「可愛がってくださいね」1
「可愛がってくださいね」1








Lに押しつけられた携帯電話を、肌身離さず持っていたが着信はなかった。

僕がキラではないと、判断したのだろうか……。
いや奴は本当にただの演出家で、女と見れば声を掛けているだけ、か?
まさかな。

Lに居場所を知られている以上、尾行される可能性があるので家にも帰れない。
どっちつかずの状態は精神的に厳しいが、「キラ役をした」リスクを考え、
経費でホテルに連泊させて貰えるので有り難かった。

持ち込んだ参考書で日がな一日勉強をして捗ったが、気は晴れない。


『なー、ライトー』

「……」

『おい、無視するなって』


見た所、監視カメラはなさそうだが

……盗聴器を仕掛けられているかも知れないからしばらく話さない……

そう書いたメモを見せる。
だがリュークは首をぐるりと捻った。


『何て書いてあるんだ?』

「……」


仕方なく、部屋を変えた。


『盗聴器かー、気がつかなかったな』

「この部屋に来たのは偶然だから、まだないと思うけれど
 今後僕が部屋を出る事があったら、誰か何か仕掛けに来ないか見てくれ」

『死神使いが荒いな』

「おまえだって、僕と話せないのは困るだろ?」

『リンゴを囓れないのも、確かに困る』


それから数日経ったが、Lからのコンタクトは無かった。
もう監視されていないのだろうか……。
それとも、僕が動くのを、待っているのか……。

そう思った頃、父から電話があった。
そろそろ報告をしに、警察庁に来いという話だった。




Lに尾行さられているかも知れないので、また女装をして部屋を出る。
気恥ずかしいが仕方ないだろう。

Lから貰った携帯電話は……置いて行く事にした。
Lを始末する前に、僕がLと関係を築いている事に気づかれては不味い。

警察庁の入り口で父と待ち合わせたが、僕の姿を見て何とも言えない顔をしていた。


「月……」

「ごめん、父さん。その、まだLやキラに監視されている可能性があるんだ」

「ああ、ああ、そうだな」


イヤリングをしてスカートを穿いた息子の姿はさぞや情けないだろうが。


「いや、私が選んだ服も中々だな、と……」

「……ああ、うん。でもこれ以上買って来なくて良いよ」


それから父と長官に会い、状況をある程度捏造して報告した。


「と言う事で、その女性誌の記者か、三日とも最前列に座っていた客か、
 どちらか、あるいは両方Lの関係者かと思います」

「その、君はキラだと思われているのかね?」

「はい。恐らく。
 もうしばらく現状を維持してLの誤解を解かず、何とか捜査本部に
 連れて行きたいと思います」

「うむ。頼む。申し訳ないが、君が頼りだ。
 本物のキラの方にも重々用心して、もうしばらく囮を頼む」




長官に、「もうしばらく」と言われてしまった。
何だかんだと言っても、警察としてバックアップ出来るのは、
あと僅かという事だろう。

まあ、仕方ないな。
彼等としては、一般人を囮に使うなんて恐ろし過ぎるだろうから。

……しかし、あまりにもLの気配がないのは、怖いな。

僕をキラ容疑者から外してくれたのなら万々歳だが。
それも、確かめなければ。



その日は勉強も手に着かなかった。
夜、シャワーを浴びて髭を剃った後、遂に僕はLの携帯を手に取った。


『はい』


数コール後出た声は、予想外に冷たい。
思わず、たじろいでしまった。


「あの……舞台でお世話になった、朝日月です」

『ええ、分かってますよ』


何だその、そっけ無い返事は。
そちらから「連絡待ってます」とか言って電話を渡して来たくせに!


「お久しぶりです」

『そうですね。十日ぶりくらいですかね』

「……」

『何でしょう?』


これは、もう僕に興味が無くなったと見て良いだろうか。
ならば出来るだけ早く始末しなければ。
このまま切られるのは、不味い。


「あの……お会い出来ないでしょうか」

『今からですか?』

「え?」


この時間に?
それって……別の意味で不味くないか?


『大丈夫です。伺います』

「え?あの、」


またしても急展開に、舌が縺れる。
待ってくれと言おうとしたら、電話は既に切れていた。

……って!

ホテルも変えたのに、どうやって来るつもりだ?
前の部屋に行くのか?

そうか……GPS携帯。
ずっと電源を入れていたから、簡単に位置なんか特定出来るか。

まあ、その為に自宅に帰らずホテル暮らしを続けていたんだから、
構わないが……。


そこまで考えて、青ざめる。

慌てて携帯電話の充電器を取り出し、携帯工具で解体した。

……良かった……盗聴器らしき物はついていない。

続けてカーディガンを調べたが、一番下のボタンが、チップ入りの物に
取り替えられていた。
まあ、この大きさなら発信器程度か。
セーフだ。

まさかLも、僕が死神と会話をするなんて予想せず、盗聴に重きは
置かなかったのだろう。

しかし、だとしたら、何しに来るんだ?
やっぱり……そういう、事だろうか……。

いや、最悪の事態に備えるべきだ。

慌てて女物の服を着て、財布に入っていたコンドームと備え付けのベビーローションを
マットレスの下に隠した所で、部屋がノックされた。






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