならない行為ですよね?」

「……」

「でもあなたは怒らなかった。
 ……キラだと思って、良いですか?」


いや、無理だな。
用心しているだろうから不意打ちは無理だし、力尽くで相手を殺すには
かなりの力量差が必要だろう。

見た所体格は互角。
僕の方が若いし運動をしていると思うが、勝てる保証はない。


「……私がキラだとして」

「はい」

「だとしても、キラだとこの口から認める訳には行かないと、思いませんか?」

「それもそうですが」


考えろ……考えるんだ。
この場で、答えずに済む方法。
そして出来れば同時に、こいつがLだと、確証を得る方法。


「もしあなたが、自分がLだとはっきり認めて下さるのなら、
 キラも、自分がキラである事を認めるかも知れません」

「なるほど。Give and take ですね」


ストレート過ぎたか。
だが、スマートとはほど遠い外見の男から、滑らかな発音の英語が飛び出して
思わず笑ってしまった。

良いぞ。
リラックスしろ、僕。
まず紅茶でも入れながら考えよう。
Lに背を向け、唇を湿らせてから口を開いた。


「何故そんなに、結論を急ぐのですか?」

「?」

「我々がLとキラだとして、こうして出会えた事を、
 もっと楽しみたいと思いませんか?」


面白い事を聞いた、といった顔で目を見開くLに、手でソファを示して勧める。
その上に腰掛けた……というかしゃがんだのを確認し、
サイドボードの上の、盆に伏せてあるカップを二つ、上向けた。

色仕掛けでも何でも良い。
今は……とにかく油断させなければ。


「私は、あなたが本物のLだと思っています」

「はい」

「世界一の探偵が、しがない女子高生に興味を持ってくれるのは、
 私がキラだと思っているからですよね?」


Lは答えず、僕がティーバックの包装を破いてカップの中に入れるのを
じっと眺めている。


「正直、私がキラなんかじゃない、平凡な夢見がちな女の子に過ぎないと、
 あなたにバレて、あなたが離れていくのが怖い」

「……」

「だから、自分がキラだとも、キラじゃないとも、はっきり言えない。
 ……という事に、しておいてくれませんか。今は」


おまえの前に居るのは、日本の馬鹿な女子高生。
の皮を被ったキラ。
の皮を被った女子高生だ。

Lを呆れさせ、攪乱する為に面倒くさい事を言ったが、
Lの目は逆に、座った。
何だ……?


「そのお茶、要りません」

「どうしてですか?毒なんか、」

「夢見がちな女の子であっても、夜遅くに男を部屋に入れるという事が、
 どういう事かは分かっていますよね?」


男が突然、ソファの上に立ち上がる。
見下ろされて動じてしまい、ティーポットを取り落としてしまった。

Lは爬虫類のように表情のない目のまま、すとん、とソファから飛び降り、
僕に向かって来る。

思わず後ずさったが、Lは歩みを止めない。
やがて、膝の裏にベッドの角が当たった。


「私、」


何とか逃れようとしたが素早い手に腕を掴まれ、引き寄せられる。
思わず目を閉じると、いつかと同じくキスをされた。
舌が、入り込んで来る。

この状況……もうここで拒んで、強引な事をされて男だとバレては
全てが終わる。

僕は覚悟を決め、Lの舌に自分の舌を絡めた。

ここでLを逃がす訳には行かない……。
上手く行くかどうかは分からないが……自分の身体を犠牲にしてでも、
ここは乗り切らなければ。
まずは従順に、言う事を聞かなければ……。






  • 「可愛がってくださいね」 3

  • 戻る
  • SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送